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【ほぼ百字小説】(4978) 小型の肉食獣のようにトレーラーの横っ腹に爪を刺し入れて肉を毟り巣へと運ぶ毎日で、こいつさえあればエイリアンの女王とだって戦えるぞと思った。フォークリフトを見ると今もあの感覚を思い出す。戦ってないのに。

【ほぼ百字小説】(4977) 土に潜ることにした。細いアンテナを一本だけ外に出しておくが、見つからないように笹薮に紛れ込ませようと思う。見つかってもいいように周辺の土に似たようなアンテナを何本も立てる者もいる。どっちがいいのかな。

【ほぼ百字小説】(4976) 風景画の中や盆栽の上を想像で歩き回る訓練を重ねて、いよいよ鏡に映った自分の上を歩き回る訓練に入った。いつかあの頭山に登ってみたくて始めたことだが、もちろんあの話と違って、己を乗り越えるために登るのだ。

【ほぼ百字小説】(4975) マルス3号は、人類が初めて火星に軟着陸させた探査機だが、通信途絶でずっと行方不明になっていた。それが今ごろ発見されるとは。空き地で小学生が見つけたらしい。探していたボールはまだ見つかってないそうだが。

【ほぼ百字小説】(4974) あの頃のことを思い出すと、いつも雨が降っている。もちろんそんなはずはないから、記憶がそんなふうに変形してしまったのだろう。フィルムで撮影された昔の映画は、古くなると雨が降ったとか。そんな感じなのかも。

【ほぼ百字小説】(4973) 甲羅の上に太陽電池を取り付けることで甲羅を干す代わりに発電を行い、その電気を売って生計を立てる、という案が提出されたが、まともに甲羅も干せなくていったい何のための長生きなのか、との意見が大半を占めた。

【ほぼ百字小説】(4972) 亀の甲羅の曲面は五角形と六角形が組み合わさって出来ていて、同じ甲羅の上で生きてはいても五角形の上に立つ者と六角形の上に立つ者とでは、世界の捉え方がまるで違っており、決して譲ることはできないのだという。

【ほぼ百字小説】(4971) 遡る川はここでよかったはずだが、いまいち確信が持てないのは、もう川ではなくなっているから。あちこちに川だった頃の痕跡は見てとれるが、でもやっぱり確信は持てなくて、きょろきょろしながら路地を遡っていく。

【ほぼ百字小説】(4970) 昨夜は風が強かった。今年も亀の盥に氷が張った。氷の表面には飾りガラスのような凸凹があって、水面を吹いていた風がそのままの形で凍りついているかのよう。そんな凍りついた風越しに水底で眠っている亀が見える。

【ほぼ百字小説】(6969) この国に来てまず驚いたのは、そこらの川に亀がたくさんいることで、だから飼うことになった猫にも亀という名前をつけたのだという。かめー、かめー、というあの声は、たまに外に出ていってしまう猫を探している声。

【ほぼ百字小説】(6968) 傘がない。でも、行かないわけにもいかなくて、雨と同じ速度で落下しながら行くことにする。目の前の雨粒が相対的にほぼ静止している。水晶玉のように世界を映している無数の雨粒の隙間を身体を変形させ抜けていく。

【ほぼ百字小説】(4967) アスファルトの上に何かが落ちていた。ジグソーパズルのピースか。あの形あの大きさの茶色のピース。公園を歩いていると土の上にもまた、と思ったがよく見るとそんな形の空白だ。あれを嵌めといたほうがいいのかな。 

【ほぼ百字小説】(4966) 霧の中に何かが隠れてるんじゃなくて、その存在確率が霧のように拡散しているんだよ。広がってる中に存在の濃いところと薄いところがあるだけ。行方不明になった連中もそうなったんだ、こんなふうにね。霧が言った。

【ほぼ百字小説】(4965) 謝りたい謝りたいって、なにもこんな遠いところから謝らなくっても、あっちでたっぷり謝る時間はありますから大丈夫ですよ。いやいや、きっとあなたもあなたのお仲間も、みんないっしょに行けますって、同じ地獄に。

【ほぼ百字小説】(4964) 少しずつ遠ざかっていく。遠ざかり続けている。そう思っていたが、違うな。遠ざかっているのではなく、小さくなっている。この自分だけを残して。もうみんな豆粒のようだ。あの怪獣の孤独がやっとわかった気がする。

【ほぼ百字小説】(4963) 電車の中から動く景色を眺めている。もっとよく見たいものもあるが、通り過ぎてしまうし、何を見たかったのかも忘れてしまう。電車はたまに停まるが、降りられないと知っている。この電車、自分の身体でもあるから。

【ほぼ百字小説】(4962) 自分で書いたんと違ごてAIに書かせたんやないか、とか言うたところで、そもそも言葉っちゅうのが借りもんで、借りた言葉が勝手に考えてくれたことをただ書き留めてるだけやと思うけどな。今書いてるこれも、そう。

【ほぼ百字小説】(4961) 駅までいっしょに歩いた。雨は上がって、雲の切れ目に青空が見えた。昨夜の真夜中に月着陸に成功したらしい機械の話をした。改札口に入っていくのを見てから、線路沿いにひと駅分歩いて、いつもの店のいつもの席へ。

【ほぼ百字小説】(4960) 猫たちがいつも日向ぼっこをしている路地だが、今日は朝から雨で文字通り猫の子一匹いない。あれは日向ぼっこしている猫たちではなく、太陽光を使ってこの地上に投影されている猫たちの立体映像、という噂もあるが。

【ほぼ百字小説】(4959) すべて会計責任者がやったこと。私はなんにも知りません。うっかりしてはいましたが、訂正したのでもう大丈夫。もちろん責任取らせます。というか、会計責任者はÅⅠでね、すでに責任取らせましたよ、このドリルで。

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