「学習機械の概念が、われわれのつくった機械に適用されるのであれば、動物とよばれる生命のある機械にもこの概念は意味をもつにちがいない。それは、生物学的サイバネティックスにも、新しい光を投げかけるであろう。この方面の最近の数多くの研究の中で、生物体のKybernetics(綴りに注意されたい)についてのスタンレー-ジョーンズ(Stanley-Jones)の本を特に挙げたいと思う。この本では、神経系の活動レベルを保つフィードバックと、特別の刺激に反応するフィードバックに多くの注意がはらわれている。系のレベルと個々の反応の関係は、かなりの程度乗法的なものであるので、当然非線型とな…る」19-20頁
「どんな種類にしても、ある種類の分子を考えるとき、すでに存在しているものと同じ姿に、他の分子が作り出されるということは、工学で ‘鋳型’ を用いるのによく似ている、とはよくいわれていることである。工学では、機械の機能を決定する単位を型(pattern)として、他の同種の単位を作り出す。鋳型のたとえは、静的なものであるが、遺伝子分子が他の分子を作り出すには、何らかのプロセスがあるにちがいない。わたしは仮説としていってみるのであるが、生物学的物質の同一性を決定する型(pattern)の要素は、ある周波数、分子スペクトルとかいうべきものの周波数であるかもしれない。そうすれば、遺伝子が自ら組織化すること(self-organization)は…周波数の自己調整の一つの現われということになろう」16頁
Wiener, Norbert. (1948→1961) Cybernetics: Or Control and Communication in the Animal and the Machine, 2nd edn, The MIT Press.
=1956→1962→2011 池原止戈夫・彌永昌吉・室賀三郎・戸田巌訳『サイバネティックス——動物と機械における制御と通信』岩波文庫
「一個体の肉体的な自己同一性は、それを構成している物質に存するのではない。物質代謝に参加する元素に標識をつける最近の諸方法により、元素の交代が、人体全体についてのみならず、人体を構成するどの部分においても、長らく考えられてきたよりもはるかに速やかに行なわれていることがわかった。一個の生物の生物学的個体性は、或る種の過程の連続性と、その生物のもつ自己の過去の発達の効果についての記憶とに存するように思われる。このことは、その生物個体の精神的発達についてもあてはまるように思われる。計算機の言葉で言えば、一個の精神の個体性は、それの初期テーピング〔プログラミング〕と記憶との保有と、すでに設計されている線に沿ってのそれの継続的発達とに存する」105頁
「ある種の有機体、例えば人体は、しばらくの間自己の組織度を維持してゆき、しばしばそれを増大さえさせてゆく。それは、エントロピーの増大とカオスの増大と分化の解消の一般的な流れの中の一つの飛び地に似ている。生命は、死んでゆく世界の中の一時的な島である。われわれ生物が腐敗や崩壊の一般的な流れに抵抗してゆく過程はホメオスタシス(恒常性)として知られている。…
…ホメオスタシスによって維持されているパターンこそが、われわれ各人の自己同一性の判定基準をなすものである。…われわれは、絶えず流れてゆく川からなる川のなかの渦巻きにほかならない。われわれは持続的に存在する物ではなく、自己持続的に存在するパターンである。
一つのパターンは、一つのメッセージ(通信文)であり、メッセージとして伝送されることができる」99-100頁
社会学と誤用進化論😅を中心に読書記録をしてをります
(今はストーン『家族・性・結婚の社会史』1977年)
背景写真はボルネオのジャングルで見た野生のメガネザル
https://researchmap.jp/MasatoOnoue/