chapter7 END
登録者数 1341万6442人。これだけの応援者を集めた映えある優勝者は────
インタビュアー「餅付さんおめでとうございます!TOTを優勝されたお気持ちはいかがでしょう?」
餅付「ありがとうございます!衝撃過ぎて感情が追いついてないです。まさか自分が…」この表彰式は現在、TouTube上でライブ配信されている。チャット欄には数億規模の視聴者が同接し、さまざまな言語で祝福の言葉が投げかけられていた。
マテヨ「おめでとう餅付!お前を一目見た時から優勝するんじゃないかって思ってたんだよな。オレの目に狂いはなかった。嬉しいよ!」
餅付「あ、ありがとうございます!」餅付はレジェンドTouTuberの激励に萎縮しながらも、差し出された手を握り握手を交わした。
表彰式を円満に終えた翌日、餅付はマテヨが経営する事務所に招かれた。
マテヨ「最初に言ったな。TOTを優勝した者の願いを叶えるって。お前の願いを聞かせてくれないか」
餅付「はい。えと、俺の願いは『好きな時に美味しいものを食べられるようにしたい』です!」マテヨ「はは、お前らしいな。安いもんだぜ。生涯お前が食に苦労しないほどの大金をやるよ」餅付「ありがとうございます!」
マテヨ「それで、だ。その願いを叶える際にこちらから条件がある。お前には今後うちの経営するTouTube事務所に所属してもらいたい」餅付「所属!?え、でも…」
マテヨ「あぁわかるよ。正直個人で十分やれてるもんな。でもお前は今まで何度か炎上もしてきただろ?その度に登録者を減らしてきた。わかると思うがこの仕事は本当に不安定だ」
マテヨ「もしまた炎上することがあった時にお前1人で上手く収められるとは限らないだろ?そういう時のためにはウチみたいな大きい事務所に所属しておくのがいいんだ。わかるか?お前と言う才能を守りたいんだ」
餅付「なるほど…確かにマテヨさんの事務所なら炎上対策もしっかりしてそうですね。ちなみに、マテヨさんの事務所に所属したらどんな契約が交わされるんですか?」マテヨ「その辺を聞くとはしっかりしてるな。ここにウチの事務所の契約書がある。読んでくれ」
餅付は差し出された契約書に目を通す。契約内容の中に一つ、気になるものがあった。要約すると、「マテヨの事務所と“深い関わりのある組織”と積極的な交流をすること」とあった。
餅付「すみません、ここの『深い関わりのある組織』ってなんですか?」マテヨ「あぁ…それはだな」にこやかだったマテヨの顔つきが一気に真剣なものになった。マテヨ「ウチは…いや、正確にはTouTube社ではある大きな政党と繋がりがあってな。
「国民打益(こくみんだます)党だ。知ってるだろう。すごーくわかりやすく言うと、お前にはその政党の人たちと積極的に交流して、視聴者に向けて打益党のイメージアップに繋がる活動をしてほしい」
餅付「え!?それって……」
マテヨ「TouTube社は昔から打益党と深い関わりがあってな。TouTube上で選挙の際に打益党の宣伝をしたり莫大な資金を捧げる代わりに、打益党から税金面で優遇してもらったり、TouTube社に不利なトラブルを揉み消してくれていた。win-winの関係なんだ」
マテヨ「だが近年、他の動画共有アプリやSNSが広まったことでTouTube自体のアクセス数が減ってるんだ。利用者が減ってTouTubeの力が弱まれば打益党としても都合が悪い」「その現状を打破するのがTOTだった。そして、TouTubeの次世代を担う存在がお前だ」
餅付はあまりにもスケールの大きな話に呆気に取られた。マテヨ「お前と打増党の友好的な関係を見せていけば多くの視聴者が打益党を支持するようになる。そうすれば日本を支える二つの組織が救われる。こんな名誉な役目ないだろう」餅付「そんなことしていいんですか?法的に引っかかるのでは…」マテヨ「そこは大丈夫だ。引っかからないようにやるさ」
餅付「でも…僕のチャンネルの活動に合わない気がします」マテヨ「餅付。お前は日本一のTouTuberだ。トップの人間がトップたるには一つの活動に固執しちゃダメだ。活動の幅を広げて、最終的に国民を正しき道に導くTouTuberになるんだ」
餅付「………ごめんなさい。これからも、俺が好きに食べる事や願いのことは俺が頑張れば出来ることだと思う。けれどそういう事に関わってしまったら、それすら出来なくなってしまうと思います。だからそういうことなら断ります」
マテヨ「……は?」「それでいいのか?食い物だけの問題じゃねぇ。もっともっと登録者伸ばしたいだろ?辞退したらこの先の高みは見られなくなるぞ!」餅付「答えは変わりません。もしそれが願いを叶えてもらう条件なら優勝は辞退させてください」
マテヨ「……そうか。残念だよ餅付。
ここまで聞かれたからには消えてもらうしかないな」
餅付「え?」マテヨ「おいモレソ!!コイツが炎上するようなネタをでっち上げろ!!全世界を敵に回すような特大の炎上ネタをなぁ!」
モレソ「モモモ!やったレソ〜!!やっと面白くなってきたレソ!」
餅付「ど、どういうことですか!」
マテヨ「言葉の通りだ。お前が社会的に死ぬような炎上ネタをでっちあげて優勝を取り消してやる。“今回”のは今までの炎上とは比べものにならないネタを用意してやるぜ」餅付「今回のって、アンタまさか──」
マテヨ「そうだよ。お前たちに付き纏った炎上の数々、アレをしかけたのはオレたちだ」
「オレらの目的のためには登録者を増やしてもらうのは都合がよかったが、あまり数字を増やし過ぎてオレの脅威になっても困るからな。ほどほどに燃やして力を抑えさせてもらったよ」
餅付「なんてことを……その炎上のせいでどれだけの人が苦しんだと思ってるんだ!」
マテヨ「ハッ!周りが炎上してくれたおかげでオメーは成り上がれたんだろうが!お前が消えようがトップに据えられる奴は他にいくらでもいる。じゃあな餅付」餅付「そんな………やめろー!!」
─────────
【悲報】『「女は二郎に来るな」人気TouTuber餅付食人、性差別発言か』『餅付食人衝撃発言「目玉焼きに塩派は人権ない」』『餅付食人、ファミレスのドリンクバー全部飲み干して店を潰すwww』
餅付は事実無根の悪事を広められたことで、世間からさまざまな誹謗中傷や非難を浴びた。中には殺害予告や住所特定を呼びかける者もいた。身の危険を感じた餅付は住んでいた家を引っ越し、その家から出ないようになった。ネット上には今も餅付への誹謗中傷が散見される。
開示請求や、弁明すらも無意味に思えるほどの悪意が渦巻いていた。餅付は世界そのものが自分の敵に見えた。その恐怖から逃げるように過食に走った。
食べることは彼にとっての精神安定剤だ。自然主義者である母親から過剰に質素な食事を提供され続け、生活のあらゆる点を管理された反動で、食に対する執着が強まっていた。
餅付「ウッッ」餅付の身体は既に限界を超えていた。食べていた菓子パンを手から落とし、壁に寄りかかるように倒れた。
───────
「…………づき」
「起きろ餅付!!」
マテヨ「いやぁ、本当アナタが無事でよかった。こうして新たな優勝者を見つけることができたんだから」
「ねぇ、あっくん」
あっくん「え、えぇ。繰り上がりという形ですが優勝出来て光栄です!」マテヨ「はは、動画の時に比べてアガってるな。そう畏まらなくて大丈夫だぜ」マテヨは餅付にした時と同じように、あっくんを自身の事務所への勧誘し、契約内容を明かした。
あっくんはマテヨに渡された契約書を何度も舐めるように見回した。あっくん「素晴らしい活動内容ですね!こんないい条件を餅付くんは断ったなんて…」その言葉を聞いたマテヨはしたり顔を見せた。
マテヨ「ふふ、実は餅付のあの炎上はモレソの『でっち上げ』なんだ」あっくん「えっ…?」
マテヨは餅付を意図的に貶めたことを明かした。それに続いてTouTube社と国民打益党との癒着、モレソとの繋がり、あっくんを畏怖させる目的で自身の所業を伝え、自身の権力の大きさを示した。マテヨ「餅付は馬鹿な男だがアンタはそんなことないよな」
あっくん「……なるほどな」「今のちゃんと“録れてました”?」
マテヨ「は?」あっくんは右耳に嵌められた超小型インカムに指を添え、通話相手に語りかけた。
旧惑星『バッチリ、契約書の内容もバッチリ録れてる』百連撃『流石Minato!!』
あっくん(?)「ちょ、名前出さないでくださいよ!!」
「オレのことバラさないでやるって話だったでしょ!」
マテヨはあっくん…いや、Minatの発言で悟った。このやりとりは撮影されている。あっくんが掛けているメガネのブリッジに小さな穴が空いていた。小型カメラだ。
モレソ「モモモ!マテヨさん大変レソ!」2人のいる応接室にモレソが入り込んできた。マテヨ「わかってる!お前コイツを取り押さえ──」モレソ「いやもう遅いレソ〜!」そう言ってモレソは電子パッドを見せた。
画面にはTouTubeとは別の動画配信アプリが開かれており、そこには今のマテヨたちの様子が、Minato視点でライブ配信されていた。
ゆうちゃむ「みんな聴いた〜?チョマテヨって優勝者に国民打益党との癒着を強制してたんだって!」旧惑星「しかもそれを断った餅付くんを意図的に炎上させただってー!?」百連撃「やだキモ〜イ!」
過去に炎上し活動を辞退したTouTuberたちが、自分たちのチャンネルにその配信を載せていた。同接数はTOTの表彰式を超える数字。マテヨと政治家の癒着に興味を湧かせたユーザーや、元TouTuberたちのファン達がこぞってそれらの配信を観ていた。
マテヨ「チョマテヨ!!めちゃくちゃヤベー状況じゃねえか!」ゆうちゃむ「読んだ通り!餅付くんに重要な機密を漏らすようなザルさなら、また別の優勝者を用意すれば同じことを繰り返すってワケ!」百連撃「オレの案だけどね!」
「「「「「いまだ餅付!いけー!!」」」」」
餅付は頷いた。彼らの声援に応えるように。
餅付「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
様々な目的に使える、日本の汎用マストドンサーバーです。安定した利用環境と、多数の独自機能を提供しています。
「ねぇ、あっくん」