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T.J.クルーン『セルリアンブルー 海が見える家』(金井真弓訳、オークラ出版マグノリアブックス)上下巻を一気読みしました。
魔法青少年担当相の児童福祉司(ケースワーカー)であるライナス40歳は役職なし、独り身で家族は猫だけ、太っていて頭髪も薄くなってきた。真面目さだけが取り柄だ。
そんな彼が突然組織のトップから極秘案件にアサインされ、ある島の児童保護施設の視察に出ることに。そこにいたのはワイバーン、ノーム、獣人、妖精などの強力な人外の子供たちで……!? そして島民たちは施設とそこの子供たちに偏見を持ち、中にはかなり排斥的な住人もいるのだった。

事件を乗り越えつつもハッピーエンディングですし、子供がひどい目に遭う描写はほとんどありませんし、直接的ではありません。
本書の主人公のライナスがゲイであることは早々に明かされます。融通が利かず自分に自信のない彼が変わるまでの物語なのです。中年に片足をつっこんだ男の成長譚というのが新鮮でしたし、30代後半の自分にしてみれば好ましい点でもありました。

ひとつ残念なのが、日本版の装画が、単品のイラストとしてはもちろん素敵な作品なのですが、児童が主人公の児童書に見え、40がらみの男性たちとは全然わからないことでした。
装画は編集さんや営業さんの意向の領域でいかんともしがたかったりするのは重々承知していますが、妖精や幻獣てんこもりの中で太った中年と細長い中年が楽しそうにしている表紙も見たかったと感じました。
あまりに多幸感が溢れる作品で、まぶしかったですよ。おすすめ。
oakla.com/話題の本/9784775529973

著者のT.J.クルーンさんは1982年生まれ。主にファンタジーとロマンスを書いている男性で、本書でミソピーイク賞(ファンタジーの賞)とアレックス賞(12歳から18歳のヤングアダルトに特に薦めたい大人向けの本のセレクション)を受賞したそうです。
また、クルーンさんは自身がクィア、アセクシュアル、ニューロ・ダイバージェント(日本語だと「発達が定型的ではない」という説明が伝わりやすいでしょうか)を公言されているそうです。

ツイッターでの話で恐縮ですが、私のTLに装画についてアンケートとられた方がいらっしゃって、下巻の表紙に描かれている人物は、男性と思うか、女性と思うか、曖昧に描かれていると思うか、結果だけ見たいの4択で、161票入って男性7.5%女性64.6%曖昧23.6%結果だけ4.3%でした。

ご教示ありがとうございます。
下巻の人物はおそらく「明るい色の髪はもしゃもしゃで、妙な角度であちこちに跳ねている」「かぎ鼻の真ん中にこぶがある」と描写されているだろうキャラクター(45歳)ではないかと推定しているのですが、まったく文章に沿っていないんですよね……ちょっと残念に思います。

私はその作品は未読なのですが、アンケートをとられた方は、男男カップルの物語の装画が男女に見えることを問題視していらっしゃいました。
はしもとさんもですが、きちんとそういう点を言語化して問題提起して下さる方がいらっしゃることに感謝申し上げたいです。

なるほど、思いのままに書いただけではありますが、どういたしまして。
私自身は発売前に書影だけ見たときは「子どもたちの絵?」と思って性別には頓着していなかったのですが、表紙で誤解して手に取りそびれる人がいると残念だと思ってあえて書きました。

最近だと『パン焼き魔法のモーナ、街を救う』も日本版の明るい表紙とは裏腹に、殺人現場を目撃したり、下水道をさまよったり、戦場に駆り出されたりとハードなので、YAっぽいファンタジーを日本でいつもの読者に届けようとした結果、必要としている読者の目に留まらなくなるのではという危惧を抱いていたのです。
hayakawa-online.co.jp/smartpho

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