2023年5月8日(月) さん喬あわせ鏡~新作部屋~へ

衝撃的な会だった。師匠のサービス精神とチャレンジ精神が炸裂した四席。すべて古典落語の時代背景を使い、もはや古典といっていいような二席はともかく、一席目と三席目のなんとまあ大胆なこと。とくに一席目はキョン師や白鳥師でもやらないような超シュールな一席。この方は本当にエンターテイナーなのだと思い知らされた、素晴らしい会だった。じつは古典部屋だけにしようかとも思っていたんだけど、行ってよかった、大正解!

さん喬「恋の夢」
さん喬「はち巻地蔵」
~仲入り~
さん喬「らくだの馬」
さん喬「こわいろや」
(すべて黒田絵美子作)

さん喬「恋の夢」
のっけからやられた。開演時間になっても幕が閉まっている。するとピアノの前奏から韓国語らしきラブソングが流れ、ほどなく声だけが響いてくる。「こんばんは、柳家さん喬です。皆さんは、胸を焦がすような恋をしたことがありますか?」そのあともいろいろ語っていたのだが、あまりの衝撃によく覚えていない(笑)。とにかく最後は「君が好きだ、君が好きだ、君が好きだ……」のリフレイン。幕が上がると、すでに師匠が高座で頭を下げている。天狗裁き的な「おまいさん、起きとくれよ」から始まり、八五郎は「きみが好きだ」と寝言を言う。だが何のゆめかは覚えていない。女房は卵の黄身の話かと思う。あとは筋書きなどあってなきがごとし。ハチが町なかでいろいろなことをし、様々な年齢の男女の仲睦まじい様子をみるたびに顔がでれーッとなって「いいなぁ……」そしてラブソングが流れ、しばらくしたらはっと我に返り、音楽もやみ、このくり返し(笑)。最後なんて、とろーんとなって「君が、好きだーーー!!」と、両腕を突き上げて天を仰いで絶叫し、その形のまま、微動だにせぬまま幕がおりていく。もう、わははは、としかいいようがない。キョン師や白鳥師でも、これほどの無茶苦茶はやるまい。

さん喬「はち巻地蔵」
こちらは古典風の心温まる一席。町のお地蔵さん二体に町人がいろいろな願を掛けにくる。そこへ、女房をなくしてから酒びたりですさんだ八五郎が現れる。二体の地蔵は一計を案じ、町人の願いを叶える片棒を八五郎に担がせる。それを通して八五郎に生きる希望が湧き……というお話。願掛け地蔵と鉢巻き地蔵のほのぼのとした語りと、ひとつひとつが古典の小品になりそうな「願いを叶える話」三つに心がほっこりする。

さん喬「らくだの馬」
これがまたすごかった。ちょっとした幕間劇のような短い一席だが、いろいろな古典を継ぎはぎしたような話。出てくるのは(わたしが気づけた範囲だが)高砂や→青菜→寝床→寄合酒→らくだ。最後はかんかんのうが流れ、かんかんのうを踊ったまま下手に消えて行った。いや、なんだったんだこれ!

さん喬「こわいろ屋」
これももう古典の域といっていいような、ホロリとさせてからの心温まる一席。声色で生計を立てる男。ひそかに思いを寄せる娘がいるが、娘の母親が堅気に嫁がせたがっているのを知っている。やがて、身寄りのない男を可愛がってくれていた兄貴分から頼みを受ける。好きな娘がいるが口下手で伝えられないので、お前の声色で俺のふりをして思いを伝えてくれないか。それは自分も思いを寄せるあの娘。恋情より義理をとり、夜陰に乗じて物陰にひそみ、一世一代の声色が始まる……という感じ。最後はハッピーエンドで、温かい気持ちで会場をあとにした。

ふり返ってみて重ねてすごいと思ったのは、マクラでいっさい前の噺をふり返らず、メタ的な客観視もまったくしなかったこと。今日は新作のさん喬に没入すると決めていたのだろう。

シラノ・ド・ベルジュラックが、ちょっと入ったみたいな??

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そういえば、次回のこの会、このタイトルがもう面白そうじゃない? 何やってくれるのか、ワクワク

もちろん。2枚目の写真は購入済みのチケットだよん。なんか宝塚みたいだよね(笑)

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