内藤光博(専修大学法学部教授)「スラップ訴訟と言論の自由──名誉毀損損害賠償裁判を利用する言論抑圧の問題性──」 『専修大学今村法律研究室報』(2019) senshu-u.repo.nii.ac.jp/?actio

(専修大学法学部教授)「スラップ訴訟と言論の自由──名誉毀損損害賠償裁判を利用する言論抑圧の問題性──」 『専修大学今村法律研究室報』(2019) senshu-u.repo.nii.ac.jp/?actio

近年、大企業や政府機関により、ジャーナリストや報道機関はもとより、一般市民、そして市民運動団体や労働組合などの私的な団体をターゲットとして、「言論を封じ込めることを目的」とする民事損害賠償請求訴訟が問題となっている。いわゆる「スラップ訴訟」である。

スラップ訴訟とは、1980年代に、アメリカでその問題性が指摘された訴訟の特質を表す言葉である。英語では“StrategicLawsuitAgainstPublicParticipation(SLAPP)2)”という。直訳すると「公的参加を妨害することを狙った訴訟戦術」であり、具体的には「公に意見を表明したり、請願・陳情や提訴を起こしたり、政府・自治体の対応を求めて動いたりした人々を黙らせ、威圧し、苦痛を与えることを目的として起こされる報復的な

民事訴訟」と理解される。

スラップ訴訟の特徴をまとめると、以下のようになる3)。①大企業や政府機関(いわゆる公人や公的機関)が、その正否や妥当性をめぐり論争のある重要な政治・社会問題や公共の利益にかかわる重要な問題について、②大企業や政府機関など財政・組織・人材などの点で優位に立つ側が原告となり、③憲法の表現の自由で保障されている正当な意見表明行為(集会、デモ行進、ビラ配布、新聞や雑誌への寄稿、記事の執筆など)を行ったジャーナリストや報道機関、そして個人や市民団体などを被告として、④名誉毀損やプライバシー侵害、住居不法侵入、業務妨害などの民法上の不法行為にあたると主張して、裁判所に提訴して、多額の損害賠償金を請求するのであるが、⑤その真の目的が、裁判を提起することにより、金銭的・精神的・肉体的負担を市民や団体などの被告に負わせることにより、言論活動に萎縮的効果を与え、言論弾圧を行うことにある点、である。さらには付け加えるとするならば、スラップ訴訟がもつ萎縮的効果により、いまだ訴えられていない潜在的な公的発言者も、企業や政府機関の提訴をみて表現活動を躊躇するようになり、かつ市民や市民団体を提訴した時点で、

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彼らに苦痛を与えるという目的は達成されることになるので、原告の企業や政府機関の側は、訴訟の勝敗にはこだわることはない、いわば「裁判としての意味をもたない提訴」であるといえる。」引用ここまで(p.1-2)

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