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【ほぼ百字小説】(5255) 夜道でこの世のものではないものに出くわしてしまったときは、なんにも見なかった顔でそのまますれ違うこと。そこまではやれるが、振り返らず早足にもならず普段通り家まで歩き続けるのは難しい、と今実感している。
 

【ほぼ百字小説】(5254) 猫ロボが、酒と料理を運んでくる。人手が足りないので、猫ロボの手を借りるのが普通になった。しかし人間がやっていたときより速い。それに安くてうまくて量も多い。皆大満足だが、奥に狸ロボがいることは知らない。

【ほぼ百字小説】(5253) 亀鳴くという季語があるから亀は鳴くと思われているかもしれないが、亀は鳴かない。それでも、鼻息がぴいぴいと鳴ることはある。細い息でラッパを吹くとよく似た音が鳴ることがあって、そんなときは亀になった気分。

【ほぼ百字小説】(5252) 犬くらいの大きさで犬みたいな形の雲が、二階の窓のすぐ外によく浮かんでいた。近所に同じような記憶を持っている者が何人かいるから、たぶんあの雲はいろんな家の二階を行き来していたのだろう。シロと呼んでいた。

【ほぼ百字小説】(5251) 幼い頃から胡瓜にはなんにもつけず食っていた娘が、今朝は塩をつけていて、大人になったからか、と尋ねると、いや、今の胡瓜はまだ甘くないねん、夏になったらそのまんま食べる、と。世の中、知らないことだらけだ。
 

【ほぼ百字小説】(5250) いつも自分だけが生き残るのは、体験を語る役だからか。前から漠然とそう感じてはいたが、こうなってしまうともう語り聞かせる相手もいない。いや、これから来るのか。なんにも無い地上に立って星空を見上げている。
 

【ほぼ百字小説】(5249) 長いなー、と感じてからが長くて、でもそれが誉め言葉になる、というのがそのおもしろさだが、長いなー、が退屈さを表す言葉になる場合のほうがはるかに多い、というかそっちが普通で、つまり普通じゃないんだろう。
 

【ほぼ百字小説】(5248) あの更地、何が建つのかなと思っていたら、建てた端から傾いて沈み始め、今では「底なし沼予定地」という看板と完成予想図が。最初からそういう計画だった、で乗り切ろうという対策も含め、かなりの底なし沼らしい。
 

【ほぼ百字小説】(5245) 雨の降り始めにとんたんとんたん鳴り出すのは宇宙船の外壁のトタン板。無重力の宇宙空間に雨が降るのか、と首を傾げる者もいるが、宇宙は広いのだ、ところによっては降る。その場合は大抵、船の進行方向が上になる。
 

【ほぼ百字小説】(5244) 雨が降ったら電車が止まる。ことわざにでもなりそうなほどの土砂降りだったが、一転今朝はからりと晴れて、いい事があったわけでもないのに、何かいい事でもあったような気分。いや、これがそのいい事、ではあるか。
 

【ほぼ百字小説】(5243) 下水道に潜んでいた。下水道に潜むのは、人目を避けてこっそり力を蓄え、身体を大きくするためだったが、もはや隠れる必要などなくなった。充分な力と大きさを手に入れた今、誰が支配者なのかを教えてやるとしよう。
 

【ほぼ百字小説】(5242) 次々にいろんなところが綻んで、これまで覆い隠していたところが見えてしまいそう。自分たちの身体であわてて覆い隠そうとしているが、そっちのほうが見られてはまずいものだということに当人たちは気づいていない。
 

【ほぼ百字小説】(5241) またあのテントがやって来た。夜の中に赤い灯が浮かんでいる。夜に包まれたテントの中から見る夜は、普段の夜とはずいぶん違って、いつまでもどこまでも続くかのよう。もちろん、いつまでも続くものなど無いのだが。
 

【ほぼ百字小説】(5239) ゲラが来た。ゲラは昔の自分に似ていて、そこが懐かしくもあり恥ずかしくもあり。何日かを共に過ごしてから、ゲラはまた旅立っていった。あのときのゲラでございます、と見違える姿でまた訪ねてきてくれたらいいが。
 

【ほぼ百字小説】(5238) 二人きりになった途端、封筒に入った蒟蒻のようなものを手慣れた動作でポケットにねじ込まれ、まいったなあ、どうしよう、とぼやきながらも緩んでしまう口もとを引き締め帰宅して、封筒から出てきた蒟蒻を見ている。
 

【ほぼ百字小説】(5237) 水底での冬眠ですっかり藻に覆われて緑色になっていた甲羅を今頃になって亀の子束子で磨いてやったのは、そんなことが書いてある小説のゲラが来たからだが、それを亀が喜んでいるのかどうかは、やっぱりわからない。
 

【ほぼ百字小説】(5236) 昔から占いに使用されたように、亀からは未来の情報が引き出せる。正確には、この世界を甲羅に載せている亀とこの世界にいる亀が甲羅に載せている世界とは相似形だから、シミュレーションに使える、ということだが。
 

【ほぼ百字小説】(5235) 雨の中、高校の制服姿の男女が列になって歩いている。誰も傘を差していない。ずぶ濡れなのに、晴れた空の下の遠足みたいに男も女もきゃらきゃらとはしゃいでいる。高校生ではなく、新しいタイプの狐の嫁入りかもな。
 

【ほぼ百字小説】(5234) 雨の降り始めにはいつも、台所から張り出した小さなトタン屋根が、とん、とん、とん、と鳴る。誰かがノックしているようにしか聞こえなくなったのは、いつからなのだろうな。つい返事をしてしまったあのときからか。
 

【ほぼ百字小説】(5232) 朝起きて空を見ると、筋のような雲が何本も並行に伸びて、どこまで行っても青と白の縞模様。それが見る見る降りてくる。何日か前から近所のいろんなものが縞模様になっていたのはこのためか。縞に紛れて生きるのか。
 

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