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『アイアンクロー』は「最強ファミリー」のファンタジーをアイアンクローに集約しているあたりも含めてメロドラマとして非常に堅実なつくりで、たぶん今年いちばんの「うまい」新作枠なんじゃないだろか。そのぶんやや食い足りないかも?と思いつつ、改めて各シーンを思い出すとよくできてたなあ…としみじみ。時間の流れが少しわかりにくいところも含め、これも「主観」の話なのだな。

過去作と最も差異を感じたのは(あと『フォックスキャッチャー』も想像してたのでそこと比較して)カラーになったとたんに低温感がなくなって、そのまま常に「温度」が微熱気味に保たれていたこと。今回も撮影はエルデーイ・マーチャーシュ。基本的には光と影を同一人物上に乗せるというのが繰り返される&大変エネルギッシュにワンショットでムーブを押さえていく。ただときどきダーキン印の不穏な「何も映ってないのに怖い」ショットがふっと挟まれて温度が下がるのがスリリング。とはいえ、この映画は「あたたかい」、だからこそ怖くて悲しい。

で、この「微熱っぽい」時代性も含めた悲劇を処理するにあたってザック・エフロンの今の年齢が効いてる気がした。顔と体と動きと表情が何か全部かみあってないアンバランス、と微熱感のマッチ。あの時代の「神話を信じている少年」がまっすぐすぎる目に宿っていた

バキバキの体が肉襦袢着てるみたいですっごい居心地悪そう、そのうえいつも頬が上気している感、ちょっと気持ち悪い真面目な「みんなでずっと遊んでたいのに」なこどものせつなさ。フィルムの赤みの強い感じが「あの時代」の微熱感になり、それが彼の「居心地の悪い身体」にあるものとしてとてもよくあっていたと思う。ある時代のイメージ。ボワボワとした熱っぽさとぼんやりした感覚(ダーキンはいやーなズームとぼんやり映っているものを使うのがホントにうまい)があるのも「本物」性が生まれた理由なんだよなあ。あの人なら「家族ー!」以外のことは何もないであろうよ、という存在の悲しみと優しさ(不器用という光)を体現するには20代のピチピチではない彼だからこそよかったのだよなー。いや、良い俳優だなあ。見入っちゃったよ。

「悲劇の瞬間」をことごとく外し続ける作劇に挟み込まれたベストショットはやはりあの階段です。最強ゴースト映画!といいつつ、ただ路上の光が写っているだけのシーンの長さ。後ろでゆらめくのは流れ星かホタルか。終盤、決定的なことがあった後に家の扉から離れていくズームアウトとかもとにかくうまいなー、な映画でした。

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