『俳句界』2023年2月号掲載、第13回北斗賞発表から佐々木紺さんの「おぼえて、わすれる」の好きな句について。
鶴帰る世界より夢剝がしつつ 佐々木紺春を迎えて北方へ帰ってゆく鶴、鶴が夢という大きなベールを引き去っていくとその下の世界が順々に目覚めてゆく、という童話のような、あるいは詩的な情景を思い浮かべる。「夢剝がしつつ」になぜか強い手触りを感じる。目覚めるとき、なにかを剥がす感じは確かにある。でもここで剥がされる夢は寝て見る夢ではなく夢や希望の夢かもしれないとも思う。
藻の花や夜は仮縫をいつせいに 佐々木紺水面に小さな花がたくさん咲いている。緑色の藻の上に茎をのばして立つ可憐な白い花たち。そこに取り合わせられた「夜は仮縫をいつせいに」。仮縫をしているのは誰、と想像したときに上五のイメージに引っ張られて小さな妖精たちを想像してしまう。「藻の花」というものの、人間からは俯瞰できる感じが影響してると思う。大奥における呉服の間の様子やグリム童話の『こびとのくつや』も頭をよぎる。仮縫という誰でも知ってるのに普段ほぼ使わない言葉が出てくるのもすごい。
平面をつまんで振れば浴衣かな 佐々木紺この句は「着物」全般にあてはまりそうなことなんだけど(とはいえ平面が立体になる着物の面白さに着目できても “つまんで振れば” なんてフレーズなかなか出てこないだろう)、「浴衣」としたことで有季の俳句になっている。それが有季とするためだけの浴衣なのかというとそうでもなくて、浴衣の質感をここに読み取るとフルフルフル…ではなくバサバサッ!という糊のきいた振り心地が感じられて涼しげ。余談ですが最近安い浴衣を買ったら布の端の表から見えないとこがロックミシンで処理されてて驚きました。それがアリなら自分でも縫える気がしてきた。
風死して鋭きものを選りぬく手 佐々木紺かっこよすぎんか!?シャーリーズセロン様なの!?梶芽衣子様なの!?職人気質の熟練の殺し屋ですよね。もうね、殺されたい。
秘密告ぐるほかなき蚊帳の狭さかな 佐々木紺BL句会の空気感。俳句で人と人の関係性を書く、つまり登場人物が二人いることを示すのはなかなか難しいんだけど、こんなシンプルな言葉の組合せでスルッと関係性を表現できるなんてさすが萌選の帝王(※そんな二つ名は無い)。君とも僕とも言わずに表現された君と僕。
春雨をほのかに梳きて天の櫛 佐々木紺春雨を髪に喩えている、と言っていいのかな。天の櫛でほのかに梳かれた雨はふんわりと柔らかく細く降っているのではないか。たぶん夕立は梳いてないからあれなんだわ。ゲリラ豪雨は雨界のドレッドヘアだ。つまりゲリラ豪雨はレゲエとか聴くタイプ。話がそれた。目に見えるものを使って目に見えるように書くのが俳句の正攻法だけど、天の櫛という存在しないものを使って春雨の柔らかさが目に見えるように書かれている、というところがおもしろい。
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春雨をほのかに梳きて天の櫛 佐々木紺
春雨を髪に喩えている、と言っていいのかな。天の櫛でほのかに梳かれた雨はふんわりと柔らかく細く降っているのではないか。たぶん夕立は梳いてないからあれなんだわ。ゲリラ豪雨は雨界のドレッドヘアだ。つまりゲリラ豪雨はレゲエとか聴くタイプ。話がそれた。目に見えるものを使って目に見えるように書くのが俳句の正攻法だけど、天の櫛という存在しないものを使って春雨の柔らかさが目に見えるように書かれている、というところがおもしろい。