『のんびり心霊さんぽ』の配信中の画面には、横転した映像が映し出された。それと同時に映る不気味な人影。そのまま画面はブラックアウトした。
【チャット欄】「何???」「あっくん!?」「こわいこわいこわい」「とうとう祟られたか」
「はいど〜も〜!自称2代目あっくんこと、心スポ巡りTouTuber いっくん です!」
いっくん「今日はですね〜、僕が尊敬する超人気心霊TouTuberあっくんが配信中に消息を絶ったとされる現場に来ましたよ!」
いっくんは同行している撮影メンバー共にN校舎へ侵入した。いっくん「なんでもここでは過去にこの学園の生徒を閉じ込めてコロシアイなんかさせちゃったりだとか!その事件で亡くなった生徒たちの怨霊があっくんを連れ去ってしまったんですかね〜…」
【チャット欄のコメント】「その辺侵入禁止になったんじゃなかった?」「撮影許可撮ってるの?」
いっくん「ん、あれ」いっくんの配信している映像にブレが起きた。画面はあっくんの時と同じように横転し、いっくんやその撮影班の慌てふためくような音が聞こえた。
【チャット欄のコメント】「これマジ?」「ヤラセ乙」「何番煎じだよ」
話題を求めN校舎を訪れる配信者は後を絶たない。しかしそこを訪れた者たちは口を揃えて、「夜な夜な歩き回る配信者の霊を見た」と言い、配信をやめてしまう。配信の向こうの真相を知るものは、誰1人いない。
chapter7 END
登録者数 1341万6442人。これだけの応援者を集めた映えある優勝者は────
インタビュアー「餅付さんおめでとうございます!TOTを優勝されたお気持ちはいかがでしょう?」
餅付「ありがとうございます!衝撃過ぎて感情が追いついてないです。まさか自分が…」この表彰式は現在、TouTube上でライブ配信されている。チャット欄には数億規模の視聴者が同接し、さまざまな言語で祝福の言葉が投げかけられていた。
マテヨ「おめでとう餅付!お前を一目見た時から優勝するんじゃないかって思ってたんだよな。オレの目に狂いはなかった。嬉しいよ!」
餅付「あ、ありがとうございます!」餅付はレジェンドTouTuberの激励に萎縮しながらも、差し出された手を握り握手を交わした。
表彰式を円満に終えた翌日、餅付はマテヨが経営する事務所に招かれた。
マテヨ「最初に言ったな。TOTを優勝した者の願いを叶えるって。お前の願いを聞かせてくれないか」
餅付「はい。えと、俺の願いは『好きな時に美味しいものを食べられるようにしたい』です!」マテヨ「はは、お前らしいな。安いもんだぜ。生涯お前が食に苦労しないほどの大金をやるよ」餅付「ありがとうございます!」
マテヨ「それで、だ。その願いを叶える際にこちらから条件がある。お前には今後うちの経営するTouTube事務所に所属してもらいたい」餅付「所属!?え、でも…」
マテヨ「あぁわかるよ。正直個人で十分やれてるもんな。でもお前は今まで何度か炎上もしてきただろ?その度に登録者を減らしてきた。わかると思うがこの仕事は本当に不安定だ」
マテヨ「もしまた炎上することがあった時にお前1人で上手く収められるとは限らないだろ?そういう時のためにはウチみたいな大きい事務所に所属しておくのがいいんだ。わかるか?お前と言う才能を守りたいんだ」
餅付「なるほど…確かにマテヨさんの事務所なら炎上対策もしっかりしてそうですね。ちなみに、マテヨさんの事務所に所属したらどんな契約が交わされるんですか?」マテヨ「その辺を聞くとはしっかりしてるな。ここにウチの事務所の契約書がある。読んでくれ」
餅付は差し出された契約書に目を通す。契約内容の中に一つ、気になるものがあった。要約すると、「マテヨの事務所と“深い関わりのある組織”と積極的な交流をすること」とあった。
餅付「すみません、ここの『深い関わりのある組織』ってなんですか?」マテヨ「あぁ…それはだな」にこやかだったマテヨの顔つきが一気に真剣なものになった。マテヨ「ウチは…いや、正確にはTouTube社ではある大きな政党と繋がりがあってな。
「国民打益(こくみんだます)党だ。知ってるだろう。すごーくわかりやすく言うと、お前にはその政党の人たちと積極的に交流して、視聴者に向けて打益党のイメージアップに繋がる活動をしてほしい」
餅付「え!?それって……」
マテヨ「TouTube社は昔から打益党と深い関わりがあってな。TouTube上で選挙の際に打益党の宣伝をしたり莫大な資金を捧げる代わりに、打益党から税金面で優遇してもらったり、TouTube社に不利なトラブルを揉み消してくれていた。win-winの関係なんだ」
マテヨ「だが近年、他の動画共有アプリやSNSが広まったことでTouTube自体のアクセス数が減ってるんだ。利用者が減ってTouTubeの力が弱まれば打益党としても都合が悪い」「その現状を打破するのがTOTだった。そして、TouTubeの次世代を担う存在がお前だ」
餅付はあまりにもスケールの大きな話に呆気に取られた。マテヨ「お前と打増党の友好的な関係を見せていけば多くの視聴者が打益党を支持するようになる。そうすれば日本を支える二つの組織が救われる。こんな名誉な役目ないだろう」餅付「そんなことしていいんですか?法的に引っかかるのでは…」マテヨ「そこは大丈夫だ。引っかからないようにやるさ」
餅付「でも…僕のチャンネルの活動に合わない気がします」マテヨ「餅付。お前は日本一のTouTuberだ。トップの人間がトップたるには一つの活動に固執しちゃダメだ。活動の幅を広げて、最終的に国民を正しき道に導くTouTuberになるんだ」
餅付「………ごめんなさい。これからも、俺が好きに食べる事や願いのことは俺が頑張れば出来ることだと思う。けれどそういう事に関わってしまったら、それすら出来なくなってしまうと思います。だからそういうことなら断ります」
マテヨ「……は?」「それでいいのか?食い物だけの問題じゃねぇ。もっともっと登録者伸ばしたいだろ?辞退したらこの先の高みは見られなくなるぞ!」餅付「答えは変わりません。もしそれが願いを叶えてもらう条件なら優勝は辞退させてください」
マテヨ「……そうか。残念だよ餅付。
ここまで聞かれたからには消えてもらうしかないな」
餅付「え?」マテヨ「おいモレソ!!コイツが炎上するようなネタをでっち上げろ!!全世界を敵に回すような特大の炎上ネタをなぁ!」
モレソ「モモモ!やったレソ〜!!やっと面白くなってきたレソ!」
餅付「ど、どういうことですか!」
マテヨ「言葉の通りだ。お前が社会的に死ぬような炎上ネタをでっちあげて優勝を取り消してやる。“今回”のは今までの炎上とは比べものにならないネタを用意してやるぜ」餅付「今回のって、アンタまさか──」
マテヨ「そうだよ。お前たちに付き纏った炎上の数々、アレをしかけたのはオレたちだ」
「オレらの目的のためには登録者を増やしてもらうのは都合がよかったが、あまり数字を増やし過ぎてオレの脅威になっても困るからな。ほどほどに燃やして力を抑えさせてもらったよ」
餅付「なんてことを……その炎上のせいでどれだけの人が苦しんだと思ってるんだ!」
マテヨ「ハッ!周りが炎上してくれたおかげでオメーは成り上がれたんだろうが!お前が消えようがトップに据えられる奴は他にいくらでもいる。じゃあな餅付」餅付「そんな………やめろー!!」
─────────
百連撃「いいわけねぇだろ!デマならちゃん訴えろや!」旧惑星「やめろ百連撃!」
ゆうちゃむ「…それってさ、リルルちゃんもマテヨのせいで炎上したの?」
餅付「え?」ゆうちゃむ「モレソがリルルちゃんのプライバシーなこと勝手に明かして炎上させて、リルルちゃんすごく思い詰めてた。あれもマテヨが命じてたなら許せない」
ゆうちゃむは今も集中治療室で眠る古泉瑠璃の姿を思い出していた。
ZarameP「…どこまで関与してるんでしょうね…」ZaramePはファンに襲われた際につけられた腕の傷をさすった。自分を襲ったファンが自分の場所を特定した理由は警察から明かされなかった。もしそれがモレソやマテヨの仕業だったらと、恐怖した。
百連撃「クソっ、俺が逮捕されたのもマテヨのせいだってのかよ」Minato「それ百連撃サンの自業自得」餅付「で、でも何にしても証拠がないんだ。モレソとマテヨの繋がりも、政治家との癒着の証拠も。マテヨたちと戦うなんてできないよ」
旧惑星「うむ…その契約書とやらをなんとか回収できないかな」ゆうちゃむ「餅付くんがマテヨに謝ってさ、従うフリして懐に入り込むとかは?スパイ作戦」Minato「いやー流石にもう見限られてるでしょ」百連撃「…あ!待っていいこと思いついた!」
「え?」と皆の反応が一致した。百連撃「スパイ作戦。これでアイツらの鼻を明かせるはず!」
一週間後──────
優勝者がまさかの不祥事で活動を自粛し、あやふやな結末を終えたTOT。しかしTOTはそこで終わらない。マテヨたちは餅付に代わる優勝者を据えることにした。
マテヨ「いやぁ、本当アナタが無事でよかった。こうして新たな優勝者を見つけることができたんだから」
「ねぇ、あっくん」
あっくん「え、えぇ。繰り上がりという形ですが優勝出来て光栄です!」マテヨ「はは、動画の時に比べてアガってるな。そう畏まらなくて大丈夫だぜ」マテヨは餅付にした時と同じように、あっくんを自身の事務所への勧誘し、契約内容を明かした。
あっくんはマテヨに渡された契約書を何度も舐めるように見回した。あっくん「素晴らしい活動内容ですね!こんないい条件を餅付くんは断ったなんて…」その言葉を聞いたマテヨはしたり顔を見せた。
マテヨ「ふふ、実は餅付のあの炎上はモレソの『でっち上げ』なんだ」あっくん「えっ…?」
マテヨは餅付を意図的に貶めたことを明かした。それに続いてTouTube社と国民打益党との癒着、モレソとの繋がり、あっくんを畏怖させる目的で自身の所業を伝え、自身の権力の大きさを示した。マテヨ「餅付は馬鹿な男だがアンタはそんなことないよな」
あっくん「……なるほどな」「今のちゃんと“録れてました”?」
マテヨ「は?」あっくんは右耳に嵌められた超小型インカムに指を添え、通話相手に語りかけた。
旧惑星『バッチリ、契約書の内容もバッチリ録れてる』百連撃『流石Minato!!』
あっくん(?)「ちょ、名前出さないでくださいよ!!」
「オレのことバラさないでやるって話だったでしょ!」
マテヨはあっくん…いや、Minatの発言で悟った。このやりとりは撮影されている。あっくんが掛けているメガネのブリッジに小さな穴が空いていた。小型カメラだ。
様々な目的に使える、日本の汎用マストドンサーバーです。安定した利用環境と、多数の独自機能を提供しています。
餅付「え?」
ゆうちゃむ「モレソがリルルちゃんのプライバシーなこと勝手に明かして炎上させて、リルルちゃんすごく思い詰めてた。あれもマテヨが命じてたなら許せない」