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「ドリーシュの体系の中で、秩序の根源であるエンテレキーはつまるところ、イデー的な存在となる。彼はエンテレキーという言葉をアリストテレスから借用し、またアリストテレスを最大の古典的生気論者と評しているため、アリストテレス的な哲学者と思われがちである。しかしその哲学の骨格はむしろ、プラトン的である。彼の哲学とは、世界のすべての秩序を包含するイデー的な存在としてのエンテレキーと、ランダムな存在のみを許す古典力学との葛藤として、いっさいはたち現れ、具体的な『個体性』を獲得する、というものである」334頁

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「ルー=ワイズマン[ヴァイスマン]学説を広義の機械説として却下したドリーシュであったが、受精卵の核の中にあらかじめ存在しているとしていた多様性の根源を空間外に求めたという点で、ワイズマン仮説を『非空間化』したものでもあった」333頁

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「生物の発生は、たしかにルーの言うように、見えない多様性が見えてくる過程であると定式化することができる。ここにも自明性の原理が適用されるとすれば、少なくとも見えてきた多様性に見合うだけの多様性が、あらかじめどこかに存在していなくてはならない。古典力学が占有する三次元の『現象空間』にこの多様性の起源が組み込みえず、むしろこれを積極的に拒否するようにみえるとすれば、もはや空間以外から空間の中へ供給される以外には考えようはない。それがエンテレキーである。秩序そのものであり、これを供給・制御する因子であるエンテレキーは、いまだ発現していない内的エンテレキーと、顕現した外的エンテレキーとがあることになる」332頁

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「力学が個々の原子の運動は記述しても、多くの原子の相互関係については何ら言及せず、かえって熱力学が示すようにバラバラな運動のみを許す、つまり現実の三次元空間を統御すると考えられた物理学的世界像が、世界の『無意味性(Sinnlosigkeit)』をのみ意味するとしたら、この世界に現に存在する秩序、多様性、個体性、意味、目的性は、どこからどのようにして与えられるのか。ドリーシュは、この巨大な難問にとり組むことに一生をささげたのである」331頁

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「熱力学第2法則の解釈問題は、当時の物理学者の間でも、力学的自然観が不完全であるか否かという論争に連なる中心的問題であった。これを象徴する事件が、1890年代のボルツマンとオストワルドとの原子論論争であり、これは、若いドリーシュが思索をめぐらしていた時期と重なっていた。ドリーシュは唯物論(Materialismus)という言葉を、自然現象すべてを究極的には原子の力学的運動をもって説明しようとする立場の意味で用いているが、この言葉使いはオストワルドと同じ用法である。オストワルドのエネルギー一元論が、ドリーシュが生命現象における物理・化学還元主義を否定し、秩序(エンテレキー)一元論へと進んでいった時、思考の型の先行モデルになったとも考えられる」330-1頁

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「調和等能系は典型的なエンテレキー体系である。エンテレキーは物質でも力でもエネルギーでもない。エンテレキーは空間中に存在するのではなく、空間以外から空間の中へ全体的、合目的的に作用するものである。これはいかにも非合理な主張のように見える。しかし、先入観なしにドリーシュの諸著作を読んでいくと、彼は今日言うところの情報概念に近いものを見つけていたのであり、エンテレキーとは情報を空間中へ供給し、その支配下にある対象を制御する作用因であると解釈できることがわかる。彼の用語の中で、今日の情報概念に相当するものは『多様度(Mannigfaltigkeitsgrad)』である」327-8頁

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先に訳者解説——
「有名なヘッケルの法則とは、正確には、自然分類と等値のものである系統樹と、個体発生と、系統発生との、三重の並行関係を主張するものである。それゆえに根本法則であったのである。
 しかしこれは見方を変えると、個体発生の原因は研究者にとっては操作不可能な(あるいは実験的に操作しようなどとは思いもよらない)、系統発生的・進化論的な時間に支配されているものであった。ほんらいの意味での個体発生の原因が追求されるようになるには、系統発生的因果関係から因果概念のみが、濾し取られる必要があった。この知的作業を体系的に行なったのがウィルヘルム・ルー(1850〜1924年)である。彼はその成果を発生力学(Entwickelungsmechanik)として提唱した」322頁

500文字制限だとたくさん書けますなあ…まだまだ字数が残ってます😅

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Driesch, Hans. (1914) The History of Vitalism.
=2007 米本昌平訳『生気論の歴史と展開』書籍工房早山

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