“アフリカ分割以降の植民地支配のなかで西洋では「文明化の使命」や「白人の重荷」の標語のもとで他者を劣等人種、教化すべき子供、未開人として表象し、支配を正当化してきました。そして、この他者の矮小化をつうじて虐殺をおこなってきたのです。ナチズムもまた、ヨーロッパ内にユダヤ人という〈内なる他者〉を見出し、ユダヤ人やロマ(他称では「ジプシー」)といった他者を人種主義的な言説のもとで排除し、最終的にはその存在の抹殺にまで突き進みました。”
“文明と野蛮の構図のもと、他者を〈野蛮〉と表象し、他者から人間性を剥奪するその言説の効力は、「新大陸」のインディオ虐殺からユダヤ人ジェノサイドまで変わりませんし、ナチズムの言説がこれまでの〈野蛮の言説〉の素地のうえに成り立っていることはこれからみていくとおりです。”
野蛮の言説 (春陽堂ライブラリー 2)
著者: 中村隆之https://www.shunyodo.co.jp/smartphone/detail.html?id=000000000692
“重要であるのは、西洋における他者蔑視の表象である〈野蛮の言説〉をヒトラー個人に還元せず、西洋植民地主義の明白な帰結のうちにヒトラーの思想をも位置付けることです。そのことを確認すべく、飽くことなくエメ・セゼールの『植民地主義論』(一九五五年)の次の言葉を引用しておきます。
「ヒトラーか? ローゼンベルクか? いや、ルナンだ」。”
第一一講 ナチズムの論理と実践
植民地主義からホロコーストへ
野蛮の言説
(春陽堂ライブラリー 2)
著者: 中村隆之https://www.shunyodo.co.jp/smartphone/detail.html?id=000000000692
“〈戦後精神〉とはナチズムを〈野蛮〉の烙印を押すことで、これに連なる言説の系譜を徹底的に批判し、科学的言説の効果を無効化します。(略)ナチズムの言説とは、一八世紀から一九世紀にかけての人種をめぐる科学的言説を基盤としています。とくにその直接的影響は、いわゆる社会ダーウィニズムに求められます。こうして社会ダーウィニズムにまつわる言説はナチに連なる無根拠にして害悪な「似非科学」だと断罪され、忘却
されていくのです。”
“むしろ社会ダーウィニズムからナチズムに至る言説を「似非科学」だとして切り捨てるその〈戦後精神〉あるいは西洋の啓蒙の言説こそが、文明と野蛮の構図のなかで発想される、オーソドックスな〈野蛮の言説〉である、と言えば言い過ぎでしょうか。私たちの取るべき立場は、ナチズムの言説をヨーロッパの土壌から十分な知的養分を得て形成された怪物的な言説だと捉え直すというものです。”
第一一講 ナチズムの論理と実践
植民地主義からホロコーストへ
野蛮の言説
(春陽堂ライブラリー 2)
著者: 中村隆之https://www.shunyodo.co.jp/smartphone/detail.html?id=000000000692