小説を書いたりしてます。
【ほぼ百字小説】(5527) 木枯らし一号が吹いた日に、旅行に出ていた妻が帰ってきた。駅まで迎えに行って自転車の荷台に荷物をくくりつけ、暗くなって冷え込んだ路地を歩きながら、今回初めて行った温泉の話を聞く。日当山温泉。いい名前だ。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5526) 亀の魂は、甲羅と同じ形をしている。その長い生を甲羅の中で過ごすから自然とそうなる、という説と、逆に甲羅が魂の形に合わせて成長しているのだ、という説があるが、亀の魂が甲羅の形をしていることは間違いない。 #マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5525) ここにはないが、あることにしてやっている。本番ではないからな。本番でもないのに壊してしまうわけにはいかないし。ヒトはいないが、いることにしてやっている。本番ではないのに殺してしまうわけにはいかないし。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5524) 百字の欠片が並んでいる。その中にはそれを書いたときの時間が化石のように閉じ込められていて、もうここにはいない自分の欠片のようでもあるから、書いておいてよかった、などと書いているこの自分もやっぱりそう。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5523) 自分の持ち物に書いた名前のようなサインで、せめてもの賑やかしに落款っぽく見える判子を押しているが、それは娘が小学生の頃、商店街での職業体験イベントで彫ってくれたやつだ。「勇」という字は「亀」に似てる。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5522) 水の上にもコタツがあって、コタツを囲んだ団欒がある。コタツと団欒が滑るように川面を移動する。意外に速いのはモーターが付いているからで、そんなコタツと救命胴衣を着た団欒が今、橋をくぐって遠ざかっていく。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5521) 卵を落とせば月見になる、というのは、いったい誰の発明なのか。これまで蕎麦やうどんに限らずいろんな月見を食べてきたが、今度は月見にされて食べられる番か。卵のように割れて落ちてくる月を見ながら考えている。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5520) 満月のようにも見えるし、よく磨いたあの泥団子のようにも見える。あの泥団子の表面にも同じ形の海があったから、どちらとも言えない。まあどちらもずっと昔に壊してしまったから、どちらでもないはずだが。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5518) 大きな蟹のいる公園には、大きな蟹以外にもいろんなものがいたりあったりしておもしろいだろうけど、大きな蟹に襲われると大きな蟹のいる公園にあるもののひとつにされてしまうから、子供だけで行ってはいけないよ。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5517) 身体をその窪みに填め込もうとしているが、そのためには身体を窪みに合わせるしかない。いきなりは無理でも何度もトライして、身体を窪みに合わせていく。皆でそうする。皆がそうして、皆で動けば、世界が動くはず。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5516) たいしたことしてないのに、あちこち擦り剥いたりいろんなところが痛かったり、それでもやるべきことがやれるかどうかはわからず、まあやれるだけはやってみるか、おもしろいし、というのは小説でも何でも同じだな。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5515) 昔読んだ、世界が結晶化する話、こういうことだったのか、と何本も並ぶ人間の背丈の六角柱を見て思う。六角柱になることで、空間を無駄なく使えるのだとか。それで空いた土地には、ショッピングモールが建つらしい。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5513) 客席からは見えない通路がいくつもあって、思いがけないところから現れたり消えたりしたように観せることができる。不可能犯罪に思えるものの多くはそれだ。まずは、この世界が劇場であることを知るところからかな。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5512) 数ヶ月後にはこれになるのか、と思いながら読んでいる。目を通しているだけで、具体的にどうやってそれになるかは決めていない。すっごい面白いことをする、と書いてある。二度見する。えらいことになった、と思う。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5511) 運動している分子の速度を目視してより分けることで冷蔵庫内を低温に保つだけの簡単な仕事。そんな募集広告に釣られて悪魔の下請けというまさに闇バイトに引き込まれたのだった。ホワイト家電案件と思ったのになあ。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5510) 同じ時間を繰り返す。繰り返すことでぎくしゃくした流れはなめらかになるが、なめらかであればいいというのでもなく、などと考えながら、カーテンを開けると窓の外はもう夜だ。時間に置いていかれた気分でまた明日。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5509) いつも芝居の稽古に使う区民センターに大きな古いオルゴールがあって、でも時間が合わなくて、まだ音を聴いたことがない。稽古が始まる前に見て、稽古終わりでまたそれを見る。公演が終わったら、聴きに来ようかな。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5508) この先も書き続けるには生きていかねばならないし、生きていくには食っていかなければならず、そして食っていくには、などと考えたところでどうなるものでもなく、まてよ、死んでも書き続けられるならすべて解決か。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5507) 亀の縁としか言いようのない縁で集まった人たちとそれぞれが持っている亀の話を交換している。我々は亀によってこの場に集められたのだろう。亀の甲羅の縁側のようなあの部分に並んで腰かけ、亀の縁に感謝している。#マイクロノベル #小説
【ほぼ百字小説】(5506) 空白にするか、暗黒にするか。見えなくする方法は、大きく分けてその二つ。見たくないのか、見られたくないのか。見えなくする理由も、その二つか。この世界の始まりがどの組み合わせであったのかは、今も見えない。#マイクロノベル #小説
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