ドラマ版『Mr. & Mrs. スミス』
結婚してた2人が実はスパイでしたの映画版とは違い、スパイとして採用された男女が夫婦として暮らしながらミッションをこなすという設定。
ダウナーなセクシーさのある日常パートと、緊迫感のあるアクションシーンがシームレスに繋がっているのが楽しいし、ハネムーン→すれ違い→カップルセラピー→浮気→別居→復縁というよく見る結婚生活のあれこれを次々に遷移していくので結婚生活RTAぽいなと思いながら見ていた。
しかし、他のスミス達も恋愛関係になっているのを見るとそういう相性を考慮して組ませてそうなんだけど、その結果任務中にいちゃいちゃしたり小競り合いになったりでミッション失敗しそうになったり実際に失敗しているので、この会社大丈夫なのだろうかと思う(失敗したスミスを消す専用のスミスがいるというマッチポンプ感!)。
生活を人質にとっている仕組みの話だし、ぐだぐだ裏稼業感も『killer』とちょっと近いんだけど、あの殺し屋と違ってプロフェッショナルな振る舞いへのこだわりが少ないのは世代的な違いなのかな。
あと、クリフハンガーで終わるのは知ってたけど思ったよりしょうもない寄りのクリフハンガーだったのでエー…ってなってたらミッドクレジットでポール・ダノがすべてを持っていったのでよかった。
まあ去年は良い映画多すぎた気がする。2022年の作品賞候補今見ると本当になんだったんだという。
https://www.oscars.org/oscars/ceremonies/2022
久保茂昭『ゴールデンカムイ』
やたらに気合の入った203高地の戦いのシーンから始まるので全編こんな感じなのか?と思いきやそんなことはなく、出てくる熊や狼はぬいぐるみ感とCGまるだしだし、最終盤の見せ場のアクションは合成感すごいしでうーんってなった。
あと、この映画自体がたくさんいるキャラの顔見せ的な要素が強いし、原作もこの時点だとそこまで大きな山があるわけでは無いので仕方ない部分もあるけど、全体の盛り上がり曲線が上手く作れていないというか、序盤中盤のそこまででもないシーンで大仰な劇伴やもったいぶった演出をしているので全体のメリハリが弱い。
テロップもNHKのドラマみたいだし、カラコレも気持ち悪いし、とにかく好みではなかった。ただ、中盤のヒグマの巣穴のシーンは良かった。
ハン・シュアイ『緑の夜』
韓国にやってきて空港の保安検査員として働くファン・ビンビンは暴力的な夫と離れて生活しているが、ビザのために別れる事もできず、永住権のためにはお金が必要なので、仕事で出会った緑髪で怪しい雰囲気のイ・ジュヨンのドラッグを売りさばくのを手伝おうとするが、様々なトラブルでそのままずるずると犯罪を犯していくという話。
ありがちなプロットだし、そこまでおもしろい話でも無いのだけれど、ファン・ビンビンが完全に牙を抜かれてしまっていて意志を貫くことができず行動がぶれまくりなのは痛ましくてよかった。
ぶかぶかのメンズ服着せたファン・ビンビンに張り詰めてつらそうな顔させたら見応えあるのはそれはそうですねという感じ。
あとこの映画にも犬が出てくるけど、近年の劇映画で犬が担っている役割ってかつてキリスト教モチーフが担っていたものに近いのかもなと思った。
『雪山の絆』
1972年に起きたウルグアイ空軍機571便遭難事故を題材にしたJ・A・バヨナの新作。143分というやや長めの(とはいえ近年では標準的かもしれない)上映時間でありながら、登場人物の紹介も早々に飛行機が雪山に突っ込むので、その後の地獄のような日々の長さが際立つ。あと、墜落シーンの「ものすごい勢いで人体が押しつぶされてる様子」が映像表現キレキレで見てるだけで痛かった。
真冬の雪山で、食料もなく、捜索も来るかわからないという絶望的な状況なのに、皆で詩を発表しあったり、写真を撮ったり、ようやく救援が来るとなったときに身だしなみを整えたりとか、そういう人としての尊厳を守るための知性の輝きの尊さを感じるシーンがとてもよかった。