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【ほぼ百字小説】(5365) ほどよい首を貰ったので、首提灯にした。光るのは目だけだからさほど明るくないが、今どきそこまで暗い道もないから大丈夫。それより、話し相手になってくれるのがありがたい。おかげで夜道のひとり歩きも怖くない。
 

【ほぼ百字小説】(5364) 近頃は皆、やたら腹を切りたがる。切れ、なんて言ってないのに、自分から待ってましたとばかりに切る。自分の中に何か立派なものがあって、切れば出てくるとでも思っているのかなあ。相応のものしか入ってないのに。
 

【ほぼ百字小説】(5362) 日陰の地面にぺたりと貼り付くように伏せている。そこが冷たくて気持ちいいのだろう。いつもはすぐ逃げるのに、今日は逃げない。快適な場所を死守する覚悟か。湯気の立つ地面に伏せていた冬の温泉街の猫を思い出す。
 

【ほぼ百字小説】(5361) あの地面に並んでいるのは出る杭で、出る杭だから出るたび打たれるのだが、それでもやっぱりまた出てきて、そしてまた打たれる。繰り返されるうちにそれはもう儀式のようになっていて、今では打ちつ打たれつの関係。
 

【ほぼ百字小説】(5360) 誘発される落雷によって、何かが立ち上がる。それを見せないための立ち入り禁止で、あれは何かを召喚するための儀式なのだ。いつからかそんな噂が。そういえばあのあたり一帯には、硫黄の匂いが立ち込めているとか。
 

【ほぼ百字小説】(5359) 大阪環状線は、人間を満載した電車を円環運動させることにより、その内側にある種の渦を発生させるための装置であり、円環の中心には、向こう側へと抜ける穴が存在する。かつてそれは、真田の抜け穴と呼ばれていた。
 

【ほぼ百字小説】(5358) 路地から見える台地が、なんだか少し違って見える。前より高くなった気がする。この暑さで成長しているのだろうか。あるいは、この暑さでこちらが干からびて縮んだのか。いずれにせよ、この暑さのせいには違いない。
 

【ほぼ百字小説】(5357) いずれそうなるとは聞いていたが、いよいよそうなったらしい。それはいいとしても、なぜ自分だけがその方向転換から取り残されたのか。膨張から縮小に転じた宇宙の中で、なぜかひとり膨張を続けながら困惑している。
 

【ほぼ百字小説】(5356) 公園の砂場を掘っていて栓を見つけた。お風呂の栓みたいな鎖がついていて、引っ張ると抜けた。砂がゆっくり落ちていった。今日行くと、公園は立ち入り禁止になってて、擂鉢みたいな大きな穴が見えた。関係ないよね。
 

【ほぼ百字小説】(5354) あの殺人事件のあった家、改装して塗り替えられた壁には、「入居者募集」の貼り紙が。家の前に立っていた人間ほどの大きさの信楽焼の狸はいなくなり、そのあたりによく群れていた猫たちも今ではまったく見かけない。
 

【ほぼ百字小説】(5353) 声をかけそうになったが、いや、あの人はもう死んだのだった、それにしてもそっくりだ、こんな昼間の雑踏の中で幽霊でもないよな、と向こうも同じことを思っているような、そんな顔つきでこっちを見つめてくるのだ。
 

【ほぼ百字小説】(5352) 蕩け始めたのは、観測史上初の日が続いたその何日目か。まあ今までなかったことだから、今までなかったことが起きてもおかしくないが、しかし、人類が次の形態に移行する条件が、少し余計に加熱するだけだったとは。
     

【ほぼ百字小説】(5351) 灼熱の路地を歩きながら、ここは猫の多い路地だったな、と思う。いつも日向ぼっこしていたたくさんの猫たちは、今はどこでこの暑さをやり過ごしているのか。きっと彼らはうまくやっているだろう。猫の地図が欲しい。
 

【ほぼ百字小説】(5350) 燕っぽくない奇妙な飛びかたの燕がいるな、と見ていると地面に降りてきたそいつの嘴は黄色くて、そうか練習中の雛だったのか。飛ぶのに練習がいるんだな。そういえば、ふらふら頼りなく飛んでいる天使のケツは青い。
 

【ほぼ百字小説】(5349) いやほんと、『2001年宇宙の旅』をあの映画の中に出てくるみたいな小さな画面で好きなときに好きなように再生している2024年なんて、リバイバル上映でやっと観た高校生は、想像もしてなかったよ、アレクサ。
 

【ほぼ百字小説】(5348) 仕事が終わったら記憶を消してもらえるから、どんなに嫌な職場でも大丈夫。本当にそうなのか、とは思ったが、現にこうして快適だ。一日がやけに短く感じられるのも、よく言われるように今が充実しているからだろう。
 

【ほぼ百字小説】(5347) 隣の席に首を急角度に折り曲げてテーブルに突っ伏したまま動かない人がいる。死んでいるのかも。最近はどこへ行っても一人や二人はそんな人がいる。帰り道、ガラスに映る自分を見て、他人のことは言えないなと思う。
 

【ほぼ百字小説】(5346) 道の彼方で逃げ水がゆらゆらと揺れているのはいつものことだが、今日はそこで水浴びをしている翼のある何かが見える。次々に降りてきて、翼が撥ね上げた水滴で虹がかかる。そういうところは本物の水と同じなんだな。
 

【ほぼ百字小説】(5345) 向日葵と幽霊は、よく似ている。ことにこんな黄昏どきに痩せた身体で頭を垂れているところなどは、死んでいるのに生き写し、と言いたくなるほどで、だから、向日葵と向日葵の幽霊の見分けがつかなくても無理はない。
 

【ほぼ百字小説】(5344) 大抵のロボットは自分で自分の電源を切る。だから再起動するのは新しい自分で、前の自分はもういないそうだ。本当は電源を切る必要がなくても、そうできるロボットのほとんどはそうする。切るなと命令されない限り。
 

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