ひさびさに見たもののことをバーッとメモっておくなど…

場面ごとの切り上げ方がすごく上手な印象を受けた。焦らないし、無駄にも引き伸ばしていない。止まるところではしっかり止まるし、動くところではしっかり動く。美しい肉体の美しい運動を見ているのと同じ種類の、映画そのものの身体性みたいなのが感じられる。

全体の流れとしては「これまでもいたし、これからもいる」に集約されているのだけど、そこだけにどうしても収められないものが溢れ出してて忘れがたいのだ。底が抜けたのをダクトテープで塞いだボロボロのリュック。「若くて美しい、なんだってできる」に「あんたも俺もそれが嘘だとわかってる」と返していたこと。幻想を抱くシーンのドリーミーかつ猥褻なネオン。激しいホモフォビアの一方で見回りも仲間の息遣いも気にすることなくベッドでみんなが手淫にふけっている就寝後の赤いライト。敵を殺せるように、の神への祈り……美と殺戮のすべて、という言葉につながるような。

それにしても『ジャーヘッド』ってやっぱり当事者にリアルな手触りのある戦争映画なんだな。

不条理で矛盾した男社会の究極で命を脅かされながらもなお「諦めない」者になった主人公が終盤に「諦めない」を別に向けるとこもすごかったな。あの落とし所からあのエンドクレジットは凄みしかないやね……いやよいものを見ました。

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『インスペクション ここで生きる』がすごいよかったんですよ。これは好きなほうのA24。ゲイであることを頑なに受け入れない母親とは関係断絶気味、その日暮らしに限界が来た青年が海兵隊に入るべく訓練に参加して、死にそうな目にあいながら自己を確立していく。監督自身の実話をベースにしたストーリーなんだけど、ものすごく美しいものもおぞましいものも同じ美しさで映っている。「人を殺すプロ」になる訓練の場で自然発生する男性らしさの誇張と性的な幻想。

『絶望死 労働者階級の命を奪う「病」』にも書いてあったし、それこそ変な方に有名になってしまったJDヴァンスの『ヒルビリー・エレジー』でもそうだったが「一回チャラにして立て直せる」「属性<実力での正当な評価を受けやすい」「死ぬほど頑張って何かを達成する経験がそもそも生活環境的に不可能だった若者たちが初めてやり遂げて自信をつける」場所であるというアメリカ特有の「軍」の話、この異様さの上に世界が成立してんだよなあ……と毎回思う。で、今作がいいのは差別意識や暴力に溢れた場所であること、非常に「美しい瞬間」が紡ぎ出されること、不条理に従い人を殺す訓練で怪物を作る場所であること、すべてを「じっと見る」ことができているからで、だからこそこの主人公が未来の監督なんだよな…と

結構いいとこもあって全体的には楽しかった。関係者の声で語られてるところでの「母親世代が働きに出ていたので家のことを教えてもらう機会がなかった」世代から特に求められた、とか。「便利にする」「楽にする」ではなく「美しくする」価値観の新しさとか。あと収監前のカリカリした映像とかあったけど、あれは別のドキュメンタリークルーが入ってたのかな?それとも当時から関係者だったのかな?

モデル→主婦→カリスマ主婦、ルートからビジネス進出したのかなあと思ってたんだけど(初代「インフルエンサー」というコメントもあるのでそれでも半分は合ってる)実際のところ、モデル→主婦(子育てはあんまり楽しくない)→株式仲買人→主婦(家全部自分で改装して完璧にするの超楽しい)→ケータリングビジネス→メディア進出、というルートだったんでもともと動いてないと死ぬというか極端に「仕事が楽しい」タイプの人なんだな、そりゃアメリカ的「象徴」になる資質全開だわ……と思った。生活を美しく、の美しさのなかには当然「自分」も含まれる女のバイタリティ。変化への適応もすごいし、前ほどperfectを求めなくなったといいつつ終盤の表情にやっぱり自己完結度の高さも伺われるのだった

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Netflixで見た『マーサ』、今のマーサ・スチュアートのドキュメンタリー(本人インタビュー中心)が面白くないはずがないのですが、監督が『ファッションが教えてくれること』(アナ・ウィンターのやつね)のR・J・カトラーということもあってそこそこ穏当な伝記におさまっている物足りなさはあったかなー

いや、これでも十分に底知れない(元気すぎる)人として映ってますが、やはりあの「私が太陽」のメディアモンスター性ってもっと一筋縄ではいかない気がして……でもそんな人に言いたくなさそうなことも語らせたのはそれだけの人間関係作れてたってことなんだろね。

perfectly perfectを追求する女、自己主張のめちゃくちゃ強い女(しかもやってるのが「感じがよい」存在であるべきと定義づけられてきた「主婦」「生活」ビジネスのカリスマだ)、しかもがっつり稼ぐイノベーターであり実業家であることは男性なら「辣腕」評価される部分で全部憎悪の対象になる……の筋を立ててあるの、真実ではあるとは思うし今ドキュメンタリーでやるならまあそこですよねという感じだ。でも引用されたジョーン・ディディオンのコラム(素晴らしい)では皮肉と賞賛が渾然一体になってるのがよかったけどそういうとこは薄まってた気がする

POPEYEの映画特集の気合いの入り方が映画雑誌を遥かに超えててびっくりしてるんだが、そろそろ本当に固有名詞についていくのが難しくなってきた。いける限りはいきたいのだが。

POPEYEらしー!と思うファッション関連もさすがで、恋プリの時計の話とかへー!と思う。ファンの方には有名なのかもしれないのだが、公私共にオメガのウォッチ愛用してるというのはやんかすごくグレンパウエル氏っぽいな

なぜか青空よりこっちが好きなんだよな、こっちのほうが不便なのに…

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