解説でも触れられていますが、「イングリッシュ・ペイシェント」を編集したウォルター・マーチとオンダーチェの交流から生まれた本『映画もまた編集である――ウォルター・マーチとの対話』は、制作秘話から創作の真髄に迫るような本で、こちらも素晴らしいんです。
例えば、「オール・ザ・キングスメン」がテスト上映の観客の反応が悪すぎてお蔵入りになりかけたとき、自暴自棄になった監督がシーンの核を残して前後を切り落とし繋ぎ直すように言って縮めたら、エキサイティングなまでに混沌としたモンタージュ的な作品に生まれ変わっていた(その結果アカデミー賞作品賞を受賞)というような逸話がいろいろ語られているのです。
マイケル・オンダーチェ著 土屋政雄訳『イギリス人の患者』(創元文芸文庫)をいただきました。映画「イングリッシュ・ペイシェント」の原作ですが、解説で石川美南さんが書かれているように、全く別の作品と言えるほど趣が異なり、錯綜するエピソードや散文詩的な細部が素晴らしいです。火傷で顔も名前も失った男の存在は、姿の見えない小説ではより謎めいて感じられる。
ジョン・バカン著 エドワード・ゴーリー 画 小西宏訳 『三十九階段』(東京創元社)をお送りいただきました。ヒッチコックの「三十九夜」の原作なんですが、なんとゴーリーの挿画版! しかも1頁サイズの緻密な線描の絵が、けっこうな数収録されていて素晴らしいです。1月26日頃発売。
川野芽生さんの『Blue』(集英社)、すごくよかったです。「人魚姫」を翻案して上演する高校の演劇部員たちが、人魚姫の表象するものを深く読み解いていく(いろいろはっとさせられた)につれ、最初は台本のように名前と台詞のみで書かれていた部員たちが、トランスジェンダーの真砂を軸に奥行きを増していく。人がいかに表層的な枠に相手を押し込んで真っ平らに均そうとするのか、それがどれほどの苦しみをそこに収まらない人に与えるのかを体感させられる。 #いただいた本
いろいろ本を買いました。
小山田浩子さんのエッセイ集『パイプの中のかえる』『かえるはかえる』、吉村萬壱さんの写真と言葉集『萬に壱つ』(あゆみ書房)、『ランバーロール06』(タバブックス)、左岸 Life for booksのZINE『少女宣言』 [添付: 5 枚の画像]
『はみだす。とびこえる。絵本編集者 筒井大介の仕事』展の最終日に滑り込み。スズキコージ、五十嵐大介、網代幸介、坂本千明、町田尚子、マルー、マメイケダ――等々、見たかった原画の数々を堪能。こんな機会は、なかなかないのでは。色校に書き込まれた赤字なども興味深く拝見しました。
第11回ハヤカワSFコンテスト大賞受賞作 矢野アロウ『ホライズン・ゲート 事象の狩人』(早川書房)を頂き読みました。巨大ブラックホールを探査する者たちの物語が、詩的でいてソリッドに描かれていてよかったです。日常的に描かれるウラシマ効果のずれや、探査に伴って発生する仮想実体の狙撃(着弾までに一週間、時には一月を越える)、右脳に祖神を宿した狙撃手の女と時間を同時的に見通せるパメラ人との愛情の在り方――などの要素を面白く読みました。
とりしまです。Dempow Torishima 絵と小説をかきます。最新刊は長編『奏で手のヌフレツン』。著書に『皆勤の徒』(英訳版、仏訳版も)『宿借りの星』『オクトローグ』『るん(笑)』、高山羽根子さんと倉田タカシさんとの共著『旅書簡集ゆきあってしあさって』。SFマガジンで「幻視百景」連載中。