例によって〈自分の小説〉の登場人物に深みを出すための資料本としての読書。この五段階のどこに位置付けられるかを考えるだけでも、彼らの価値観を想像できるようになる気がしました。
登場人物には上級者と中級者がいるのですが、上級者であっても高校生なら「空」には到達していなかろうが「心」を掴んだために後輩の指導が自在にできたり、あるいは中級者でも「型」と「観」との間でグラデーションがあったり、それとも自らのことを中級者だと感じているけれど「遊」の砂浜でちゃぷちゃぷしてるだけかもしれない……。
本書の細かいエピソードを拾うと「「もし」の力」が特に創作の役に立ちそうだと感じました。ある(非言語的な)技能を言語で他者に伝える際に「もし」を使って、別のシチュエーションに置き換えて(もしもグラウンドが熱い砂浜だったら)みる。そうすると、思考の制限が取り払われて別の領域にジャンプできる。
価値観が革命的に新しいものに変化するとそれまでの自分ではいられなくなる。人間のそういう可能性を信じさせてくれる一冊でした。
上達・熟達に関しては2023年に読んだ『習得への情熱』(ジョッシュ・ウェイツキン)も説得力に富んでいましたが、『熟達論』は『習得への情熱』よりも抽象化の度合いが高くて好みでした。