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【ほぼ百字小説】(5083) 猫たちがよく日向ぼっこしている路地で、こんなにぽかぽかいい天気なのに一匹もいない。首を傾げて通り抜け、しばらく歩いてから、いないのは猫だけではないことに気づく。道路に出た。信号は赤だが、自動車もない。

【ぼほ百字小説】(5082) 長いブロック塀の上に猫が並んでいる。近隣の猫勢ぞろい、といったところか。ただ並んでいるだけではなく、なんらかの規則に従って次々に入れ替わる。ごろごろとつとつ音がする。何かを計算しているのだろうと思う。
 

【ほぼ百字小説】(5081) 生きているほうならいいが、死んでいるほうに確定してしまうかもしれないから、あえて確定させずにきたのだが、ここまできたらやるしかないか。まあ最近では、死んでいると確定しても動き続ける方法もあるらしいし。
 

【ほぼ百字小説】(5080) 期限までに確定させねばならないのに、ついつい観測を先送り。期限は前から確定していたのだから、そこに向けてちゃんと収束するだけなのに。まあそれができるくらいなら、こんな曖昧に発散したまま暮らしてないか。
 

【ほぼ百字小説】(5079) 毎日歩いている道で見かける馴染みのあの亀もこの亀も、そろそろ冬眠から目覚めた様子だが、ではうちの物干しの亀は、と見れば、盥の水の底で目を閉じたままほんの少し首を伸ばしただけ。視線は感じているらしいが。
 

【ほぼ百字小説】(5078) 虫たちが蠢き出す季節になって外出は楽になったが、ばらけないように自分を維持するのが大変。まあ虫の集合体という形態を選んだのは自分だし、すぐに慣れていろいろできるようになる。ぼくらはみんなで生きている。
 

【ほぼ百字小説】(5077) みんな白くなったなあ。舞台の上にいるのを客席から見ているからよけいにそう思うのか。まあ白くて当然の年齢だし、そういう年齢の役で、わざわざ白くするまでもなく白い。トイレの鏡の中の自分の頭ももちろん白い。
 

【ほぼ百字小説】(5076) 毎年この時期になると、いつも通る歩道沿いのガレージの入口に水を入れた衣装ケースが置かれていて、中に亀がいる。冬眠から目覚める亀に日光浴させているのだ。おお今年もかわいがられてるな、といつも声をかける。
 

【ほぼ百字小説】(5075) 完成予定図からすると、ここに出来るのは底なし沼らしい。毎日大量の土砂が投入されているが、もちろんその上に立つためのではなく、立ったものを沈めるための土砂。完成しないことによって完成する底なし沼である。
 

【ほぼ百字小説】(5074) 液体で満たされた丸いガラス瓶の中の脳は今も生きていて思考もしているとか。いや、そんなことより、と自慢げに博士。この細口の瓶の中にどうやって入れたのか、わかるかね。わかる。博士がだいぶイカれているのも。
 

【ほぼ百字小説】(5073) 人間をひと繋がりの文章として読めるようになって、ごく稀にだが繋がった文章になっている人たちがいたり、繋がってはいないが並ぶといい感じな人たちがいることがわかった。だからどうだということもないようだが。
 

【ほぼ百字小説】(5072) 船底の穴を塞ぐため、という名目なら乗客は仕方なく追加料金を支払うことがわかってしまってからというもの、船員たちの主な仕事は船底に穴をあけることになったらしい。ああ、救命ボートにも穴をあけちゃったかあ。
 

【ほぼ百字小説】(5071) 通路を隔てて向かいの席の人がテーブルに突っ伏して寝ている。その連れの人も突っ伏して寝ている。まあ春だしな、と見回すと、その両隣の席の人も窓際の席の人も壁沿いの席の人も寝ているが、私が寝ているだけかも。
 

【ほぼ百字小説】(5070) 四角く加工されるのは、空間を隙間なく埋めるため。そう聞かされていたのだが、たんに食べやすいからだ、と知って、でも食べられて吸収され何かの一部になるというのは、空間を隙間なく埋める、と言えなくもないか。
 

【ほぼ百字小説】(5069) 我々の身体がほぼ同じ大きさでほぼ同じ形なのは、それがちょうどいいからだという。いったい何にちょうどいいのかは知らないが、それを知ったところでちょうどいいのは我々にとってではなく、誰かにとってだからな。
 

【ほぼ百字小説】(5068) ざうざうざうと寄せる波はすべて螺子で出来ていて、この螺子の海の底には全自動螺子工場が沈んでいる。螺子だけでは何も作れないようにも思うが、長い時間さえあれば、太古の海がしたように生命くらいは作れるかも。
 

【ほぼ百字小説】(5067) ああ、なんでもカレー味だったよ、あの店は。うどんにラーメン、唐揚げにポテサラ、味噌汁までも。もう店主の信念というか信仰だね。あそこで長いこと朝から晩まで働いてたもんな。その証。カレー臭なんて言うなよ。
 

【ほぼ百字小説】(5066) こってり味のラーメンをあっさり味に変える魔法、こしあんをつぶあんに変える魔法、どうでもいい魔法の代表と思われていた二つの魔法の比較解析が、若返りの魔法というビックヒットを生んだことを忘れてはならない。 

【ほぼ百字小説】(5065) 亀が冬眠している盥の水面に空が映っている。物干しだから空は広い。冬のあいだはずっと水底で動かない亀の甲羅は、緑の藻にびっしり覆われていて、空から見下ろした森のようでもあり、転覆した船底のようでもある。
 

【ほぼ百字小説】(5064) 前を通りかかって見るたびに、少しずつ沈んでいた。両隣は何ともないのに、その家だけが沈んでいく。完全に沈んで深い穴になり、今そこには蓋がしてある。あれは家ではなく乗り物なのだと知らない人が教えてくれた。
 

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