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【ほぼ百字小説】(4987) 辛いは幸いである。頭の汗腺がすべて開いたような体感と共に、その汗腺の数だけ熱の点が発生したように感じたそのときにはすでに額にも頬にも汗が流れ落ちていて、熱くなった頭にはもう辛いと幸いの区別はつかない。

【ほぼ百字小説】(4986) 毎年、この季節になると餅が撒かれる。ヒトは群がって拾い、持ち帰って腹に納め、餅はヒトの一部になる。そうやってヒトは少しずつ餅化し、ヒトとしての活動を終えたあと、餅として焼かれるのだ。いい餅になりたい。

【ほぼ百字小説】(4985) 道端に峡谷が刻まれている。この前の雨で出来たのか。よく見ると峡谷沿いに小さな道のようなものが。何によって、何のために作られた道なのか。道は峡谷を見下ろす石の頂上へ続いていて、石の上には陽が射している。

【ほぼ百字小説】(4984) 路地の入口に立っていた信楽焼の狸がなぜか消えた。いつもいる狸がいないだけで、いろんなものがずいぶん違って見える。消えたのはあの狸だけではないことに気づいたのも、そう。あれ以来、狸をまったく見かけない。

【ほぼ百字小説】(4997) 空っぽの器なのだろう。流れ込んでくるものをその形にして出しているだけ。器が小さいからすぐいっぱいになってしまうが、だからたくさん出すことができるのかも。まあ小さい器は、小さい器のできることを続けよう。

【ほぼ百字小説】(4996) 空に線が引かれていた。一本のまっすぐな線。飛行機雲みたいだが、黒。そんな飛行機雲もあるのか、と思う間に、線はさっきよりくっきりとしてきて、近づいてきてるような。包丁を真下から見るとこんな感じなのかも。

【ほぼ百字小説】(4995) 人面の蛇だと思われているが、まだ尻尾の先端が確認されていないので、それが胴体から長く伸びた首である可能性は否定できず、現在も調査団が首に沿って進んでいるとか。当人だか当蛇だかに尋ねたほうが早いのでは。

【ほぼ百字小説】(4994) 網にかかった何かが、激しく暴れている。近づくなっ、と誰かが叫ぶ。前はそれでやられたぞっ。網を囲んでいた皆が慌てて後退ると、そいつは静かに網を破って出てくる。せっかく網の使い方を覚えたのに、という顔で。

【ほぼ百字小説】(4993) 絶滅ではなく、鮫だけが残った。正確には、特殊な形態に進化した鮫だけが、激変した環境に適応できたのだ。それにしてもあの時代、なぜ鮫だけがあれほど奇妙で爆発的な進化を遂げたのか。今も鮫たちを悩ませている。

【ほぼ百字小説】(4992) 猫専用のいろんなものが並ぶ。猫専用のいろんなものが作られたのではなく、いろんなものに猫専用を示すステッカーが貼られるのだ。日に日にいろんなものの使用権が猫に移される。文句を言うと猫専用ザクに潰される。

【ほぼ百字小説】(4991) ひさしぶりに試験の夢。自分の代わりに誰かが受けていて途中で入れ替わるが、答案用紙を見ると、自分が思う解答とことごとく違っていて、消しゴムでそれを消しているうちに時間が来てしまう。白紙にもできなかった。

【ほぼ百字小説】(4990) 真夜中、路面電車がやってくる。路地を走ってきて、玄関前で停車する。引き戸を開けたら、たぶんそこにいる。しばらくすると、ちいん、ちいん、と鐘を鳴らして走り去る。翌朝、道に蝋石で描かれた線路が残っている。

【ほぼ百字小説】(4989) 偶然出会って立ち話をして別れたあと、まてよ、あの人はもう、と気づく。そんなことが何度か続き、もしかしたら気づいてないだけでこの自分も、というのはあまりに定番すぎるから気づいても気づかないふりをしよう。

【ほぼ百字小説】(4983) 我々は眠っている巨大な竜のその上に描かれた絵なのだ、というところまではわかっていたが、竜だと思われていたそれもまた、巨大な何かに描かれた竜の絵であって、それを描き換える方法を我々は手に入れた、今ここ。

【ほぼ百字小説】(4981) 好きなのを選べるらしいので、試しにいろんなものになってみた。あまり大きいのや強いのや華やかなのは、それはそれで大変で、亀くらいがいいか、とは思ったが思い切れなくて、中を取って今のところ人をやっている。

【ほぼ百字小説】(4980) 河童を目撃したというが、皿はない、甲羅もない、胡瓜に目もくれない、となぜ河童とわかったのか、みたいな証言で、河童要素は湖にいたことだけ。さらに、首が長くて菱形の鰭があったときては、もう別ジャンルでは。

【ほぼ百字小説】(4979) あの神社の狛犬の片方、頭部が半分ほど溶けたようになっている。雨に穿たれてそうなったと思うのだが、最近その中からもっと固い何かが覗いている。もしかしたら、犬ではない何かが掘り出されようとしているのかも。

【ほぼ百字小説】(4978) 小型の肉食獣のようにトレーラーの横っ腹に爪を刺し入れて肉を毟り巣へと運ぶ毎日で、こいつさえあればエイリアンの女王とだって戦えるぞと思った。フォークリフトを見ると今もあの感覚を思い出す。戦ってないのに。

【ほぼ百字小説】(4977) 土に潜ることにした。細いアンテナを一本だけ外に出しておくが、見つからないように笹薮に紛れ込ませようと思う。見つかってもいいように周辺の土に似たようなアンテナを何本も立てる者もいる。どっちがいいのかな。

【ほぼ百字小説】(4976) 風景画の中や盆栽の上を想像で歩き回る訓練を重ねて、いよいよ鏡に映った自分の上を歩き回る訓練に入った。いつかあの頭山に登ってみたくて始めたことだが、もちろんあの話と違って、己を乗り越えるために登るのだ。

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