「テック富豪(あるいはテクノ封建領主)たちの思考」について考え中。
彼らの共通点は「社会の理不尽を認識することの苦痛を避けて通る」傾向、という知見に至った(ある種の「故意の無知の誤謬」)。
ビル・ゲイツはスティーブン・ピンカーの著書『21世紀の啓蒙』を絶賛する。この本は、トランプ的な非合理性・反知性主義ではなく、理性の力を信じようと述べる(なので「啓蒙」)。『FACTFULNESS』と同様にデータを挙げて「社会は改善されている、それは理性のおかげだ」と論証する。
トマ・ピケティが指摘する不平等の存在も、「経済規模が底上げされているのだし、不平等そのものは問題ではない」と切り捨てる。 これはテック富豪には気持ちがいい本だ。
ビル・ゲイツとピンカーの共通点は、白人男性エリートの視点であること。理性を称揚するのは良いが、フェミニズムやポストコロニアルからの異議申し立てを過小評価する。弱い者の声に耳を傾ける態度はない。西洋中心の古い価値観のままだ。
ビル・ゲイツは慈善活動に大金を拠出している。だが、最近、その資金の使い方が独善的として批判する本が出た。(続く
啓蒙専制君主的なビル・ゲイツも、横暴な独裁者のイーロン・マスクら若い世代も、共通点は「認識の痛みを回避したがる」こと。
白人男性の優位、富の不平等、そうした自分自身の存在を脅かす「気分が良くならない」疑問はスルーし、富の一部を慈善活動に投じ、自らの価値観を変えない「気分が良くなる」方向性を目指す。
本当の「現代の啓蒙」とは、男性中心・西洋中心の思考から脱却する痛みを共有することだろう。現代の社会には、思考のフレームワークを取り替えなければ解決できない問題群が数多くある。
だが、白人男性テック富豪がこの思考を共有することは、まだまだ難しそうだ。
補足:富の一部を慈善活動に投じていたテック富豪は、具体的にはサム・バンクマン=フリードを指す。
(ちなみに、楽天の三木谷浩史会長兼社長も、フルブライト・プログラムに9000万円、ウクライナに10億円を寄付)
サム・バンクマン=フリードは、イーロン・マスクに話しかけて慈善活動に協力してもらおうとしいたが、あまり関心をもってもらえなかったそうだ。イーロン・マスクは慈善活動には関心が薄いと思われる。
イーロン・マスクは、自分の資産を慈善活動に振り向けるのではなく、「人類を火星に植民できるようにする」方向に投資することにより「人類絶滅の可能性を減らす」ことが良いことだと考えている。この考え方は「長期主義」と位置づけられる。問題のひとつは、こうした判断がイーロン・マスクという独裁者の気分ひとつで下されること。
税金を払い民主主義に基づき分配する仕組みを軽蔑し、「資本主義の成功者である自分の方が良い判断を下せる」と考えることが、テック富豪らの共通点のひとつ。