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雰囲気メテスキ 

引く波が連れ去る砂が足を撫でた。その感触に眉を寄せ、輝くばかりで熱のない日差しと、海からやってくる匂いのない風に気がつく。視界には、波に足を浸しながら身を屈め、足元の砂に触れる男の姿があった。何かを拾い上げては光に透かし、放ったり握り込んだりしている。これは、と、曖昧さを言葉へと削り出しかけたメテルスを、その男が振り返った。手招かれ、砂を踏んだ足はやけに重い。招いた男は濡れた手に、どうやら貝殻をいくつか握っているのだった。
「ほら」
促され、手のひらを差し出す。幼い頃でさえ喜ばなかった物を差し出されるまま受け取った。五つほどの貝殻のうち薄紅色の小さな巻貝を指差し、これはきれいでしょうと若い男は嬉しげに笑う。彼が若ければ貝殻を持つ自分の手も若かった。青年は先程からずっと、こうして浜辺を歩いている。メテルスはそれを追うばかりだった。海は青年の瞳よりずっと薄い色で凪いでいる。
この海を知らない。どこまでも続く浜辺を知らない。また綺麗な貝殻を探し始めた後ろ姿を。
「……連れ出す相手を間違えている」
欠けた貝殻を波間に放った青年は、何も聞こえていないかのように、安らいで笑っている。

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