つまり小松原氏においては
描きが空間に拡張していたと、より正確には、もともと絵画空間に対して持っていた小松原氏の意識が実際の三次元空間にもよりリテラルな形で拡張していたと言えるわけですが、かかる氏の意識は、インスタレーションについて考え直すことをも見る側に要請していると考えられます。
日本語では任意に設定された空間にいろいろなものごとを設置するジャンルという形で漠然と理解されているインスタレーションですが、ところで1980年代前半に「関西ニューウェーブ」と呼ばれた一群の美術家のひとりであった画家の山部泰司(1958〜)氏は「絵画の枠を外すとインスタレーションになる」と、かつてとあるトークで語ってまして、これはインスタレーションについて考える上できわめて示唆的ではないだろうか。先ほど述べたようにインスタレーションは──もともとinstallという言葉を語源としていることからも見出せるように──設置というニュアンスを色濃く帯びた上で欧米における最新の表現として日本に導入された(概ね1970年代後半〜80年代前半と言われている)のですが、山部氏の発言はその同時期においてもうひとつのインスタレーションの可能性、つまり絵画空間と現実の空間を連続させることでインスタレーションとしての絵画というべきものの可能性が潜在していたのではないかと言っているに等しいわけですね。小松原氏が描きという形で行なっているのもまたかような絵画空間の拡張であり、絵画の枠を外すことをまさに実際にやってみせることにほかならないわけで、そのような絵画とインスタレーションの関係性(この点に関しては、以前として未考察の広大な領域が広がっているのではないでしょうか)について見る側に意識を向けさせる、きわめてレベルの高い仕事となっていたと言えるでしょう。
あと、純粋に氏の描きによる絵画空間の中をそぞろ歩くのがけっこう楽しい。身体的な快楽にも訴えかけていることは、最後に付記しておきたいところ。明日まで
the three konohanaで開催中の小松原智史「ふたたび巣をたてる」展。
これまで国内外で作品を発表し続けながら定期的にこのthe three konohanaで個展を開催している小松原智史(1989〜)氏、同所での個展は一昨年以来2年ぶりとなります。
そんな小松原氏、それ自体に意味や参照先を持たない何かが氏のペン先や筆先からどんどん生み出され増殖し面という面を埋め尽くしていくように描かれる絵画、というかそれ以前の描きとしか言いようのない平面を長年描き続けています。かかる作風で2013年に岡本太郎現代芸術賞の特別賞を受賞したこともありますが、近年は奈良県の山奥に暮らしながら、関西や中京圏、果てはスペインに至るまでフィールドを広げている。その意味で今回の「ふたたび巣をたてる」展は、かように近年大きな広がりを見せている小松原氏の描きの現在を濃縮して見せることに注力されていたと、さしあたっては言えるでしょう。
以上を踏まえた上で今回の「ふたたび巣をたてる」展に向き合ってみると、そこにおいて特徴的なのは、これまでのような壁面やカンヴァスに加え、ギャラリー内に木枠を組み合わせた構造物が作られていることです。かかる作風は2018年に同じthe three konohanaで開催された「巣をたてる」展でも一度行なわれており、その意味では今回の個展は、タイトルに「ふたたび」がついていることからも一見即解なように、続編というか再挑戦という性格を強く帯びたものとなっているのですが、今回は新たに3Dペン(熱せられた樹脂でいろいろ描けるというアレ)が導入されており、描きがこれまでのような平面にとどまらず立体にもなっていた──特にかかる描きによって樹木を模した形も作られていた(実際、奈良県の山奥で開催された芸術祭で野外に展示されていたという)のが、個人的には興味深かったです──ことに注目すべきでしょう。「巣をたてる」展のときは、木枠による構造の間を紙=支持体が張られ、そこに描きが施されるという形で行なわれていたことが、3Dペンによる描きによって支持体なしになされていたわけで、さらにラディカルになっていたのでした。
田名網敬一(たなあみけいいち)御大を、油断してるとついつい「たなも けいいち」と読んでしまうの、超高確率でこいつのせい [参照]
【プレビュー】「田名網敬一 記憶の冒険」8月7日から国立新美術館で https://artexhibition.jp/topics/news/20240722-AEJ2215927/
2024.8.7〜11.11。田名網敬一(1936〜)御大、もしかして美術館での個展って初めてでしょうか。近年はNANZUKAが空山基(1947〜)氏とツートップで、日本におけるアングラカルチャーとポップアートの特異的な交差点的存在という(再)パッケージングのもと海外にも売り出しているのが目立っていますが、この「田名網敬一 記憶の冒険」展はどうなるのやら?
京都市京セラ美術館で開催中の「LINK展21 枯れない涙」展。
2003年の結成以来、毎年だいたいこの時期に会員展を開催しているLINK展。当方、かような団体展にはあまり縁がないのですが、このLINK展に出展している知人が何人かいるので、割と見に行ったり。で、今回は総勢72名の出展作家による新作が出展されていました。毎年テーマが変わるこのLINK展、今年は「枯れない涙」というテーマで、「涙」というお題にふさわしいエモい作品から、そうでもないけど強度は異様にある作品まで多彩な作品が平面・立体問わず出展されていました。
ここでは当方の知人の出展作品だけ紹介しておきます。田中佐弥女史は即身成仏したピエタといった趣のオブジェを、イガわ淑恵女史は長年にわたって続けているドローイングがディスプレイ上でスライドショーされるインスタレーションを、斧田唯志氏は我が国において毎年12〜15万件も中絶が行なわれていることから想を得たインスタレーションをそれぞれ出展しており、エモい作品が多い中でも異彩を放っています。田中女史はあちこちから集まってきた様々なモノを組み合わせて寓意的なオブジェを作る──本職が占い師であることがその寓意に巨大な説得力を持たせていることは、ここで指摘されるべきでしょう──のですが、ここでは(東北に土着化した)仏教とカトリックと(鹿の角が示す)原始信仰が混淆しており、より強いヴィジュアルとなっている。イガわ女史はその日のニュースに言及しつつ溺れている自分自身をモティーフにしたドローイングを続けており、今回のインスタレーションでは黒く塗られた古新聞を多用することで、自身の営みの時事性を強調していたのでした。そして斧田氏は様々な政治・社会問題の中でも、右翼左翼双方から目を背けられがちな中絶問題をめぐって、見ようによっては露骨に露悪的な表現によって見る側の注意を喚起しており、ともすると既存のルーティンとして設定された政治問題のもとにアートが動員されがちな昨今の情勢に対するカウンターとして、なかなか強烈なものとなっている──けどこれ、キラキラ左翼・パヨク化してひさしいフェミどもが巣食う東京ではまぁ展示不可能ではないだろうか
読売新聞150年 ムササビ先生の「ヨミダス」文化記事遊覧 : 読売新聞オンライン https://www.yomiuri.co.jp/feature/titlelist/読売新聞150年 ムササビ先生の「ヨミダス」文化記事遊覧/
今年創刊150年の読売新聞ですが、1898年から昭和時代までの間、作家や画家などの文化人の消息を羅列していく「よみうり抄」というコーナーがあったそうで、そこから面白トピックを拾って振り返る連載が知らん間に始まってたんですね。今知った(爆)。目次を見るに、藤田嗣治や横山大観、高村光太郎・智恵子夫妻、荻原碌山、フュウザン会、正宗白鳥とそうそうたる面々の小話が紹介されているようで、しばらく読み飽きなさそう
早川書房がマンガ配信サイトを始めること自体は以前から仄聞してましたが、昨日オープンしたそうで。ラインナップを見てみると、案の定と言うべきか、同社から刊行されたり翻訳権を独占したりしているIPのコミカライズが中心を占めているようですね(←「異世界転生特集」のカテゴリーから目をそらしながら )。さて……
「エリザベス・ペイトン:daystar ⽩露」が京都・祇園の両⾜院で9月に開催。京都最古の禅宗寺院を絵画、ドローイング、版画が彩る https://www.tokyoartbeat.com/articles/-/elizabeth-peyton-daystar-hakuro-news-202407
2024.9.8〜24、建仁寺塔頭両足院。エリザベス・ペイトン(1965〜)、日本での個展は2017年の原美術館以来となるそうですが、京都は初めてか力抜けよ感はありまして しかしそれにしても建仁寺内にある両足院って、以前から個展をよく拝見しているかのうたかお氏もグループ展に出店してましたし、どういう方針でか現代美術and/or現代工芸の展覧会がよく開かれてまして、チト気になりますねぇ
このYoshimi Artsに限らず、
各ギャラリーがマネタイズ度外視で巨大作品を展示しまくって見栄と意地の殴り合いを見せていたわけで、これ長く続けてほしいですね。個人的には(建物の構造上ワンフロア貸切状態にしかできない)4Fを成層圏に見立ててトラス構造のオブジェを並べてみせたART COURT Gallery/西野康造氏の横綱相撲っぷりに瞠目。実力ある作家じゃなければバカ負けしてしまう空間をよくここまで統御してみせたものです。ほかにもスーパーロボットの頭部+ロケットパンチ+美人画という謎の取り合わせで作者を紹介しきったGALLERY KOGURE/石黒賢一郎氏、戦時下の文楽についてリサーチして描いた巨大絵画を出展したTEZUKAYAMA GALLERY/後藤靖香女史、書と絵画と版画のいずれにもケンカ売ってる感満点のbiscuit gallery/大澤巴瑠女史あたりが強く印象に残りました。
好事家、インディペンデント鑑賞者。オプリもあるよ♪