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【ほぼ百字小説】(4865) 外の景色はどこまでも続く枯れ野。駅に停まったが聞き覚えのない駅名で、アナウンスされる次の駅名にも聞き覚えはない。また流れ始めた景色はやっぱり枯れ野のままで、これは枯れ野を駆けめぐる夢なのかも、と思う。

【ほぼ百字小説】(4864) 雨の日に庭の池から這い出してどこかへ行こうとするイモリが干からびて死なないように、その度に捕まえては池に戻してやる、という話を思い出したのは、有人火星船がまたしても途中で地球に戻ってきてしまったから。

【ほぼ百字小説】(4863) 亀がいなくなったことがある。物干しを隈なく捜索したが見当たらず途方にくれて、なのに翌日にはいつもの位置で甲羅を干していた。あれ以来、こいつはそうしたければいつでも出て行けるのだ、と思うようにしている。

【ほぼ百字小説】(4862) くたびれたソファを粗大ゴミに出すため、夜の間に家の前に置いた。路地にはみ出てないかを確かめにもういちど出ると、ソファの上には近所の猫が。猫はいい場所をすぐ見つける。そして古いソファに猫はよくにゃーう。

【ほぼ百字小説】(4861) 西日に照らされた風景が通り過ぎていくいつもの電車の中で、あ、と声が出たのは、なんだかわからないものが通り過ぎたから。同時にひどく心細い気持ちになったのもそのせいかも。本当はなんだかわかっているのかも。

【ほぼ百字小説】(4859) 川沿いに等間隔で座るカップルを見ながら、ああ本当に等間隔で座るんだ、と思い、ではこの間隔のひとつに異物を挿入したら、並びに変化は起こるだろうか、と考えたところで、自分はそのために作られたのだと気づく。

【ほぼ百字小説】(4858) すこしはマシなことができるかも、と自分をもうひとつ作ってみたが、自分は自分でしかないことが嫌になって処分しようとするであろうことも自分でわかっているから、その前にこの自分を作った前の自分を片づけねば。

【ほぼ百字小説】(4856) 袋の中から平たい顔が覗いている。小さな袋なのにその中に手品のように納まっているのは、顔以外も平たいからかな。立体のこの世界では、幽霊というものは平面に見える。誰かがそんなことを言っていたのを思い出す。

【ほぼ百字小説】(4855) また発展した、と路地の奥のあの家の前を通るたび思う。玄関脇にコンクリートの小さな囲みがあって、いろんな物が箱庭のように配置されている。城、鳥居、線路、富士山、日に日に発展する世界を見下ろす信楽焼の狸。

【ほぼ百字小説】(4847) たまに銀の天使を見ることはあるのだが、金の天使はまだ見たことがない。友達の知り合いが見たと言っていた、みたいな話は聞いたことがあるが、本当かな。金の天使は、銀の天使の五倍の力で缶詰を運んでくるという。

【ほぼ百字小説】(4846) 天使を並べる。白の天使は白の天使、黒の天使は黒の天使、灰色の天使は灰色の天使で並べる。途中、こんなふうに分けるより混ぜたほうがいいかも、と思ったときにはもう混ざり合っていて、パンダ模様の天使とかいる。

【ほぼ百字小説】(4845) どこからなのかわからないのだが、ナメクジが入ってくる。まああの柔らかさだから、ちょっとした隙間があれば通り抜けられるか。隙間はあるし。外は今、どうなっているのだろう。それにしても、丸々と太っているな。

【ほぼ百字小説】(4845) どこからなのかわからないのだが、ナメクジが入ってくる。まああの柔らかさだから、ちょっとした隙間があれば通り抜けられるか。隙間はあるし。外は今、どうなっているのだろう。それにしても、丸々と太っているな。

【ほぼ百字小説】(4844) 日あたりのいい狭い路地に、夜が落ちている。夜は猫の形をしているから黒猫のようにも見えるが、目を凝らすと星が見えるから夜だとわかる。近づくと逃げてしまう夜の邪魔をしないように、いつもとは違う角を曲がる。

【ほぼ百字小説】(4843) もうすぐ夜が来る。すべてが破壊され、燃えていたものも燃え尽きた。もう地上に光を発するものはない。そしてこれから来る夜には月も星も稲光もない。天にも地にも光のない完全暗転の中、世界の場面転換が行われる。

【ほぼ百字小説】(4840) まっすぐな路地の彼方から豆粒のような大きさで老婆が近づいてきたが、近づいても豆粒のようなままで、首をかしげて豆粒大の老婆とすれ違った。どういうトリックなのかな、と何気なく見た足もとの地面がえらく遠い。

【ほぼ百字小説】(4839) 天使も進化するのだろうか。そんなことを思ったのは、今朝、これまで見たことのない天使を目撃したから。天使は主として、その翼の大きさと形状で分類されているが、回転翼というのは初めてだな。メカ天使なのかも。

【ほぼ百字小説】(4838) 気配を感じて振り向くと、何かが物陰に身を隠す。子供の頃からずっとそうで、それは少しずつ近づいてきている。だいぶ近くなったが、いつかはっきり見えるのかな。どうせなら最後にその姿をはっきり見たいものだが。

【ほぼ百字小説】(4837) 双子じゃない。一時間前に戻ることができただけ。それで一生分の金を稼ぐことはできたが、身分証明はひとり分だから、ひとりのふりをして一緒に暮らしている。もう慣れた。今さら一時間後に帰りたいとは思わないな。

【ほぼ百字小説】(4835) 地図を片手に待ち合わせ場所へ来てみると、なぜかそこは舞台の上で、どういうことなのかわからないままに見回すと客席は満員で、それならわからないままなんとか続けるしかないか、と気を取り直したところで、暗転。

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