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【ほぼ百字小説】(5292) トンネルを掘るのは便利にするためではなく、途中を暗くして見せたくないものを見えなくするため。ピラミッドを解体するのは意思決定の円滑化のためではなく、責任の頂点を不明にするため。そういう工事だけは早い。
 

【ほぼ百字小説】(5291) たまに天使が降りて来て、天使の取り分を抜いていく。まあ天使の取り分なら仕方がないかな、とこれまでは思っていたが、最近ちょっと多くなってないか。だいたい、あれって天使なのかな。貧血気味の頭で考えている。
 

【ほぼ百字小説】(5290) いつもの路地で蝶を見かけ、カメラを向けて何度もシャッターを切ったが動きが速くてまるで捉えられず、あとで見ると、いつも見ていたのとはだいぶ違った見えかたの路地の写真があって、そういうことだなあ、と思う。
 

【ほぼ百字小説】(5289) またあの蝶だ、と思う。路地の中にあるいちばん細くて古い道を抜けて、ここまで来てくれる。蝶の寿命がそんなに長いはずはないが、でも間違いなく同じあの蝶だ、と見るたびに思う。なぜそう思うのかは、わからない。
 

【ほぼ百字小説】(5288) そんなつもりはなかったのに、いつのまにやら波の下にいたらしい。自分でも気づかないうちに潜行していたのだな。それにしても、自分に潜望鏡なんてものがついていたとはなあ。まあだいぶ旧式なのはわかっていたが。
 

【ほぼ百字小説】(5287) あの怪獣は人間よりずっと長生きで、だからあの戦争を体験した人間がみんな死んでしまった後も生きている。あの怪獣のお陰で、この町の上に爆撃機は来なかった。感謝していた人たちも、もうみんな死んでしまったが。
 

【ほぼ百字小説】(5286) 判子だったのか、と駐車場のアスファルトを見て思う。洗ってもしばらく落ちない。そして落ちた頃、また誰かがここに押す。あそこから落ちれば、ここに押されるのだ。自分がどんな判子なのかを自分が知ることはない。
 

【ほぼ百字小説】(5285) あの老人が皆に大切にされるのは、皆が欲しがっているもので出来ていると信じられているから。老人が死んだら老人をバラして皆で分け合うことになっていて、分けかたも、もう決まっているとか。本当だったらいいね。
 

【ほぼ百字小説】(5284) 一気に解放する時のためにエネルギーを溜め込んでいて、その巨大なエネルギーを抑え込むために、身体もかなり変形していたのだろう。あの猫がまるで猫に見えなかったのは、そのせいか。もう飛んでいってしまったが。
 

【ほぼ百字小説】(5283) ついに念願のリングが完成し、内側と外側が分断された。お前たちは入れてやるものか、と宣言していた通り、いくら入りたくても入れない。もちろん、いくら出たくても出られないが、志願したのだからそれは問題ない。
 

【ほぼ百字小説】(5282) あの日みんなで埋めたタイムカプセルを開けるときがついに来たのだが、いや、開けるにしても事前に目を通して、まずいところは黒塗りに、とか、誰の責任で開けるのか、とか揉めに揉めたあげく、もう開けないことに。
 

【ほぼ百字小説】(5281) 夏が近づいて、このあたりの住民たちは夏眠をするための準備に取り掛かっている。そんな時期に通りかかると、いつも彼らが羨ましくなる。まあ秋になればなったで、冬眠の準備に取り掛かる連中が羨ましくなるのだが。
 

【ほぼ百字小説】(5280) 呼び名からして河童と同様、水辺の妖怪か。そう思ったときには、もう魅入られている。その身に纏った水の中から餡色の瞳で見つめてくる。食べるな、と自分に言い聞かせたところで、頭の中はすでに水饅頭でいっぱい。
 

【ほぼ百字小説】(5279) 見せてくれたのは、なんと小指の先ほどの大きさの猫なのだ。茶と白と黒の三毛猫そのままの配色で、そのまま小さい。これはいいなあ。飼いたくてたまらないが、そのためには、ひとさし指大にならねばならないらしい。
 

【ほぼ百字小説】(5278) パソコンのキーボードの具合が悪くて結局、外付けのキーボードを買ってきて、キーボードの上にキーボードを載せる。何かのことわざみたいになってしまったが、まあ私の小説には似合っているのかも。亀に似ているし。
 

【ほぼ百字小説】(5277) 次から次へと問題が持ち上がって、もうテレビの中だけで行うことに。もちろんテレビ局にも異存はない。最初からこうしていればよかった。テレビの中で笑っている。視聴者も笑っている。テレビはタダだと思っている。 
 

【ほぼ百字小説】(5276) そればっかり履くから破けてしまって、ほど良い短パンがない、とぼやいていたら、妻がフリマで百円で買ってきてくれた。ほど良い。そして私くらいの人間が履くと、たとえ百円の短パンでも百五十円くらいには見える。
 

【ほぼ百字小説】(5275) 外海に捨てたはずの鯨の死骸が、怪獣化して帰ってくる。怪獣は何かに惹かれるかのように万博会場である埋立地に上陸するが、踏み抜いたアスファルトから噴き出したメタンガスによって大爆発。その頃、東京では――。
 

【ほぼ百字小説】(5274) 時を遡って伏線を張ってくるだけの簡単な仕事。そう聞いて引き受けのだが、せっかく張り巡らせたどの伏線にも主人公はまるで気づいてくれず、仕方がないから代わりに回収を続けていくうち、いつのまにやら主人公に。
 

【ほぼ百字小説】(5273) 妻は指だけ安静状態。針金入りの小指だけがぴんと立ったその形は、そういうマイクの持ちかたをする人のそれで、見るたび笑ってしまうが、小指が使えないだけでこんなに不自由。骨折って知る小指の恩、てなところか。
 

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