現パロ同棲メテスキとポンペイウスくん
「犬が何年生きるか分かってて言ってます?」
心底呆れた、というには毒気のない顔で言われ、勿論知っているとスキピオは頷いた。ポンペイウスはどこか遠くを見る目つきをした末に、何か危ないものを窺うようにこちらを見る。
「この家で飼うわけ?」
「他にどこがあるの」
「あんたひとりで決めちゃってない?」
「相談してるよ。小型犬は嫌なんだって」
ああそう……と漏れる声は弱々しい。犬は生家でも飼っていたしスキピオにとって馴染み深い生き物だ。いつか飼いたいと思っていたし、いまが良い機会と思ったのだけれど、こうも困惑されると見落としがあるのかと思う。ポンペイウスは別にそういう心配はしていないと言いながら口元を隠すように頬杖をつく。
「思ったより長続きしてるとは思ってたけど仲良く暮らしてるなら何よりというか」
「何の話?」
「いやいや……犬の親権争いで裁判沙汰にならないでくださいよ」
別に所有権を争うつもりはない、二人の犬になるだろう。そう答えるとポンペイウスはやけに穏やかな顔で頷いていた。
雰囲気メテスキ
引く波が連れ去る砂が足を撫でた。その感触に眉を寄せ、輝くばかりで熱のない日差しと、海からやってくる匂いのない風に気がつく。視界には、波に足を浸しながら身を屈め、足元の砂に触れる男の姿があった。何かを拾い上げては光に透かし、放ったり握り込んだりしている。これは、と、曖昧さを言葉へと削り出しかけたメテルスを、その男が振り返った。手招かれ、砂を踏んだ足はやけに重い。招いた男は濡れた手に、どうやら貝殻をいくつか握っているのだった。
「ほら」
促され、手のひらを差し出す。幼い頃でさえ喜ばなかった物を差し出されるまま受け取った。五つほどの貝殻のうち薄紅色の小さな巻貝を指差し、これはきれいでしょうと若い男は嬉しげに笑う。彼が若ければ貝殻を持つ自分の手も若かった。青年は先程からずっと、こうして浜辺を歩いている。メテルスはそれを追うばかりだった。海は青年の瞳よりずっと薄い色で凪いでいる。
この海を知らない。どこまでも続く浜辺を知らない。また綺麗な貝殻を探し始めた後ろ姿を。
「……連れ出す相手を間違えている」
欠けた貝殻を波間に放った青年は、何も聞こえていないかのように、安らいで笑っている。
shipper/歴史創作(共和政中期ローマ、スキピオ・アエミリアヌス中心)