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【ほぼ百字小説】(5272) ずっと葉っぱだとばかり思っていたが、よくよく見ると緑色の薄っぺらな手で、それらが蔦のようにあの空き家を覆いつくしていたのだ。手だとわかったのは、これまでパーだけだったのに、グーやチョキが出てきたから。
 

【ほぼ百字小説】(5271) 空き地に幽霊が出る。雨が続くと伸びる。大人の幽霊ではないのに大人より背が高くなったり。空き地を埋めつくす幽霊たちで地面が見えなくなる頃、全ての幽霊が刈り取られる。刈り取るところは、まだ見たことがない。
 

【ほぼ百字小説】(5270) ルーレットだったのか。巨大なリングが完成してからそうだとわかる。負けることは決まっている。軟弱地盤の上に作られた水平ではないルーレットだ。もう有り金は勝手に黒に置かれた。玉は赤字にしか止まらないのに。
 

【ほぼ百字小説】(5269) 幽霊祭りがあると聞いてさっそく来てみたのに、それらしきものはどこにもない。幽霊の祭りではなくて、幽霊部員みたいなものなのかな。お祭りの券だけを買ってお祭りには行かない幽霊参加者という方法を勧められた。
 

【ほぼ百字小説】(5268) 夜、三十分ほどかけてゆっくり走るコースがあって、順番に現れるいろんなものやいろんなことに呼び名をつけ、頭の中でその呼び名にもっとふさわしい形を与える。ゆっくり走りながらその風景の中へと入っていく遊び。
 

【ほぼ百字小説】(5267) ガラスケースに入った人形が道路脇に捨てられて回収を待っているのだが、そのガラスケースは鎖や縄で何重にもぐるぐる巻きにされていて、おまけにケースの両開きの扉に何枚も貼り付けられているのはお札らしいのだ。
 

【ほぼ百字小説】(5266) またやるって言ってるよ。勝つまでやるだろうね。そして、勝ったって言うだろうね。負けたんだからもう文句は言わせないって。それとは何の関係もないことにも。まあそのためにまたやるって言ってるんだろうけどね。
 

【ほぼ百字小説】(5265) 坂が好きなのに近所には坂がほとんどない。それでも、こんなところに、という場所に坂はあって、新しく見つけると嬉しくてその坂に名前をつける。坂でなくても坂の名前を付けると坂になることには、最近気がついた。
 

【ほぼ百字小説】(5264) 真夜中、どこからか話し声が。はて、と耳をすますと、どうやら小さな話たちが話しあっているらしい。お互いの小さな話について話しあうその中から、またひとつ話が生まれ、話の輪に加わる。そんな話も聞いたような。
 

【ほぼ百字小説】(5263) 娘が日傘を差して行った。あいつが日傘なんか差すとは。作るだけ作ったままでずっと使わなかったコンタクトレンズも使い出したし、いろいろ変わった。あ、あいつの好きな胡瓜がもうなかったな。今日スーパーで買おう。
 

【ほぼ百字小説】(5262) たまに錨が落ちている。どこから下ろされているのかは知らないが、それに身体を縛りつければ、出発のときいっしょに引き上げてくれる。あ、もう先客が、と思ったらそうではなく、錨に縛られて投げ込まれたのだとか。
 

【ほぼ百字小説】(5261) 木の枝に傘がぶら下がっている。あんなに高い枝にいったい誰が柄を引っかけたのか。首を傾げていると、ばさ、と開いて、逆さまのまま何度か羽ばたき、くるりと反回転して夕空に消えた。蝙蝠傘はああやって眠るのか。
 

【ほぼ百字小説】(5260) 急降下に宙返りにきりもみに逆走、怖いジェットコースターにもいろいろだが、なんと言ってもいちばん怖いのは、安全性に不安があるジェットコースター、と確信している今だが、これ本当にジェットコースターなのか。
 

【ほぼ百字小説】(5259) ジェットコースターに乗っていることに気づいたのは最近。ゆっくり登っているとき、それがジェットコースターとはわからない。長い登りが終わった今、もうみんな悲鳴をあげているから、わざわざ教えなくてもいいか。
 

【ほぼ百字小説】(5258) 頭と両肘の三点で倒立すると、地球を押しながら宇宙を飛行する自分の姿がイメージできて楽しい。足で立っていても地球を押していることに変わりはないのにそうならないのは、当たり前のような当たり前でないような。
 

【ほぼ百字小説】(5257) あの潰れた会社には今も泥の社員が残されていて、いろんな仕事をさせることができる。正社員の命令には従うから、偽の社員証があればいい。泥社員が偽社員に使われてるわけだね。これが偽造社員証、お安くしとくよ。
 

【ほぼ百字小説】(5256) 舗装されてからはもうわからなくなってしまったが、まだ路地の地面が土と砂だった頃には、朝見ると波が作った模様があちこちに残ってたりしてね。ああ、夜のうちに海が遊びに来てたんだなあ、とかわかったもんだよ。
 

【ほぼ百字小説】(5255) 夜道でこの世のものではないものに出くわしてしまったときは、なんにも見なかった顔でそのまますれ違うこと。そこまではやれるが、振り返らず早足にもならず普段通り家まで歩き続けるのは難しい、と今実感している。
 

【ほぼ百字小説】(5254) 猫ロボが、酒と料理を運んでくる。人手が足りないので、猫ロボの手を借りるのが普通になった。しかし人間がやっていたときより速い。それに安くてうまくて量も多い。皆大満足だが、奥に狸ロボがいることは知らない。

【ほぼ百字小説】(5253) 亀鳴くという季語があるから亀は鳴くと思われているかもしれないが、亀は鳴かない。それでも、鼻息がぴいぴいと鳴ることはある。細い息でラッパを吹くとよく似た音が鳴ることがあって、そんなときは亀になった気分。

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