夕暮れに無くしたはずのため息が手帳の隅でみつかりました

不器用で燃えることなど出来なくて気づいて欲しいぼくの行間

一年で一番長い夜だからはじまりのない詩を書いている

妖精が夜更けに舞い降りたような白い秩序を踏みつける朝

この町に迷い込んだ月を連れて
夜を拒めない線路沿いを歩く

西の空が今日を畳んでしまえば
もう飾らなくていい金星の詩

何もかも埋もれてしまえ飾られた記憶の中で生きたくはない

ご感想ありがとうございます。
鶏頭論争についてはその昔いろいろ調べてみたことがあり、少し懐かしく感じました。
ぼくには夕空時の三日月や満月が「浮かぶ」感覚がなかったので、興味深く読ませていただきました。
ありがとうございました。

自由が少し後ろめたくて
だれかの足跡をなぞる週末

オリオンが玄関前で待っていた素直になれと言わんばかりに

海のある町に住んでいた。海を見ることで浄化できる感情があることを知っていた。今、海のない町に住んでいて、その感情の行き場所がない。ぼくは海に変わる青いものを追い続けていた。空、信号、ネモフィラ、横浜DeNAベイスターズ。そのどれもがしあわせな気分をもたらすけれど、そのどれもが海ではない。たぶんドラえもんでも浄化できない感情を、ぼくはこの町で抱え続ける。それは決して不愉快なことではないけれど、少しだけ身体が重くなる感覚を伴う。冬になると滑りやすくなるのだ。

午前五時半の始発。普段見ることのない景色。闇に包まれた街へ向かう電車は高揚感も陰鬱な空気もなく、ただ不釣り合いに明るい。そのから放り出されると午前六時の札幌駅。夜と朝が入り混じったひとの流れにぼくは溺れることさえできなかった。

もう来ないひとを待ち続ける
いつか真っ白になる記憶

オリオンのほかに星座を知らなくて名もない電車が通過しました

語るべきものがなくなった夜に
枯葉がぼくを追い越してゆく

雪が積もる前の12月の公園。落ち葉もきれいに片付けられ、殺風景ということばが似合う場所になった。たまに歩く人とすれ違う程度でほかに動くものもない。三歳くらいの子を連れた女性がいたが、遊具が冬支度済みで使えないことを知りそのまま引き返していた。あの子にとってどんよりした冬の公園はどのように残るのだろう。冷たい風の記憶か、温かい母の手の記憶か。

ものがたりひとつ終わらせて
今夜星の種蒔くひとになる

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