…嫌な予感がする。護大悟はスマホを開いた。SNSアプリを開くと、見知らぬ人たちからのDMが複数件届いていた。旧惑星は息を飲み、一つのDMを開く。
『旧惑星さん女だったって本当ですか?』護大悟は驚いた。他のDMにも、旧惑星の性別を追求するような内容が書かれている。護大悟はその原因を見つけた。
SNS上に、自分のプライベート写真が何枚か貼られている投稿が発見された。おそらく隠し撮りされたものだ。その写真の旧惑星の身体付きは、女性であることがうかがえるものだった。彼のファンはそれを見て、旧惑星に直接性別を問いただしたのだろう。
「ファンを思うなら先に言っておいてほしかった」「騙された気分」と、旧惑星のアカウントに失望の言葉が投げかけられた。
護大悟はショックだった。歌い手として活動する上で、性別を公言する必要も機会もないと思っていた。世間が自分を男性と認識しても、間違いではないと思い訂正しなかった。そういった行動がファンへの失望を買ってしまったのだと自覚した。
旧惑星は件の話について釈明する動画を撮り、明日改めて内容をチェックしてから投稿することにした。その翌日─
【大人気TouTuber旧惑星、性別詐称で大炎上www】暴露系インフルエンサー沢沢モレソにより、旧惑星の性別判明の件が炎上ごととして取り上げられていた。『旧惑星の性別詐称により、彼を男性だと信じて推していた多くのファンが悲しんでいる』そんな文言と共に、SNS上でのファンの反応とされるものをスクリーンショットしたものが貼られてれていた。
それらの内容は、昨日護大悟が目にしたものより強い恨みが吐かれており、中傷的な内容も多く見られた。この記事は、モレソが印象操作のためにSNS上の批判的な意見のみを抜粋し、大袈裟に書いたものである。だが、インターネットを始めて日が浅い旧惑星には、それを虚構と見抜く力はなかった。これが世間の総意なんだと本気で思い込んだ。
その日の夜、旧惑星は一本の動画を載せた。旧惑星「旧惑星です。今ネット上で言われている自分の性別の件について、お話ししたいと思います」
その後は、ファンや関係者に対する謝罪、自分の性別を明かさなかった理由や経緯を事実のまま述べた。そして──旧惑星「何にしても俺は自分を好きでいてくれたたくさんの女性を悲しませた。その責任を取るべきだと考えました」
「本日より、TouTube活動を引退させていただきます」
──────────
数日後─旧惑星は声帯の手術をした。自身を『男』たらしめていた、多くの女性を傷つけた声を完全に消した。
もう2度と世間を沸かせたあの声は戻らない。彼にとっての、TouTubeとの決別となった。
旧惑星のチャンネルが更新されることはもうない。それでも護大悟は、そのチャンネルを消すことはなかった。
多くの誹謗中傷コメントの中に混ざった「男でも女でも旧惑星さんが大好きです」「いつも元気もらってます」と言った、最後まで旧惑星を応援してくれた人たちの声までは、消したくなかったからだ。
chapter5 END
『【悲報】 ストリーマーMinato 浮気か』そんな文言と共に投げられたSNSの記事。
これで何回目だろう。事実無根のスキャンダルで炎上させられるのは。Minatoは大きなため息をついた。Minatoこと湊 ネオは、TouTubeを始めてから一度も彼女を作ったことはない。
れどころか、女性関係で良からぬ噂を立てられないようプライベートで女性と2人きりになる状況はなるべく避け、大学の親しい友人を挟むようにしている。Minato「なのになんでこんな噂が立つんだよ〜! 」
このように炎上に悩まされるようになったのも、プライベートの振る舞いに気を遣わなければいけなくなったのも、元を辿ればTouTubeチャンネルの登録者が増えすぎたせいだ。監視の目が増え、自身の言動に厳しい目が向けられるようになった。
応援してくれるリスナーの期待には応えたいが、元々TOT優勝への意欲がそこまで強くない。コスプレイヤーとしての活動もメインに置きたい気持ちもある。Minatoにとって今の状況は息苦しいものだった。
──翌日、Minatoは動画編集の合間にSNSを開いた。自身の作ったVtuber『みなとちゃん』のアカウントの呟きを確認する。みなとちゃんの配信やSNS更新はMinatoが全て行っていたが、活動両立のため友人である“雲雀”にそれらを任せるようになっていた。それがリスナーにバレた様子は特にない。
Minato「これは……」Minatoはみなとちゃんの数日前の呟きに目を止めた。
このポストが投稿された前日は、Minatoが事実無根の女性問題で炎上した日だ。その翌日にみなとちゃんからのこのような呟き──察しのいいリスナーからは「Minatoが自身の炎上をネタにしている」と取られるだろう。
《湊の家》Minato「この呟きヒバリだろ?こういうネタはやめとこうぜ、誰がどう見るか分かんねーし…」
雲雀「え?あれ俺じゃないけど…湊の自虐ネタじゃなかったん?勇気あるなーって思ってたけど」Minato「え?」
2人は顔を見合わせた。どういうことだ。と確認してみたところ、どうやらお互い相手がやっていると思っていたみなとちゃんの配信や呟き、他者とのやりとりが複数存在した。
雲雀「まさかコレ誰かに乗っ取られたんじゃ…」Minato「まさか。ログイン履歴もないし、配信なんて乗っ取りでできるもんじゃ──」そんなやりとりの最中、突如MinatoのPCで配信画面が立ち上がる。
みなとちゃん「おはよう諸君〜⚓️」
その光景にMinatoと雲雀は驚いた。彼らのどちらかが操作しなければ動かないはずの“ソレ”が、ひとりでに動いているのだ。みなとちゃん「ご機嫌だねって?ふふーん♪」
「ついにみなとはこのチャンネルの侵略を完了したんだよね〜!これからここではみなとが配信していくよ!」
みなとちゃんの口元が妖しげな弧を絵描く。
「言ったよね?みなとちゃんは侵略者だって!」
【マテヨ&モレソによる真相解説】ミナトは初めて炎上した時、同じことを繰り返さぬためにMinato Channelとみなとちゃんの SNSアカウントに『炎上の可能性がある動画や投稿を検出するAI』を搭載していた。
しかしAIは「Minatoこそが炎上の可能性を孕んだ危険要素」だと判断。Minatoを炎上させて表舞台から排除することで、チャンネルを清廉潔白なみなとちゃんだけで運用していこうと考えたのだ。
────────
全ての真相に気づいたMinatoは、新しいチャンネルを作ってその経緯を説明した。これまでの炎上は自身が搭載したAIによってでっち上げられたものだということ、そのAIによってチャンネルから排除されたこと。しかしそのような突破な話を納得する人はそう多くなかった。
それでも残ってくれたリスナーたちと、心機一転自分のペースで活動していこうと意気込んだ。彼に向けられた疑いは、今後の彼自身の活動で潔白を証明していくだろう。それに、Minatoとってこれは嬉しい誤算でもあった。
その配信後、あっくんはTouTubeにもSNSにも姿を現すことはなかった。大物TouTuberの突然の失踪に世間は驚いた。それから数日後、話題性を狙ったTouTuberたちが続々と、あっくんが消息を絶ったとされる廃校舎へと訪れた。
様々な目的に使える、日本の汎用マストドンサーバーです。安定した利用環境と、多数の独自機能を提供しています。