小ゆきさんのは、故郷である熊本の山鹿に実際にあった話を浪曲化した新作。これ、すごーーーくいい話だった。名作だと思う。大正時代の初め、地元で有名な腕利きの木工職人の木村兄弟。何でもつくりたがる兄が目をつけたのは、まだアメリカから輸入するしかなかったピアノ。ピアノを作ることで、山鹿の物作りの意地と魂を日本中にとどろかせたいと、地元の名士を説得し、やがて後ろ盾を得て日本初のピアノを数十台製作するも、戦争が始まり、金属の材料にするとしてすべてのピアノが徴発されてしまった……かに思えたが……戦後、とある公民館に、由来も知れぬ古いピアノがたった一台、古びた音を響かせていた……というところで終わる。じーんとしたよ、これは。
あと、前半、地元のお嬢様が弾くトルコ行進曲、という設定で、小ゆきさんと曲師の貴美江師匠が阿佐ヶ谷姉妹ばりのティアララルン♪を披露したのはすごかった。ハーモニーばっちり。そういえば、前は歓喜の歌を二人でドイツ語で歌ってたっけ。歌える曲師、只者にあらじ。
勝千代さん、芝浜の革財布をやります、と最初に宣言したとき、思わずサイレント拍手をしてしまった。12月と1月にしかできないから、とおっしゃっていたけど、その2か月でわたしは今日を含めて4回聴けた。嬉しい。勝千代さんしかやらない演目みたいだしね。これでまた12月までお預け。今日はやや短いバージョンだったけど、尋常とは思えない唯一無二の節と圧倒的な声はいつもと変わらず。素晴らしかった。最後に即興の節に乗せて、観客の一年を寿ぐような言葉をうたったのもよかったなー。