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【ほぼ百字小説】(5190) 数年前、妻はその滑り台で速度が出過ぎてふっとんでこけた。娘もそれを目撃している。ところが今年は大して滑らない。物足りないくらい。当時の写真と見比べても滑り台にとくに変化はない。実話怪談のろいの滑り台。
 

【ほぼ百字小説】(5189) ごんごんごん、とケーブルカーの音。あわてて線路から飛び退いたが、ケーブルカーは見当たらずケーブルも動いてない。音だけが近づいてきて、音だけが遠ざかっていった。飛び退かなくてもよかったな、とは思わない。
 

【ほぼ百字小説】(5188) そうそう、筍の皮を剥ぐように外側を剥がしていく。コツさえ掴めば簡単。こうして芯の部分だけにすれば、人間は8分の1くらいにまで小さくできる。たまに全部無くなってしまう人間もいるけどね、それは仕方がない。
 

【ほぼ百字小説】(5187) 昔、人間を小さくすることで人工爆発と食料危機を乗り切るという計画が密かに実行されたが、密かに中止され、そのとき小さくされた人間たちが今も密かに暮らしているという。それはそれでひとつの成功の形なのかも。
 

【ほぼ百字小説】(5186) 灯台だとばかり思っていたあれが灯台ではなかったと今はっきりしたが、今さらどうしようもなく、ただこうして空の彼方へと消えていくそれを見送るだけ。まあ、前もってわかっていてもどうしようもなかっただろうが。
 

【ほぼ百字小説】(5185) 今年こそは過去の自分を掘り出そう。去年はすでに掘られていて、手ぶらですごすご帰ってきた。しかしあんなものを掘り出す者が自分以外にいるとは。もしかしたら未来の自分かも。まあ、それはそのうちわかることか。
 

【ほぼ百字小説】(5184) 床を育てていた。その上に立つのに、その上を転がるのに、その上で踏み切るのに、ほどよい床に育て上げるのだ。それを使って跳躍して、ここに着地した。今は、地面を育てている。根を下ろすのにちょうどいいように。
 

【ほぼ百字小説】(5183) どう観ても猫ではないが猫だと言われれば猫として観ることができるし、どう観ても幽霊ではないが幽霊だと言われれば幽霊として観ることができる、というのは舞台の不思議、と思ってはいたが、まあ現実だってそうか。
 

【ほぼ百字小説】(5182) 今朝も飛行機雲が伸びていく。頭の上にくっきりと見えている。もう飛行機なんか飛んでないのに。これは空の記憶の再生、つまり回想のようなものだとか。そんなことがあるんだな。まあ我々も同じようなものらしいが。
 

【ほぼ百字小説】(5181) 雀なんかもういないのに電柱の影のまわりには雀の影が飛び回っていたり、雲なんかないのに雲の影が荒野を渡っていったり。おかしなことが続いているが、月蝕のはずなのに月が欠けないことに比べれば、些細なことか。
 

【ほぼ百字小説】(5180) 甲羅の中で暮らしている。膝を抱えて丸くなればぴったりの広さ。いつも夢と現のあいだでうとうとしている。何の甲羅だろう。亀なのか、蟹なのか、どちらでもない何かか。というか、いつ甲羅の中だと知ったんだっけ。
 

【ほぼ百字小説】(5179) 路地の中から見える隣町の高いビル、こんな雨の日は上半分が雲に隠れて見えなくなる。見えないのではなく、存在してないのかも。そんなことを思うが、向こうから見てもそんな感じか。いや、晴れてても見えないかな。
 

【ほぼ百字小説】(5178) かつては畏れられた大怪獣だが、お座敷がかかると尻尾を振ってすり寄っていく。自分より強い者を本能的に見分けるのだろう。今は老人になったかつての子供たちにそんな自分の姿を見せるのも役目、などとしたり顔で。
 

【ほぼ百字小説】(5176) 耐用期間を過ぎた部分を切除することで全体としての延命が可能。まして、もう死んでいるのだから寿命に限りはない。適切に処理すれば少し小さくなるだけで以前と同様に動く。最近、小さいゾンビをよく見かける理由。
 

【ほぼ百字小説】(5175) ここに住むようになってからずっとその空間を占めていたあの冷蔵庫を同じ大きさの冷蔵庫と入れ替えるほんの数分間だけ、この景色が見える。次に見るのは何年後になるのだろう。というか、見ることはあるのだろうか。
 

【ほぼ百字小説】(5174) 軟弱地盤だから重ければ重いほど沈んでいく。石を抱かせるだけで沈めてしまえる。そんな利用法が見つかってから、あそこは墓地として有効利用できるようになった。いちばん底には使いものにならない基地があるとか。
 

【ほぼ百字小説】(5173) 妻と娘から、太った柴犬の話を聞いた。太った柴犬、というのがどうもイメージできなくて、しかもその太り具合がすごくいい、というからさらにわからない。人面犬とかのほうがまだわかる。太った人面犬ならなおさら。
 

【ほぼ百字小説】(5172) 今日も有翼の何かが飛行している。有翼ではあるが、飛行にあの翼が使われていないのはわかっていて、だが飛行と翼とは無関係、とも言えないのは、いかにも飛びそうなその姿で世界を騙している、とも考えられるから。
 

【ほぼ百字小説】(5171) 鼠がいなくなってひと安心していたが、もしかしたら鼠とその痕跡を見ないようにしているだけかも。我々にはそんな機能もあると聞いたことがある。コードを齧ってそんな調整を行うことのできる鼠がいる、というのも。
 

【ほぼ百字小説】(5170) ずぶずぶ沈んでいく。どこにも平らなところはない。どこにも真っ直ぐなところはない。それでも、沈んでない、と主張する。周りといっしょに沈んでいるからなのか。ここへ来れば、沈んでないのがわかる、と主張する。
 

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