最近、編集さんに「こうすればもっと伝わると思います」「もっと読者に届くように」と言われすぎて、「伝わる」「届く」という言葉が苦手になってきた。
(わたしも短歌教室で「あなたのやりたいことは、こうしたらもっと伝わると思います」という言い方をよくしていたのだけど、適切ではなかったかもしれない……)
わたしのやりたいことは「伝える」「届ける」ではないのだよな。では何がしたいのか? と思ったときに真っ先に出てくるのが「破壊する」「転覆する」とか「傷を残す」とかなんだけど(物騒)。
脳内の指示系統というか伝達組織というか、そういうのを破壊したい。
わたしは別に自分の脳内にあるものをいったん設計図に起こしてそれを読者の脳内で正確に組み立て直してほしいわけではない。言葉は、言葉ではないものを伝達するための道具ではないから。言葉にしかできないこと、言葉にしてはじめて生まれてくるものをやりたいから。
わたしが作りたいものはむしろ癌細胞だと思う。DNAの正しい複製みたいなのを妨げたいのだと思う。
わかりにくい文章、読みにくい文章を「読者に不親切」と言ったりするけれど、わたしは難解だったり入り組んでたりすればするほど親切だと思っているらしいな、と最近気付く。
『奇病庭園』についてのトリガーウォーニング
『奇病庭園』についてのトリガーウォーニング
(後でサイトにも載せますね)
・心身の病気や障碍による差別、排除の描写があります
・特に、精神疾患があると見なされた人に対する、現実の歴史における劣悪な待遇を想起させる具体的な描写があります
・文字を読めない人や失読症の人に対する差別、搾取の描写があります
・トランスジェンダーの人物に対する差別、暴力の具体的な描写があります
・アセクシュアルの人物に対する差別や性暴力、コンバージョン・セラピーを想起させる具体的な描写があります
・その他、様々な差別が描かれています
(直接的にセクシュアルなシーンはありません。暴力的なシーンは少しあります)
・トランスジェンダーの人物が作中で「男でも女でもない」と言われていますが、全てのトランスジェンダーがそうであることを示すものではありません
・トランスジェンダーの人物が作中で特殊な代名詞で呼ばれていますが、全てのトランスジェンダーが「男でも女でもない」ことを示すものではありません
【掲載のお知らせ】
7/6発売の『すばる』8月号の特集「トランスジェンダーの物語」に小説「Blue」を寄稿しております。
トランス差別に抗うために自分に何ができるか考えあぐねていたところに声をかけていただき、とても有り難かったです。
200枚近い中篇になりました。
現代日本を舞台にした、リアリズムの小説を発表するのははじめてかもしれません。
みなさまに読んでいただけたら幸いです。
ストーリー
水面から顔を出した人魚姫が出会ったのは、一人の王女だった。
見たことがない、こんなに美しくて、こんなに不幸そうな——。
人魚姫はどうして地上を目指したのだろう。
『人魚姫』を翻案した劇を上演する高校の演劇部員たちの物語です。
この小説にはなんと、シスヘテロの人物が一名登場します。
明確にシスヘテロの人物が登場するのはわたしの作品でははじめてのことですね。
※注意※
この作品には、トランスの人に対する差別的な言動、トランスの人のメンタルヘルスや貧困などの問題への言及が登場します。
ご無理のない範囲でお読みください。
こっちでも告知をすることにしよう。
【新刊のお知らせ】
8月4日、新刊が出ます。
初の幻想長篇です。
『奇病庭園』(文藝春秋)
奇妙な病気が蔓延し、老人には角が生え、妊婦には翼が生え、世捨て人には鉤爪が生える世界で、天から産み落とされた双子の運命が交錯し——
しっちゃかめっちゃかになっていく世界をお楽しみください。
パンデミックに想を得たポストコロナ文学、ではなくて、2018〜19年に書いてから諸事情あってなかなか発表の機会がなかった不憫な子です。
内容は傑作なので仲良くしてあげてください。
予約等してお待ちいただけると嬉しいです。
Twitterから移行して来た新規フォロワーさんが多い中で最新の投稿が拙いイクチオサウルス君なのちょっと恥ずかしくなってきました。
わたしは前向きでくよくよしない射手座!
お医者さんに「今特別ストレスとかないし、薬を飲んでれば元気なのに、薬を減らすと動悸がしてくるの、私ってどういう状況なんですか?」と聞いたら、強いストレスなどにより自律神経の調子が変になったり過敏性が上がったりすると、ストレスが去った後もその症状は残るから、今はその治療中なんですよという旨のことを言われ、そっか〜と納得しました。
外で執筆作業するときはイヤフォンをしているのだけど、イヤフォンをしていないことによって気になるのは他人の立てる物音ではなく、自分の打鍵音であることに気づいた。他の人にとってうるさくないかなって気持ちになってしまう。
8/4『奇病庭園』刊行