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#ノート小説部3日執筆 お題:犬 

(めっちゃ久しぶりに見たな…)
それを見て僕はまずそう思った。
定期テストで早帰りだった日の帰路。
まだ沈まぬ太陽に照らされるいつもの電柱には『迷い犬』『探してます』と書かれたポスターが貼られている。
迷い犬のポスターなんて祖母の家の近くだとか、アニメだとかではよく見るけど、家の近所では初めて見る。

何故だろう。そんなことを思っているとポスターに妙に惹きつけられた。この時点で何かの運命だったのかもしれない。僕は食い入るような勢いで情報を読み取った。

名前はノワ。真っ黒な毛並みと腹部の白さが特徴的。先日、窓を開けたまま隣人と話していた間に脱走してしまったようだ。犬には詳しくないので犬種は分からない。少なくとも秋田犬ではないだろうな。他には飼い主の電話番号と住所。見つからなければただの個人情報の流出だ。

この写真は遊んでる時に撮ったんだろうな、いきなり逃げたんだからそりゃ大変だろうな。
そんな薄っぺらい感情しか抱いていなかったはずなのに、ポスターの写真を撮っているのに気づいたのは、明日の試験範囲を見ようと写真のアプリを開いた時だった。

翌日、また今日もテストで早帰りだ。ポスターは何事もないようにまだそこに腰を下ろしている。正確には腰を貼り付けているが。友人にこの犬の話はしたが、まぁ僕は高校の中でも一二を争えるんじゃないかというぐらい学校から遠いので、友人が見つけるはずもない。たった1分程の話題にしかならなかった。
早く見つかるといいな、そう思いながら歩を進めていると見覚えのある色が見えた。

…あの犬だ。そんなことあるか?
……と言っても一緒なんだよなぁ写真と。目の前の人間が驚いているにも関わらず、あの犬は寝ている。のんきに路地裏で。

さて、僕はあの犬がノワであることを確認した今、ここからどうするか決めないと家に帰れない。もちろん僕は明日もテスト。得意科目であるにしろ、対策は充分にしておきたい。
だからと言って見つけたのに黙っておくのも胸が痛む。
…仕方ない。電話するか。

ぽちぽちと数字の羅列を入力していく。友人とは専らメッセージ交流なので何気にスマホだと初めてかもしれない。初めてのことが多すぎる。

飼い主とは3コールで繋がった。
「もしもし、あのーノワさん、?見つけました。」
スマホから弾んだ男性の声が聞こえる。
『ほんとですか!?ありがとうございます!!…え、っと…ノワは今どこにいますかね…?』
「今U通りの路地裏で寝てますね。あの、コンビニの近くの…」
『あーあそこですか!今から向かいますが、お時間大丈夫であればお礼させていただきたいのでお待ちいただけますかね、?』
…時間が惜しいが、まぁこうなることは予想していた。待とう。
その旨を伝え、電話を切る。
ノワを見守りながら、丸眼鏡をかけた中学生であろう女子や、保育園のお迎えであろう親子を見送る。

8分程経った時だろうか。同年代の男がやって来る。
「あなたが電話をかけてくださった方ですかね?えっとノワの飼い主ですが…」
「あぁ、はい、お待ちしてました。ノワさん、?はあちらに…」
ちなみにさん付けなのは性別が書いておらず、くんかちゃんか分からなかったからである。
「ありがとうございます!」そう言ってノワに駆け寄る彼に、既視感を覚える。そういえば声も…?
「タク…?」気づいたらそう声をかけていた。タクは僕の幼馴染だ。
とうの昔に引っ越していっただろうになんでいるんだ?
彼はタクというあだ名で分かったのだろうか、小声で僕のあだ名を呟く。
「家…来るか?」
僕は迷うことなく頷いた。

前と同じ家、同じリビングに案内してもらい、麦茶をいただく。8年越しの再会、と言うと聞こえがいいが、タクとは突然会えなくなり、連絡も取れず8年経過しているのだからお互い気まずい。先に口を開いたのはタクだった。
「えーっと…とりあえずノワ見つけてくれてありがとう。助かった。…俺ら、あん時突然の父の転勤で引っ越したんだよ。で、2度目の父の転勤でまた帰ってきた。引っ越し先のままでも通勤出来るっちゃ出来るらしいし、俺もそっちから学校行ってたから別に良かったんだけど、こっちの方が自然多いからいいだろうって…。それで、またここに。」
「あぁ…なるほどね。それにしても、また会えて良かったよ、タク。」
「あぁ、ノワのおかげだな。」

◇────────────◇ 私はK中学文芸部部長だ。中学受験していたことで、父の転勤による転校は免れ、こうして同じ場所で筆を進めることが出来ている。
だが、私には今スランプが来ていた。
ネタが全くもってない。
友人との会話をネタにしようにも身内の話が多いから世に出せないのだ。
そんな時だ。
昔交流を絶ってしまった兄の幼馴染が、うちの迷い犬のポスターを見ているのを見かけたのは。
これはネタにしかならないだろう。
どうにかして彼と兄を引き合わせたい。そう思った。
そこで私はうちの犬を探すことにした。
私としては幸いだが、家族としては何とも言えないことに、近所の方が歩いているところを、野良犬か飼い犬か分からずとりあえず保護してくださっていたようだ。
下手するとどこか保護センターにでも行っていたかもしれないと思うとそれはまあ怖いこと。
近所の方にお礼を言い、犬を一旦誰の目にもつかないように自室へと持ち帰る。
そして翌日、彼が帰ってくるであろう時間に彼の帰路にノワを寝かす。
もちろん彼の家は幼いながらに覚えていただけであり、決してついて行ったりなどしていない。
それにノワを寝かせた後も近くのベンチでちゃんとノワのことは見ている。
流石にネタ集めのためとはいえ、犯罪は犯さない。
想定通り彼が見つけ、電話をかける。多分今の時間帯は兄が出るだろうから、電話が終わった時点で彼とすれ違い、家へと帰る。
後は2人の記憶次第だ。
私は賭けに勝った。
リビングで思い出話やお互いの話に夢中な男2人を置き、私は自室へと大きな収穫を手に去っていった。

#ノート小説部3日執筆 の第15回を7月12日(金)~7月14日(日)の間で開催します!お題を決める投票をこのノートの投票機能で行います。Misskey.ioノート小説部のDiscordサーバーの参加者に募ったお題と前回から繰り越されたお題あわせて10個のなかから一番人気のものを第15回のお題とします。今回は7月14日(日)の24時間の間に公開する運びにしましょう。順位はつけません。一次創作・二次創作問いません。R18作品は冒頭に注記をお願いします。よその子を出したい場合の先方への意思確認とトラブル解決はご自身でお願いします。皆さんの既に作っているシリーズの作品として書いても構いません。ノートに書き込むことを原則としつつ、テキスト画像付きも挿絵つきも可です。.ioサーバーに限らず他鯖からの参加者さまも歓迎いたします。それでは投票よろしくお願いします!

『犬犬』お題:犬 #ノート小説部3日執筆  


「面白いもん拾った」
 先日、同級生の佐藤が、突然メッセージを送ってきた。一体何を拾ったのか本人に聞いてみても、写真を送れと催促しても「とりあえず見に来い」の一点張りだ。そんなことだから、私は仕方なく彼の家を訪ねることとなった。

 我が家から自転車で二十分ほどの、少し古びた二階建ての一軒家に彼は住んでいる。なんで学生が一軒家に住んでるんだとツッコミたくなるが、何回も来ているともう慣れてしまって何も感じない。インターホンを鳴らすと、すぐに佐藤が出てきた。彼は興奮した様子で「早く入れ、早く」とこちらの腕を引っ張って家に、そしてリビングのソファに私を座らせた。
「で、何なんだ。お前の言ってた面白いのって」
 私は呆れた声で彼に尋ねる。今日のような事は、これが初めてではない。佐藤は自分が面白いと思ったものを手当り次第集めては、私に「見に来い」とだけメッセージを送り、それを見せることを生きがいとしている人間である。これまで何十と同じような事があり、そのどれもが偽物か、子供騙しの玩具であった。見ればすぐに偽物と分かる物がほとんどであったが、彼はそのどれもが本物だと本気で信じているため、毎回私がトリックを明かし、彼は騙されていたことに怒り狂い泣くということが恒例行事となっているのだった。
「まあ、見てろって。今連れてきてやるから」
「今回は本物なんだろうな? 前の蛙みたいなのは勘弁してくれよ。宇宙に繋がってる蛙なんているわけないんだから」
「うるせえ! 買ったときは本物だったんだ! ちゃんと宇宙の色してたし」
 彼の言い訳に「あれは塗装だっただろ」と言い返そうかと考えたが、少し涙ぐんでいる彼を見てそれを飲み込んだ。そんなに悔しかったのか、蛙。「とにかく待ってろ」と彼は涙を拭いて先程までの調子を取り戻し、興奮した足取りでリビングを出ていった。

 五分ぐらいだろうか。帰ってきた佐藤が何かを抱きかかえたまま部屋のドアを開けた。それは、犬だった。いや、犬であるはずだった。私は犬に対する知識は人並み以上に持ち合わせている自覚がある。そのため、ソレが何の犬種であるか当てることは造作もないはずなのだ。しかし、私は当てることができなかった。正確には「どの犬種だと断定するべきか分からなかった」と言うべきだろう。
「どうだ。凄えだろ」佐藤が誇らしそうに語る。そう話す彼の腕の中で犬の姿はブレ続けていた。チワワ、ダックスフンド、秋田犬、トイプードル、などなど数えだしたらきりがないほど、姿が変わり続けているのだ。「お前……それ……どこで」震える声で彼に話しかける。「拾った」彼は飄々と答えた。その目は今までに無いほどキラキラと輝いており、彼がこの状況をどれほど楽しんでいるのかなんて言うまでもなかった。
 私はただただ恐ろしかった。今までは遊びだったのだ。彼が騙され、私が解き、それで終わる簡単な遊びのはずだった。しかし、それは遊びの範疇を逸脱した。彼がとうとう「本物」を手に入れてしまった故に。
 
「名前、名前……なんて言うんだ?」
 私は喉から声を絞り出して、彼に聞いた。
「無いんだ、名前」彼が答える。
「無い?」
「だって分からないだろ。犬種がさ」
「そう……だな」
「な、の、で! 決めました、犬種名を!」
 そう言いながら、彼はソレを床に下ろす。すると、トイプードルと秋田犬が混ざったようなソイツは、ゆっくりとこちらに歩いてきた。改めて近くで観察すると、ソレが犬ではないことがよく分かった。姿がブレ続けているからはっきりとは断言できないが、ソレは犬と呼ばれる四足歩行の動物を象った空間だった。平均的な犬のサイズくらいの空間の中に無限にも近い種類の犬の映像が毎秒切り替わり、映され続けている。その中に、一つだけこちらを見続けてくる瞳があることに気がつく。それにはどこか見覚えがあった。たしか、目の前で話している佐藤と同じ――
 
「じゃん!」

 佐藤が突然大きな声を出したため、私は驚いて座ったまま数センチ跳ねた。「ど……どうした」上ずった声で私は尋ねる。
「これが、そいつの犬種名です!」
 そう言って彼は何かが書かれたスケッチブックをこちらに掲げてみせる。そこには「犬犬」とだけ書かれていた。
「けん、けん? いぬいぬ?」
「違う! 『いぬけん』だ。全ての犬が含まれている犬だから、犬犬と書いて、いぬけん」
 彼は鼻息荒くして、それをさらに高く掲げる。正直、そんなことどうでもよかった。私は数分数秒も早く、この恐ろしい状況から立ち去りたくて仕方がなかった。彼にそれがバレないよう、冷静に、ゆっくりと「実はさ」と話し始める。
「これから予定があるんだ。だから、申し訳ないけど今日はここまでってことで、帰ろうと思うんだけど」
「そうなの? つまんねーの」
 彼は肩を落とし、しょんぼりとした様子でスケッチブックを片付け始める。どうやら帰れそうだ、とホッとして荷物をまとめ始めたとき、彼が「いいのか? 撫でて行かなくて」と名残惜しそうに聞いてきた。
「いいよ、もう時間もないし」私は答える。
「いいのか? 本当に?」佐藤が繰り返す。
「佐藤……お前」
「撫でていけよ、お前。いいのか? お前、本当に?」
 佐藤の様子が明らかにおかしくなった。壊れたラジオのように彼は繰り返し、フラフラとこちらに迫ってくる。彼が十分に近づくまで、私は恐怖のあまり動くことができなかった。
 ソファの上で固まって動けなくなっていた私の右手を、彼は物凄い力で掴み犬犬に近づけていった。なんとか逃げようと必死に抵抗するが、それ以上の力で腕が引っ張られていく。あと数センチで犬犬に触れてしまうというところで
「「「「「「「「ワン」」」」」」」」
 と突然犬犬が吠えた。まるで七匹くらいの犬が混ざったかのような声だった。一瞬だけ佐藤の動きが止まる。同時に、私は全力で彼を振り払い、弾かれたように玄関に向かい、逃げるように自転車を走らせた。

 翌日、佐藤からメッセージが届いた。「犬犬がいなくなった」とだけ書かれていたそれを見て、私は日常が戻ってきたのだと少し安心した。先日のことを聞いてみると、犬種名を発表したところから記憶が曖昧になっていると返ってきた。自分が何をしたのか覚えていないとのことだった。しかし、すぐさま「新しいものも拾った」と送られてきた。珍しく添付された写真には、姿がブレているカラフルな蛙と、隣で満面の笑みを浮かべながらピースをしている佐藤が写っていた。

犬の思い出 #ノート小説部3日執筆 

犬を飼ったのは中学生の頃だった。
犬を飼いたいと言った記憶はあるが、むしろ母親が欲しがっていたのだと思う。
父の方は最後まで世話をしろよとか距離をとっていた。

犬を見にいったのは春のこと。
ブリーダーのところでみた子犬は、サークルのなかで眠っていた。
一匹を手に抱くとぐんにゃりとして初めて嗅ぐ匂いがした。
「どの子がいい?」
見ていた私は思う。元気な子がいいと。
ただ一匹おきていて、他の兄弟を踏みつけに伸びをしていた子を指さす。
「ええ、この子の方がかわいくない?」
「この子がいいよ」
母親が見ていた子は小柄で胸に白いマークがあった。かわいい顔だ。
それに対して私が選んだ子は一番デカくて毛が硬く、おっさんのような顔だった。
「そっかー」
母が何を思ったのかはわからない。でも、うちに来たのは私の選んだ子だった。

名前をつけて、ご飯をあげて、その子はもっと大きくなった。
毎朝見るたびにデカくなったなあ……と思う。
サークルの隣にソファがあるのだが、あっという間に手をかけ首を出すようになった。
成犬となると35キロはあった。
こうなると散歩に行っても疲れを知らない。
疲れたと眠るのは川や湖に行って泳いだ帰りくらいのものだった。

大事に飼うんだよという父の言葉とは裏腹に、私は他県に行って面倒を見なくなった。
そのとき世話をしていたのはだいたい母だった。
だけど、犬ははっきり言って母をナメていた。
犬には序列があるという。おそらくだが、私と母は下だったろうと思う。
特に私とその頃生きていた祖母は確実に下で、むしろ世話してやらねばという態度でいた。
それでも、風が吹いてトタンがガタガタいうと4本の足で飛び上がって母の後ろに隠れる。
初めて行く道の前では母の手を鼻で突いて本当に大丈夫かと聞くのだ。
大きい体の割に小心者なやつだった。

でも、この犬を一番かわいがっていたのは父だったと思う。
はじめ、犬は外で飼うんだと言っていたが、夜に玄関に入れるようになった。
玄関から出るなよと言えば手だけ出す。父が戻す。顎を乗せる。
そんな攻防のあと、犬は玄関の主となった。
何せデカい犬だったもので、撫でるというより軽く叩くのを喜んだ。
玄関で犬をトントンと叩く父の顔は幸せそうだった。

その犬も死んで10年になる。
最後は寝たきりになって馬刺しや豆腐しか食べられなくなった。
犬を飼うというのは残酷なことではある。
愛玩動物といえ、人の愛玩のために命を使う、産業動物だ。
それは肉や乳のために生きる動物とあまり変わらない。
一方、動物愛護が流行ってしばらくたつが、虫や細菌の愛護という話は聞かない。
結局、他の命をどうするかなんて人の勝手でしかないのだろう。
それでも、勝手に我が手に取った命を、だいじにしたいというのもまた勝手な気持ちなのだ。

#ノート小説部3日執筆 『いやぁ。$[ruby 犬 うちのこ]と散歩してたら突然――』※芋虫の描写があります! 

「お帰りなさい、ご主人様(コマンダー)!」
リビングの扉を開けるなり、彼はこちらに飛び込んできた。有り余る元気をきつね色の尻尾に込めて、ブンブン振り回している。
「ただいま。お散歩の用意しようね」
「はい!」
元気に返事をして、彼は出掛ける準備を始めた。僕もスーツを脱いで、動きやすい服に変える。

この子は合成半獣。ヒトと動物を組み合わせた人工生命体。その中でも犬の子だ。品種はドグシムというらしいが、その辺を気にするのは野暮だ。
※ドグシム(Dog-xim)イエイヌとパンパスギツネの交雑種
犬の合成半獣は人間によく懐き、言うことをよく聞く。会話もできるので、来客や宅配にも応対できる。家の留守番としては最適だ。

もっとも、僕はこの子を購入したわけでも、まして拾ったわけでもない。ある人から依頼されて、この子を引き取ったのだ。戦う術を持たない“一般市民”には、少々持て余す“戦力”だが。

「今日は中央地区だよね。どこまで行く?」
訊ねられたが、特に決めていない。そう伝えると、彼は事前に目星をつけていた場所を列挙してくれる。
その場所の中から、近くも遠くもない場所を選ぶ。あくまでもこれは“散歩”というテイで行うのだ。

膝上のハーフパンツに、ややオレンジがかったワイシャツ。その上にサスペンダーのように着けられた、紫色のハーネスベルト。彼が外へ出る時のいつもの服装だ。尻尾をふるりと揺らして、それと同じきつね色の耳が、ぴくぴく動くのが見える。
「じゃ、出かけようか」
日が落ちたというのに、玄関の扉を開けると熱気が押し寄せる。こんな中で歩くのは体調に良くないが、日中の茹だる暑さに比べればマシだ。

――
さて、彼が目星をつけていた場所が近くなってきた。町の中ではそこそこ広い公園だ。入って軽く見渡すが、特段おかしいところはなさそうだ。
「ふむ……パッと見は普通だねぇ」
あいにく一般人なので鼻が利かないが、妖気とか邪気とか、そういうものがあるらしい。それが分かれば、もう少し上手くやれるんだろう。

公園の真ん中まで来て、もう一度周囲を見渡す。こんな時間だが、まだ遊具で遊んでいる子供や、ボールを壁に飛ばしているテニスっ子も見える。
治安を考えるとだいぶマズいが、少し微笑ましい。
ご主人様(コマンダー)、ベンチの方だ」
彼の目つきが険しくなった。言われた方向に目をやると確かに、横は5m、高さ3mはありそうな芋虫型の怪物がベンチに乗っかっている。暗い色なので、夜の暗さに溶け込んでいたらしい。

この街にはこういうのがよく出る。妖怪であるとか、合成半獣が変質したものだとか、そういうのが。
『――お電話ありがとうございます。月雲市怪異対策部です』
「もしもし、九色稲荷公園に怪物が出て……」
怪しいものを見たら、すぐ通報。一般市民の義務だ。
『報告ありがとうございます。対策部隊がそちらに向かっていますので、巻き込まれないよう、気をつけて退避してください』

通報を終えてもう一度見ても、怪物は殆ど動いていない。というより、動作があまりにも遅い。
こちらには気付いていないようで、目らしきものは子供たちの方に向いている。もぞもぞとゆっくり動く様は、なんというか、かなり気色悪い。

「指示をお願い」
そう言って、彼はハーネスベルトを外す。ベルトの留め具を、どこかから取り出した持ち手に着ければ、それなりに長い鞭の出来上がり。傭犬である彼の武器である。

本来、こういう怪物は専門の人達が処理してくれる。だがどうしても対処にラグがあり、被害が出てしまうこともしばしばある。
だから一般市民の“護身”と称して、事前になんとかしておくのだ。そのための武装、そのための傭犬、そのために居るのが僕達なのだ。
まだだよ(Stay)……、まだだよ(Stay)……」
まずは彼を待機させる。
あくまでも“護身”なので、こちらから先に手出しはできない。襲われそうになる瞬間を狙わなくてはいけない。心苦しい事この上ないが、それで怒られるのは僕らではなく専門の人達なのだ。こちらが言うのはアレだが、理不尽だ。

怪物はずりずりと子供たちに近付いていく。遊具に登っていた子供の一人が気付いたらしく悲鳴を上げた。
出動(Go)!」
僕の号令と共に、彼は駆け出して行く。人間の脚力ではまず出ない速度で。

「食らえッ!」
彼の鞭が鋭い音を立てた。芋虫は一度動きを止める。そして今度はゆっくりと傭犬の方を向いて、縮こまる。芋虫が無理やり速度を出すときの予備動作だ。
走って(Run)!」
走って回避を指定する。彼はコマンド通りに走り出す。芋虫は方向を変えられず、そのままの向きで突進する。
「歩ける?……なら良かった、公園の外まで逃げるんだ」
怪物が離れたところで、僕は子供を避難させる。人的被害があってはいけない。

並んで(Side)。作戦会議をしよう」
植え込みをなぎ倒しながら虚空へ突進していく芋虫を横目に、僕は彼を呼び寄せる。これ以上物的被害を出さないように、戦術を立てねばならない。
あくまでも、退治の人が来るまでの時間稼ぎがメインだ。そしてあくまでも『たまたま散歩してたら怪物がいて、襲いかかられたので正当防衛した』のテイを守らねばならない。

「意外と硬かった。それであの突進だ。当たればひとたまりもないよ」
集合するなり、彼は所感を報告してくれる。考察する上でありがたい。
「遊具や街灯に近付けないように、広い所に誘導しよう。さっきみたいな突進を誘発して、上手く広場に向かわせる。できる?」
「できる!」
とても元気な良い返事だ。
「うん。じゃあもう一度……
出動(Go)!」
言うが早く、彼はまた最高速で突っ走る。今度は虫の正面に立ち、そこからゆっくり後ずさる。虫の身体が縮こまったらすぐに引いて、突進を回避する。その後また正面を取り、芋虫をゆっくり目標方向に向けさせる。

何度か繰り返して、公園内の一番広い場所まで誘導できた。
その時。サイレンの音が近付いてくるのに気付いた。怪物退治の部隊だ。あっという間に広場は包囲された。

後は専門家に任せよう。自分達はあくまでも“巻き込まれた一般人”を装うことにしよう。
「さーちゃん、戻っておいで!」
わざとらしく大声で、彼に呼びかける。普段は呼ばずともなんとかなるせいで、この時くらいしか名前を呼ばない。
「どうしろとー!?」
あちらもわざとらしく返してくれた。いつの間にか鞭をハーネスに戻しているあたり、周到である。

――
で、なんやかんやで収束したらしい。僕は早めに事情聴取されていたので、顛末を見ることはできなかった。ちくしょうめ。
「え〜んコマンダー、怖かった〜!」
そして彼も、わざとらしい演技をしながら、無事に帰ってきた。事情聴取でやらかさない限り、巻き込まれた憐れな合成半獣として片付けられそうだ。

「今回の怪異ですが、人間由来の怨念のようです。何か恨まれるような、思い当たることはありますか?」
「全然!一緒にお散歩してたら、突然襲われて――」

#ノート小説部3日執筆 お題:犬 『ボクは〇〇である』:nsfw:DVを匂わせる描写有 

『ポチ』
 と、ボクはそう呼ばれている。答えは簡単。ボクが『犬』だから。
『ご主人様』はボクをポチと呼び、犬用の首輪を与えてくれた。しかもご丁寧に南京錠付きの。首輪の接する面が、すこしかゆいがそういうものなのだと、あの人はいう。
 犬用の皿に盛られた食事を這いつくばって食べる。粗相をすれば、躾をされる。顔や体にあざができても、犬なのだから人間の病院には行ってはいけないのだという。そういうものだから仕方がない。
 ただ、自由に外を出歩けるのはいい。その瞬間だけ、自由になれるから。本当は首輪を外して、誰にも咎められることなく、陽の光の下を歩きたい。好きなものを食べて、好きな人と恋をしてみたい。
 そんな淡い夢も、ボクは犬でポチだから叶うはずもない。
 そう思っていた。
「キミは、ポチっつーよりシドだな」
「お、シド・ヴィシャスか。上手いこと言うね」
 モジャモジャ髪の顎髭のお兄さんと、髪を短く刈り上げた強面のお兄さんが愉快そうに笑う。
 彼らの言う人物にピンとこないので首を傾げると、二人は少しばかりショックを受けたようだ。
「そうか……今の子は知らねぇか」
「だってハタチだぜ。そりゃ知らねって」
 モジャモジャお兄さんは吸っていたタバコを灰皿に置くと、スマートフォンで画像を検索して見せてくれた。
 ツンツンヘアーで革ジャンを着ていて、南京錠付きの首輪をつけている白人男性。イングランドの有名なパックロッカーらしい。
 画像を見せてもらっても、わからないものはわからないので、首を振ると二人は苦笑をした。
「なんにしても、ポチってのはあんまセンスねぇな。それよかシドのが何倍もカッコイイって」
「だな。シドのほうが呼びやすい」
 うんうんと頷きあって、強面お兄さんはボクの前にハンバーグを出してくれた。しかも、ライスとサラダにスープ付き。ナイフとフォークとお箸も。
「俺の飯は美味いぞ、シドくん」
「オレもハンバーグ食いてぇなぁ」
「あるわけねぇだろ、我慢しろ」
 モジャモジャお兄さんの軽口に強面お兄さんは笑う。気安いその関係性に、少し羨ましいと思ってしまい、自分で驚いた。
 もし、ボクがあの人にそんな風な口をきけば、躾を受けることになるのに。そして、カトラリーなんて久しく使っていないので、使い方が覚束ない。
 それなのに、お兄さん二人は少しも怒らない。優しいその雰囲気に、涙がこぼれた。
「ほら、お前の顔が怖いからシドが泣いちまったじゃねぇか」
「バッカ、お前の胡散臭さに嫌気がさして泣いたんだよ。大丈夫だからな、シドくん。コイツ、見た目通りに胡散臭いけど、ただの女好きのバカだから悪い奴じゃないぞ」
『シド』
 と、この二人は呼んでくれる。『ポチ』ではなく『シド』と。
 どうして会って間もないボクに、そうまでしてくれるのか不思議だった。犬だとポチだと、あの人は出会った頃からボクをそう称した。あの人は自分の知り合いにもそんな風に紹介していたから、その知り合いたちもボクをポチと呼んで、犬のように扱った。
 でも、このお兄さんたちはそうしない。
 どうしてなのかと問うと、お兄さんたちは不思議そうに目を丸くして顔を見合わせる。
 そして、
「どうしてもなにも、シドは人間だろ」
 と、声を揃えて言った。
 人間。そう、ボクは人間だ。ポチはあくまであの人が勝手に呼んでいるだけで、ボクにはちゃんと名前がある。
 たかが呼び方ひとつで何を悩んでいたのだろう。悩む必要なんてない。なぜなら、ボクは人間だから。
 暗闇に光がさすと途端に空腹を感じて、グーっと大きくおなかが鳴った。
 それが聞こえたのか、お兄さん二人は声をたてて笑った。
「ほかにも食べたいものがあったら遠慮なく言えよ。全部、コイツの奢りだからな」
「いや……ちょっと、オレ今月は金欠で……」
「いつもだろ」
 情けない声を出したモジャモジャお兄さんを強面お兄さんはジロッと睨む。そして、ボクには優しく微笑んで、好きなの食べていいからと言ってくれた。
 ハンバーグだけでは足りずに、オムライスも食べたいと言えば、強面お兄さんは作ってくれる。スパゲッティも唐揚げも、リクエストにはなんでも応えてくれた。モジャモジャお兄さんはボクがリクエストするたびに引きつったような顔をしていたが、咎めることはしなかった。
 出された料理を全て平らげると、良い食べっぷりだと褒めてくれた。
 嬉しい。心から嬉しいと思ったのは、久しぶりである。
 強面お兄さんが、美味かったかと聞いてきたので、美味かったと応えるとワシャワシャと頭を撫でてくれた。
 手を振り上げられたり、こちらに向けてくるのは躾のために思えて少し怖い。でも強面お兄さんはぶたなかった。小さい子にするように撫でるだけ。
 奢りだと言われたモジャモジャお兄さんも、困った顔をするだけで怒鳴ったり罵倒してきたりはしなかった。
 このお兄さんたちの傍は、心地よい。
 心地よいと感じてしまうと、ゆるゆると眠気がやってきた。
 テーブルに突っ伏して微睡んでいると、モジャモジャお兄さんがソファまで連れていってくれる。
 そしてやや硬めのソファに寝かされて、ポンポンと頭を撫でられた。
「ま、ゆっくりしてけよ。ここは安全だからさ。誰もキミをいじめたりしな……ぶえっくしょん!」
「カッコつかねぇなぁ」
 大きなクシャミをしたモジャモジャお兄さんに、強面お兄さんは呆れたように肩をすくめた。そのやりとりが面白くて、思わず吹き出すと、彼らは安心したように笑う。
「ほーら、ねんねの時間だぞ」
 トントンと胸を優しく叩いてくれる。モジャモジャお兄さんは小さく何かを口ずさむ。きっとこれは、子守歌だ。
 遥か昔の記憶。きっと母と呼ばれる人と父と呼ばれる人が、赤ん坊だったボクを寝かしつけるときに歌ってくれたのだろう。どこか物騒な歌詞だが、それでもモジャモジャお兄さんから向けられるのは、優しい感情だ。母も父もきっとそうだったのだろうか。
 モジャモジャお兄さんの低めの声が、ボクを眠りの底へ導いてくれた。
「ポチ、起きろ! 寝るな!」
 文字通り叩き起こされる。ゴツンと何かに頭を小突かれた。
 慌てて飛び起きると、そこはあの人の家だった。連れ戻されたのかと思ったが、あんなに満たされてたはずの腹が空いているので、さきほどまでの出来事は全て夢だったのだろう。
 ボクをポチと呼んだ人はひどく怒っていて、今にも暴れ出しそうだ。
 なのでボクはその人の足元で、クゥンと鼻を鳴らす。腹を見せると、ようやく機嫌が直った。
 そう、ボクは『ポチ』
 間違っても『シド』ではない。
 でも『シド』という名前に違和感はない。
 台所から何かが焼ける匂いがする。きっとハンバーグだろう。
 でも不思議といい匂いだとは思わない。あの店のハンバーグにはきっとかなわないから。
 あの店とはどの店のことだろう。
 ボクは『ポチ』で『犬』
 でもボクは『シド』で『人間』
 ボクは、どっちだ?

#ノート小説部3日執筆 お題【犬】 

「最後の審判」


 
「眞壁、今週末はちょっと実家に戻るから」
「……なんだと、またか」
「……また、ってまだ2回目だろ……」
 眞壁の不満そうな反応に、ため息をつきながら返す。
「……過去には消滅してる実家がまだあるんだぞ、それに飼ってる犬をモフりに行きたいというかもっふんもっふんにうもれないとそろそろしにそう」
「……お前がだいぶ疲れているということはわかっている」
 連日の激務がようやく一段落し、室賀は動物と触れ合えていないことをここにきて自覚してしまい、とにかく実家で飼っている犬を撫で回したくて仕方がなかった。このもふもふに埋もれたいという欲望を満たさなければ次の厄介事に取り組めるわけがない。



 帰省した室賀は、思う存分に飼い犬のハクを撫で回し、その毛に埋もれていた。真っ白な毛並みのサモエド犬は、撫で回され揉まれ埋もれられても穏やかそうな表情でされるがままである。
 わぁーしあわせー、とご満悦の室賀のすぐ近く、実家に併設されている道場では威勢の良い声が響き渡っていた。
 室賀には二人の兄がおり、どちらも武術の師範位を所持している。今、正に道場で木刀を振るっているのが一番上の兄、|穂高《ホダカ》だった。そしてその木刀を受け流しながら防御に回らざるを得ないのが、なぜか眞壁である。
 室賀の帰省になんとなくついてきた結果がこれだ。
 でかくて白い犬がいる、とそれは嬉しそうに室賀が語るので見たくなったのが災いした。そもそも、室賀の二人の兄との仲は最悪であるにもかかわらず。
 表向きは友好的に迎え入れられたが、室賀、眞壁、穂高、そして二番目の兄、|筑波《ツクバ》の4人が揃った結果、あの日の勝負を決め直すと道場に連れ込まれたのである。
 そして道場の壁際に、正座して待つ筑波もいる。
「……兄上、次に待つ私の為に右半身は無傷で残しておいてください」
「おぉ、筑波。心配には及ばない、ちゃんと左側だけ狙っているからな」
「左様であれば」
 そういう筑波の傍らにあるのは薙刀だ。眞壁は軍人時代は剣術しかやったことがないし、有事の際だいたいは銃を使っていた。ここにあるのは木刀だけでどう有っても生き残れる気がしない。
(……室賀、せめて止めに)
 そう思いちらりと室賀を見るが、彼は白い犬に埋もれていてこちらの状況など全く見えていなかった。
(……無理だな)
「……よそ見とは余裕か、眞壁少尉殿」
「!」
 気が付いた時には世界が逆を向いていた。足をかけられ転ばされたと理解するのに少々、時間を要する。息を切らす眞壁の喉元に木刀が突きつけられ、鋭い眼光が降ってくる。木刀の先端で喉を押され、圧迫感に呻く。
「……次に来たら縦に四分割、横に、二分割にすると言ったはずだが」
「……スライスする気だったか……」
 ぐったりと床に沈みこむも束の間、木刀が引いたかと思えば次は薙刀を持った筑波が静かに歩み寄る。
「……眞壁少尉殿、順番ですので」
「おいまて、連続は無理だ」
「過去、戦場で敵に待ってくれと言われて貴方は待ちましたか? 待たれなかったでしょう、つまり私も待ちません」
 なんて横暴な、と言いかけた真壁を引き上げて立たせたのは穂高だった。
「……用意はいいか」
「よくない」

 眞壁の訴えは聞き入れられず、無慈悲にも第二戦が開始してしまった。


 白くて大きな犬を見に来ただけなのに、勝負を挑まれた眞壁は疲れ切っていた。やっと終わったとふらつきながら犬と室賀の方へ進む。
 犬は突如として現れた他人に警戒を示すが、少し眞壁の匂いを嗅ぐと何もなかったかのように室賀の傍らに戻った。真壁としては威嚇されなくてよかった、としか思わなかったが、穂高や筑波はその様子にかなり驚いたようだった。
 他人には異様に警戒するはずが、よりによって一番警戒してほしい人物を受け入れたからである。それにはさすがの2人も顔を見合わせた。この犬が受け入れたのなら、その事実を自分たちも受け入れた方がいいのだろう、と。

 そして4人で道場から母屋に向かう途中、庭で草を食べていたヤギが眞壁の後ろから不意打ちのごとく強烈な頭突きを食らわせた。せっかく道場からは無傷で生還したはずが頭突きの勢いに耐えられず砂利の庭を転がり、大いに擦り傷を作ることになってしまった。

「……やはり、八木さんの判断が正しかったか」
「……さすが、八木さん」
 |八木《ヤギ》、と呼ばれるヤギは眞壁を一突きして満足したのか、再び庭の草を食べ始めた。

#ノート小説部3日執筆 犬を連れ込んだ飼い主とそれに怒るにゃんぷっぷーの話です(排泄物ネタ注意) 

「浮気にゃー!! ひどいにゃー!!」

 玄関で出迎えてくれたにゃんぷっぷーが泣きそうな声で言うので、俺は呆然と立尽くしてしまった。俺の腕では、ふわふわの白ポメラニアンが舌を出してヘッヘッと言っている。

「いや、これには訳が……」
「犬に浮気するにゃんてー!!」
「ちがくて! 迷い犬! 警察に届けたんだけど夜預かれないって押し付けられたの!」

 せっかく早く帰れたと思ったら、駅からの帰り道にこの白ポメが飛び出してきた。首輪つき、リード付き、飼い犬なことは間違いない。
 交番の場所を知っていたので、白ポメを抱き上げて連れて行ったのだが、担当の警官は書類記入の最中にくしゃみが止まらなくなってしまった。犬アレルギーだったらしい。

「で、明日朝に交番につれてけば保健所に預かってもらえるから、一晩面倒見てくれって」
「保健所じゃ殺されちゃうにゃ!」
「迷い犬はまた別カテゴリみたい。飼い主さんが探してればすぐ連絡つくだろうって」
「ぷにゃあ」

 白ポメは、舌を出してずっと笑っているような顔をしていた。暑いんじゃなくて、基本うっすらハッピーなんだと思う。

「にゃんぷっぷー、サイズ的に噛まれたらまずいから、あんまり近づかないでね」
「ぷにゃあ、でもどこにいてもらうにゃ?」
「とりあえず玄関先に、ドアノブにリード結んでいてもらおうかと……」
「クゥーン……」

 白ポメが切なげな声を上げた。俺の腕から降ろして欲しがるように動く。

「ん? どした? 降りたい?」

 リードを短く持って、にゃんぷっぷーにあまり近づけないようにして玄関先に下ろすと、白ポメはバターになるのではないかと思うくらいその場でぐるぐるぐるぐる回り、しゃがみこんで踏ん張りだした。

「あー!! うんちした!!」
「にゃぷはうんちしないから犬よりクリーンにゃ!」
「比較対象にしてないから!」

 騒ぐ間にも白ポメは踏ん張り続け、やがてすべてを出し切った。

「ああー……でも仕方ないよな、生き物だもんな……」
「おしっこもするかもしれないにゃ」
「とりあえず、片すよ」

 白ポメはスッキリした顔で尻尾を振っている。俺はまだ靴も脱いでいなかったので、ブツを踏まないように注意して靴を脱いで部屋にあがり、とりあえずティッシュとビニール袋を持ってきた。ティッシュでブツを拾い上げてビニール袋に入れ、固く縛る。

「ここにティッシュたくさん敷いとくから、できればここでおしっこしてね……」

 そう言い聞かせても、白ポメは楽しそうに舌を出して尻尾をふるだけだった。

「わかってるのかなあ」
「にゃぷはもしトイレの必要があっても覚える猫にゃ、犬より上にゃ」
「だから比較対象にしてないから!」

 そう言えば、にゃんぷっぷーはよく食べるのに、今の問題と同種の問題は発生していない。

「にゃんぷっぷーはトイレしないの?」
「にゃぷはMisskeyのアイドルだから、トイレなんて行かないのにゃ」

 にゃんぷっぷーはえっへんと胸を張った。にゃんぷっぷーの謎が深まった。
 とりあえず、白ポメにはにゃんぷっぷーのカリカリと水を出し、リードを玄関のドアノブに縛り付けて玄関先で寝てもらう事にした。

「ほーれ、特別にクッションを貸してあげよう」

 白ポメを床に寝させるのもかわいそうなので、俺の椅子に敷いてるクッションを持っていってあげた。にゃんぷっぷーがむくれるので、なで倒しておく。

「にゃんぷっぷーが一番だよー、そんなに拗ねないでよー」
「もっとかわいがるにゃ」
「最高! かわいい! 世界一!」

 白ポメはよく食べよく飲んで素直に寝て、翌朝も至ってご機嫌だった。おしっこもティッシュの上にしてくれていた。

「出勤前に交番に連れてくよ」
「飼い主さん見つかるといいにゃ」

 交番に行くと、書類記入のときとは別の警官が対応してくれて、あとは預かるとのことだった。別の交番に、犬を探しに来た人がいて、多分その人が飼い主とのことで、よかった。
 しかし、にゃんぷっぷーがあんなに嫉妬するとは思わなかったな。にゃんぷっぷー、結構俺のこと好きでいてくれるのかもしれない。

#ノート小説部3日執筆
投稿スタートですよー!
[参照]
小林素顔@C105 月-西お14b「厚顔堂」🔞  
#ノート小説部3日執筆 第14回のお題は「犬」に決まりました! 今回は7月11日(木)の24時間の間での公開を目標としましょう。作品はノートの3000文字に収まるように、ハッシュタグの#ノート小説部3日執筆 のタグを忘れずに! [参照]

#ノート小説部3日執筆 犬神であるわらわは、サグチキンカレーが食べたかったのじゃね……/お題「犬」 

(えっ、犬が一位なの?)

 日曜日の夜、TRPGのゲームマスターを終えて、ミスキーに戻ったわらわの目の前に、小林先生の第14回の投票アンケートの結果報告が舞い込んできましたのじゃね。

(ええ~、何を書けばいいんだろ~)

 犬小屋の机の前で頭を抱えるわらわ。
 このお題を提案したのは「わらわ」なんだけど、別に内容とか特に決めてなかったのじゃね。

(わらわはいぬだから、わらわについてかいていいかな~)

 なんてノートをしたものの、それはそれとして何を書けばいいのか――わらわは困ってしまいました。

 まぁ、いつも通り飯テロ以外は書かないわけなのですが――

◆◇◆

 というわけで、困りに困ったわらわは近所のインドカレー屋に向かったのじゃね。
 犬小屋から歩いて2分で着くそのカレー屋は、今年の3月くらいにできたばかりの、清潔感の溢れるお店なのじゃね。

 入店して席に着くと、顔立ちからインド人とわかるおじさんが、お水を持ってくるので、チーズナンセットでサグチキンカレーを注文するのじゃね。
 辛さは普通、ソフトドリンクはラッシーを頼むのが、マイルーティン。毎度毎度指をさして、注文するのはご愛敬。

 で、ちょっと待ってると、わらわの前にドリンクと、千切りキャベツに黄色いドレッシングがかかったサラダが出てくるのじゃね。

 机の左側に備え付けられている箸箱からフォークを取り出して、ざくざくとサラダへ振り下ろして準備完了。
 それでは、飯テロ文学の構文にならいまして、すっと一口――

 うん、おいしい。実にとってもサラダって感じ!!
 しゃきしゃきのキャベツを口に放り込んで、あの謎のちょっと柑橘系の甘酸っぱさのあるドレッシングと一緒にむしゃむしゃ食べるのが、インドカレー屋のサラダって感じで嬉しいのじゃね。

 咀嚼しながらも、ざくざくとフォークでキャベツを突き刺して、ごくりと飲み込んだらもう一口。
 さくさくさくさくと、口の中で野菜のみずみずしさを弾けさせていると。
 いつしかサラダは無くなってしまうのじゃね。

 あ、わらわはドリンクは全部終わった後に、飲む派です。

 で、サラダを食べ終わるころには、だいたいカレーがやってくるのじゃね。
 鉄製のおっきなプレートの上には、四つ切で円形のチーズナンと、フォーと野菜が入った鶏ガラスープ。
 そして、上に出所不明のオイルがかかった、サグチキンカレーがやってくるのじゃね。
 
 もう待ちきれない――チーズナンを片手に、持とうとして、持てないのがチーズナン。
 焦げの目立つナンのピースを持ち上げると、間に挟まったのチーズがすっと伸びて、なんだかんだ引きはがすのに、苦労するのが醍醐味なのじゃね。

 ナンを少し折り畳み、カレーを掬えるようにしてから、たっぷりとカレーつけて口に運ぶのは大切な話。
 チーズナンの量は決して通常のナンに比べて大きくはない。ちょっとお行儀はよくないけれど、一口ごとにカレーを付けるくらいのイメージで食べないと一枚のチーズナンでインドカレーを食べきることは難しいのじゃね。

 それはそれとして一口。
 初めて、サグチキンカレーを食べた時の衝撃と変わらない味。

 口に入れた瞬間、めっちゃチーズなチーズ味がサグチキンカレーの辛みを程よく中和して、ターメリックやガラムマサラあたりのスパイスとチキンカレーのボディの旨味の調和、チャンネルが違うけど、ありとあらゆるスパイスの奔流が口に広がるオーケストラが如き滋味があふれ出すのじゃね!!
 
 鼻に抜けるのは、ほうれん草の香り――いや、これは本当にほうれん草の香りと言っていいのか?
 正体がわかっていようと、調理次第でこれほどの旨味を引き出せるから野菜はすごいということにしておく。
 併せて、チーズナンの蕩けたチーズの匂い、コリアンダー、クミンの芳醇な香り、そして、ほうれん草の風味風味風味!!
うーん、サグチキン!! 雑な食レポになっちゃうけど、サグチキンカレーには似た味の食べ物は存在しないので言葉の選びようがない。

 とりあえずチーズナンをがっつりと噛みちぎり、かむかむかむ!! もぐもぐもぐもぐ!!
 その瞬間、銀河が見える。あるいは、このカレーはジャパナイズされたインド北部のカレーだからお釈迦様とか見えてもいいかも知れない。
 
 あー美味しい。美味しいんだ。
 チーズが挟まったナンの旨味、鶏肉とスパイスの味わいに加えて、これほどしっかりと風味を主張するほうれん草の旨みの暴力が、脳みそを叩きつけて離さない。
 わらわは、わざとカレーの辛さを抑えているおかげで、殊更サグチキンカレーの旨味という正体不明の領域に脚を踏み入れることができるのじゃね。

 できる限り、カレーをナンへとつけて、もう一口。
 そんなに油っけやとろみのない味わいが嬉しい。口の中で蕩けるチーズの味わいと混じって、旨味という一点で、料理の評価を極限まで引き上げてくる。
 今日、昼に安いご飯を求めて某学食に行ったら、大好きなメニューだったハヤシライスが消滅していて、涙を呑んだこともどうでもよくなる、ビバ、インドカレー……

 忌まわしき記憶を脇に置いて、スープとか飲んじゃう。
 お口直しは、カレーにおいてはとっても大切、同じ味のカレーで満足できるのは学生まで。
 キャベツや鶏肉がちょっと入った鶏がらスープで味変したら、当然カレーをもう一口と行きたいわけですが――

 おっと忘れてた。
 ある程度、チーズナンが無くなったら、器のカレーを食べきる準備をしなければ。

 ここで取り出したるはフォーク。
 器に残ったカレーの中から、チキンの塊を取り出して、先に口に入れてからチーズナンにカレーをつけて食べる――はい、真っ赤な「それでも」が脳内を疾駆する。

(それでも――それでも――それでも――)

(うおおおおおお!! ユニコーン!!)

 キュインキュインキュインキュイン!!
 役物が落ちて、脳内に電撃が奔り、ユニコーンが輝くようなイメージ!!
 勝った勝った、大勝利。チーズナン×サグカレー×チキン本体がマズいわけがない。
 カレー、チーズナンだけでなく、肉の食感が合わさり溶かしこまれた旨味と合わさって、わらわがインドカレーを食べる中で一番好きな時間が來るのじゃね。

 しっかり最後の一滴まで、器からカレーをチーズナンで拭うのは、ある程度経験がいるから初心者にはお勧めできない。

 そして、すべてを食べ終わった後、ラッシーをのんでチルな時間。
 ラッシーはヨーグルトとカルピスをあわせたような味の飲み物。
 胃腸の調子を整えて、辛いカレーを食べたダメージをいい感じに抑えてくれます。

 この辺でミスキーを開きなおし、体温が上がる幸せな感覚を感じながらお水を飲み干して、レジに行くまでが一連のルーティン。
 一食で一日持つし、食べると調子が良くなるので、週に一度くらい参ります。

 店から出たわらわ、悩みは尽きない。
 さてはて、一体なにを飯テロに選ぼうか――

 ふと思い立つ、この内容を飯テロ文学っぽく書けばいいのでは?
 北大路魯山人にすら許されたのだから、こんな感じのエッセイも小なる説として、許されることでしょう。

#ノート小説部3日執筆 お題「犬」 無理くり犬というワードを入れた感ありますが……。むずかし~ 

タイトル「俺の思うビジュー」

 生前、父は有名というほどではないが、そこそこ名の売れた画家だった。ドイツのベルリンにアトリエを構え、豊かで美しく、力強いタッチが魅力の油絵を、何枚も何枚も世に送り出してきた。絵の依頼者は皆こう言う。
『アウグスト・ヴォルフ氏の作品は最高だ』
 最高。すばらしい言葉だ。俺は父を誇らしく思った。思っていたのだ。父が進んだ道を追いかける前までは。
「金がない。何でもいい、絵を描いて欲しいって人いないか」
「ハンス、この前も頼まれたが、そうすぐに見つからないよ」
「ちっ」
 舌打ちとともに、アイスコーヒーの氷がカランっと鳴った。
 俺、ハンス・ヴォルフは全く売れていない画家である。誇りに思っていたはずの父の存在がいつのまにか疎ましい存在となり、父が持っていた才能や名声を否定したくなるほど羨ましいと考えるようになった。最低な人間だ。
 友人ルーカスに舌打ちを打ってしまったことを詫びる。
「別にいいよそれくらい。もっぺん依頼してくれそうな人探してみるよ」
 ルーカスはとある雑誌の編集部に所属している。いろんな人と会う機会は多い。人脈の多さを見込んで絵の依頼を引き込むよう手伝ってもらっている。
「何度もすまないな、ルーカス。……俺そろそろ行くよ。時間くれてありがとな」
 自分の分、アイスコーヒーの精算を済ませ店を出る。
 うまくいかない。ため息をつく。自分の口からアイスコーヒーの臭いが漂う。臭い。口を塞ぎながらアトリエへ帰った。
 次の日、ルーカスがノックしながらアトリエへやって来た。
「ハンス、ハンス! 朗報だ。依頼もらえたぞ」
「ほんとか! 助かる! 画材も買えないほどカツカツだったんだ」
 ルーカスを応接間の椅子に座らせ、コーヒーを用意した。
「にしても昨日の今日で何があった。驚いたぞ」
「ああ急にな、だいぶ前にアプローチした、とあるご婦人から連絡が来たんだよ」
「へえ、どんな絵の依頼だ?」
「犬だよ。愛犬の似顔絵を描いて欲しいそうだ」
「犬? 俺は犬を飼ったことがないからな、出向いて直接見てみないと描ける自信がないな」
 ルーカスは俺の言葉を聞いて少し表情を曇らせる。
「それは難しいかもしれないぞ」
「何故だ?」
「その犬がな、今危篤状態なんだと」
「……そうか」
 もうすぐ亡くなってしまうかもしれないのか。
「犬の写真は預かってある。これで描けるか?」
 渡された写真を見る。白い巻き毛の犬。トイプードルという犬種だろうか。
「ああ。これをそのまま描くことになるだろうが、誠心誠意描くよ。そうだ、忘れないうちに。仲介料だ」
「おう、確かに受け取った。依頼主の連絡先はこれな」
「エリーザベト・ミュラー」
 俺は名前をつぶやいた。ルーカスは念を押すように一言添える。
「政治家の奥さんだ。失礼のないようにな」
「……わかった」
 金になりそうだが、厄介かもしれん。なんとなく、そう予想した。
 依頼主、ミュラー夫人に会い、軽くヒヤリングをした。かけがえのない家族を描いて欲しいとのことだった。犬の名前はビジュー。もう何枚か写真を見せてもらった。
 かけがえのない家族か。犬にそういう感情を抱くんだな。
 アトリエに戻る。服が臭い。獣の臭いがする。ミュラー夫人のお宅、清潔感はあったが臭いが気になった。あれはビジューの臭いか。着替えて画材を準備した。
 早速絵を描き始める。犬。家族か。愛らしさや暖かさをイメージして描いた。目は丸く毛並みはやわらかい。愛らしい、暖かい。やわらかいタッチで描いた。
「これは私の家族ではありません。どこにでもいるただの犬です」
 ミュラー夫人はぴしゃりと言い放った。ダメ出しを食らった。
「これは、失礼しました。描き直します」
 ただでさえ家族である犬が危篤状態なのだ。気が立っているのだろう。もっと、もっと愛らしく、暖かく、見つめられているような、いつまでもここに居る、そう思わせてくれる絵を描いた。
「わたしの子ではありません! 何度言わせるんです、ビジューを描いてください。ああ、ビジュー、ハンスさん、わたしは元気な頃のビジューを残したいのです」
 ミュラー夫人の気持ちはわかるが……。
「もう一度描き直します」
 ……。
 なんなんだ。あのミュラー夫人って人は。うんざりしてきた。画材だってタダじゃない。描き直すたびに金がかかる。
「ちっ、金に余裕があればこんな依頼蹴ってたぞ」
 ああ、臭い臭い、獣くさい。服を着替える。
 犬、犬、犬。不潔、愛玩でしかない存在、人と違う形、生態の奇妙さ、発する鳴き声。俺はやけになって、俺が思うビジューという犬を力強いタッチで描いた。
「すばらしい、かわいい私の家族。最高です、ハンス・ヴォルフさん。ああ、わたしの愛しいビジュー」
 ミュラー夫人は泣きながら絵を抱えている。
 ……俺はミュラー夫人が言っている意味がわからなかった。
「そう言っていただけてうれしいです」
 心にもないことを言う。何もうれしくない。俺はこの絵を皮肉で描いた。それが伝わらなかったのか。虚しさが体を駆け巡る。
 後日、ルーカスとカフェであった。アイスコーヒーを頼む。
「まあ、よかったじゃないか」
「よくない。納得できない。あんなやけになって投げつけた作品が評価されるなんて」
「まあなあ、素人ながらに思うんだが、お前はちゃんとビジューって犬をお前なりに描いたんだと思うよ。どんな意図があったか依頼主に伝わらなくても、それは確かにビジューだったんだと思うよ」
「……」
 頼んだアイスコーヒーがきた。黙って一口飲み込む。
「そんなもんかね」
 犬。俺の思うビジュー、か。確かに愛らしさや暖かさなど、ありきたりなイメージで描いていたが、だからと言って俺のイメージするビジューはいい印象を与えないだろう。
「そんなもんだよ。価値観の違いだろうな」
 鼻でため息をついた。アイスコーヒーの臭いが鼻から抜ける。思わず鼻をつまんだ。
「犬を獣臭いって言うが、俺からしてみればハンスの服に染みついた画材の臭いは少し気にはなってるよ」
 ルーカスはのんびりとあくびをかきながら言った。
 アトリエに充満する画材の匂いを思い出す。あれはいい匂いだ、子供のころから嗅いできた匂い。
 こんな形だったけど、最高って言ってもらえたよ、親父。
 父を疎ましく思っていた感情が、父の才能や名声を羨ましいという考えが、薄れていくのを感じる。
 俺は俺でいいんだろうな。鼻をつまみながら考える。
 今まではみんなが考えるであろう価値観でとらえて作品を描いてきたけど、これからは俺の価値観で描いてみるよ。

『誰にでも尻尾を振る犬の話』#僕らの壊せない三角 #ノート小説部3日執筆 お題:犬 ※セルシアなのでNSFW 

───犬、かぁ。分かった、退屈している女神様のリクエストにお応えして犬の話をするんだけど、ごめんなさい、四足歩行の本物の犬の話は今回はしません。これは、僕が、「犬」だって話。

 僕はダウンタウン育ち。八つ年の離れた多分本当に血の繋がってる兄さんが一人いて、小さい頃はずっとついて回ってた。兄さんの友人グループは少し怖くて、もっと年の近い友人達とつるむようになって、僕の世界は少しずつ広がったけれど、それでもあの街から出ることはあんまり考えていなかった。
 二〇〇七年からの数年間、今までにないくらいの大恐慌だったらしくて、世の中も僕の住んでいたトンネルも冷え切った。デモが起きて、治安が一気に悪くなって、僕は悪い大人に頼り、少しの我慢の報酬にお金を貰う「仕事」を覚えた。兄さんの友人に教えてもらったやり方だったんだけど、兄さんにバレるとめちゃくちゃ叱られて、喧嘩になって、それでもお金って強かったから、そのまま僕は兄さんと疎遠になった。
 兄さんはいつの間にかダウンタウンから居なくなっていた。大人になる前に何とかなる奴と、どうにもならないまま生きていく奴がいるんだと、兄さんの友人が教えてくれた。それで小さい頃の僕は、お金がいっぱいあれば何とかなるのかな、と思ったんだ。

 僕の友人はだいたい同じような境遇の子供達だったんだけど、一人だけちゃんと家のある子がいた。その子のお父さんは楽器屋を営む傍ら趣味で慈善活動をしている人で、手の届く範囲に手の届く幸せを、がモットーだった。その子と仲良くしておけば、お腹が空いた時にはご飯にありつけたから、僕がその子を嫌う理由は何も無かった。その子のお父さん……メーおじは兄さんと違ってしつこいお説教もしてこなかったし。
 そんな感じで楽器屋に入り浸っていた僕らが音楽に興味を持つのはごく当然の成り行きだったのだと思う。
 仲良し同士でバンドみたいなものを組んで、路上で演奏したりもした。持ち出す楽器はさすがに貸してもらえなかったから、僕は体で稼いだ。メーおじは中古の楽器を売ってくれる時に、悪いことして稼いだ金じゃないな? と確認してきて、僕は何のてらいもなく頷いた。誰からも盗んでない、誰も不幸にしていないお金だから、大丈夫。

 僕はラッキーだった。僕はたまたま顔や声が良くて、皆がそれにお金を払ってくれた。一番の大親友は音楽の才能が無いと早々に諦めて、僕らのマネージャーみたいなことをしてくれた。
 それでもお金は幾らでも必要になって、僕は他の子達が余計な心配しなくて済むように、張り切って仕事をした。何でも口に入れてみせたし、体の傷なんて勲章みたいなものだった。
 僕は幸せな子供だった。皆から愛されていた。僕を悪く言う人も、結局僕のことをよく知らないだけだった。一度仕事をしてやれば、掌を返して応援してくれるようになった。
 誰にでも尻尾を振る犬、なんて言われるけど。
 そんな呼ばれ方も、その通りだなぁと思う。
 愛されるって幸せだから。喜んでもらえるって幸せだから。人の笑顔って幸せだから。

 僕はいつしか、人と繋がる時に、自然と体の繋がりも求めてしまう人間になっていた。
 性別も年齢も関係無かった。勿論断られることも多くて、叱られたり遠ざけられたりするうちに、相手を見て落としにかかるように成長はしたよ。
 でも、どうしてもそういうの抜きでは心から信じられない、満たされない。今は無理でもいつかは皆、みーんな、落としたい。下心だと思われるかもしれないけれど、それは僕の根源的な欲求なんだ。

 あ、やっぱり引かれたね、ううん、そんな顔してる。そうだよね、大抵の人は、ただ一人に愛されれば満たされるらしいもの。分からないとも言われ慣れてるよ。大丈夫。
 こういうの、ノン・モノガミーに分類されるらしいよ。そう、ポリアモリーとかね。よくご存じで……でも、僕の場合は正確には「誰でもいい」……違うな、「皆がいい」。僕のこと理解してくれようとする人、僕のこと愛してくれようとする人とは、なるべく親密な関係でいたいんだ。
 だから普通の恋愛は長続きしたことない。始まることも滅多にない。僕は誰にでも尻尾を振る犬だよって、ちゃんと伝えているからね。

 ……え、困ったなぁ。慰められるのは想定外だ。確かに出自が関係無いとは言い切れないけれど、例えば僕のバンド、Arre'Nのドラムの子、知ってる? 彼女なんかは同じような育ちでも僕みたいにはなってない。真っ当なパトロン付けて真っ当な大学にまで通ってる。ダウンタウン出身なのに偉いよね。
 そう、だから今の僕は結局、僕が僕らしく生き方を選んできた結果なんだよ。

 ん? うん、そうだね、今はお金には困ってない。Arre'Nはありがたいことに人気出てるし、仕事……ああいや、音楽の仕事もたくさんある。でも、駄目なんだ。僕はやっぱり普通の人間じゃない。僕と関わる全ての人の、本当の姿を見たくてたまらない……。僕のことを愛してほしくてたまらないんだ。
 そう、僕の女神、あなたのことも……深く、深く知りたいんだよ。
 言い訳じゃないよ! 自慢じゃないけど騙すつもりならもっといい嘘をつけるよ。僕はただ、本当の僕をあなたに教えたかっただけ。あなたに関係を迫っているわけでもない。そりゃ、期待はするけども、僕は諦めてるから……汚いと言われて捨てられるのも、ワンナイトの手頃な相手扱いされるのも平気だから。
 誰かがおいでって言ってくれたら僕は断れない。もう全然、お金のためとかじゃないんだ。僕は僕が求められているということが一番嬉しいし、そのために望まれる役割は何でもする。できる限りね。
 ふふ、ほらね? 犬みたいでしょう。撫でてくれてもいいんですよ。

 ねぇどうしたの、泣かないで。飲み過ぎたの?
 僕は幸せだと言ってるでしょ。愛されたいと願って、本当に愛してもらえることなんて、滅多にないんだから。大丈夫だよ……。
 僕の中の、愛? 皆のことが好きだよ、じゃ通用しない?
 うーん、結局僕は僕のことが一番好きなんだと思うよ。僕自身より優先しなきゃいけない、と思う存在に出会ってない。でもそれって、大抵の人がそうなんじゃないかな……マジョリティとか、マイノリティとか関係なく、さ。
 そんで多分、もし特別な人と出会ったとしても僕は、その人のために全ては捨てられない。その人と特別な関係を築いたとしても、余力で今まで通り恋をしようとするだろう。僕にはそれができてしまうって、知ってしまっているから……。
 救われない? やだなぁ、救いって何? 僕が僕らしく生きられること以上に救いになることってある? 犬に猿の芸を覚えさせて犬が救われるの? 僕にはよく分からないよ。
 あなたこそ、そうやって僕の虚像に無駄に心を痛めるの、もうやめませんか。今の僕を受け入れてくれさえすれば、素晴らしい夢を見せてあげられるんですよ……?

#ノート小説部3日執筆 でノート小説を書くにあたっての相談や質問ができる「Misskey.ioノート小説部」のDiscordサーバーも以下のリンクにご用意してあります。作品の批評や雑談のできるテキストチャットや、お題を自薦いただける会議部屋などもございます。わたくし小林素顔がサーバー管理者なのでお聞きになりたいことがございましたらお気軽にご参加くださいね!

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小林素顔@C105 月-西お14b「厚顔堂」🔞  
#ノート小説部3日執筆 第14回のお題は「犬」に決まりました! 今回は7月11日(木)の24時間の間での公開を目標としましょう。作品はノートの3000文字に収まるように、ハッシュタグの#ノート小説部3日執筆 のタグを忘れずに! [参照]

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小林素顔@C105 月-西お14b「厚顔堂」🔞  
#ノート小説部3日執筆 の第14回を7月8日(月)~7月11日(木)の間で開催します!お題を決める投票をこのノートの投票機能で行います。Misskey.ioノート小説部のDiscordサーバーの参加者に募ったお題と前回から繰り越されたお題あわせて10個のなかから一番人気のものを第14回のお題と...

ギリ間に合ったー!『夢の喫茶店』 #ノート小説部3日執筆 お題:喫茶店 ※#七神剣の森 現パロ時空 

『喫茶アメトリン』
 母さんが満面の笑みで見せてきた半紙にはお世辞にも達筆とは言えない毛筆でそう書いてあった。俺はついに来たかとニヤリとした。
「資金も貯まってきたし、そろそろお店を開こうと思うのよね!」
「……まあ、そのためのこの家だしな。夢を叶えるのか、おめでとう」

 前のアパートを引き払って今の家に引っ越したのが、妹が一歳になるかならないかくらいだったから、もうそろそろ八年になる。一階は何かの店舗だったらしく広々としたホールで、居住区域は二階と三階だった。不思議な間取りだな? と首を傾げる俺と弟に向かって、母さんはうっとりと微笑んだのだ。
「一階はね、そのうち喫茶店にしようと思うの」
「すごい! 毎日プリン食べ放題じゃん!」
「レオンは喫茶店を何だと思ってるんだ……」
「良いわよー、プリンもメニューに入れましょうね!」
 俺を置いて二人ではしゃぐ弟と母さん。まあ、この二人が仲良くやれてるならいいかと俺は当時中学生にしては大人っぽい笑みを浮かべた。

 弟と母さんは血が繋がっていない。
 俺は母さんの連れ子で、弟は父親の連れ子だった。その父親は、妹が生まれる直前に失踪して今も行方が分からない。母さんは何か事情を知っているらしく、「仕方ないの」「大丈夫よ」としか言わなかった。
 当時小学一年生だったレオンの取り乱しようは相当なもので、クリスマスにはサンタさんにパパお願いする! などとゴネていたが、すぐに生まれた妹のカレンの存在が彼を少しだけ背伸びさせた。血は繋がっていないけれど、母さんは弟のことも実子の俺と同じように平等に扱っているし、大切にしている。一番下の妹カレンは、三人から溺愛されて天真爛漫に育っている。こないだは近所のお姉さん達に連れられて都内まで遊びに行こうとしたのでそれは全力で引き止めた。うちの子はまだ八歳だぞ!

「……名前について感想は?」
 母さんからじっと睨まれ、俺は回想から引き戻された。
「アメトリンって宝石だっけ? お洒落で良いんじゃないか」
「アメトリンはね〜、紫色と黄色のバイカラーなのよ!」
「……それって」
 母さんの片割れ。今はいない金髪の……黒髪の母さんが紫色、彼女が黄色ということだろうか。
 怪訝な顔を見せた俺に、あれ? と母さんは首を傾げた。
「分かんない? シオンとレオンのことよ」
「……あ、そういう」
 俺の名前はシオン、漢字で紫苑と書く。レオンは確かにヒマワリみたいな黄色のイメージだし、なるほど紫色と黄色だ。
「あの人について行って帰ってこない方の話をしてるのかと思ったよ」
 つい、口をついて出てしまった。母さんの目が丸くなり、それから悲しそうに歪む。
「……シオン。それは誤解よ」
「どうだか」
「ねぇ……」
「母さん。俺はもう大人だから、真実が何だって黙って頷くくらいのことはできるよ。もし母さんが独りで抱えてるなら俺にも……」
「何もあなたが心配することなんて無いの。皆、やりたいこと、するべきことをしているだけ。私達は何も後悔なんてしてないんだから。
 ……子供のあなた達には迷惑や苦労を掛けるけれど……」
「苦労だなんて……」
 ズルい人だ。そうやって俺が否定するのを見越して話を終わらせようとしている。分かっているのに俺も乗せられてしまう。俺が言葉を濁してひとつ溜息をついた時、

「ただいまー!」
 太陽が差し込んだ。

「……おー、お帰り」
「あれ? 母さんとシオン何してんだ?」
「うふふ、レオンも見て! じゃーん!」
 母さんがさっさと切り替えて弟にも半紙を見せる。
「……ちゃ、アメトリン?」
「ウッソだろお前キッサも読めないのかよ」
「あ、あー! 喫茶ね! キッサテンのやつね!」
「兄としてお前の将来が心配。いくらカメラで食ってくにしろ最低限の常識は……」
「いーじゃん、喫茶店なんて読めなくても店の雰囲気見りゃ分かるんだからさぁ!」
「なるほど……それだわ、レオン。やっぱりあなたは天才ね……!」
 ……天真爛漫は俺以外全員かもしれなかった。

「え、てことは母さんついにお店やるの?」
「ええ、応援してくれると嬉しいわ」
「俺にできることなら何でもするし! バイトもやるよ!」
「俺が入るから猫の手は要らねえよ」
「シオンにはできないことをする」
「ほー? ホテルのカフェでみっちり三年修行した俺に勝てることがあるんですかー?」
「うーん、あー……宣材写真とか? 新メニュー考えたりとか……中学ん時の友達呼んだりとか?」
「野郎の溜まり場にすんじゃねえよ! ……まあ写真は任せた」
「おう!」
 嬉しそうに頷くレオン。母さんは俺と弟を慈しむように交互に眺めた。
「あのね、レオン。喫茶アメトリンのアメトリンは、黄色と紫色の宝石なの。シオンとあなたのことよ。あなたにも手伝って貰えると嬉しいわ!
 多分母さんは接客には向いてないから、基本的には厨房にいると思うの。あなた達がお店の顔になってね」
「……まあ、向いてないと言うか、向きすぎてると言うか……だよな」
 俺は知っている。この人は何よりもお喋りが好きだ。迂闊に店に出すと一生客とくっちゃべっているだろう。常連さん相手ならそれでもいいが、初対面の客にそれをやられると、多分リピートは来ない。
 レオンはピンと来てない様子で首をひねっていたけれど、反対はしなかった。
「よく分かんねーけど、注文取って運ぶくらいはできるよ!」
「おう、それ以上のことはさせねえよ。免許だって要るんだからな」
 となると、見た目の店主は俺か。上質な木製のカウンターの向こうで美味しいコーヒーを淹れるカフェのマスター。
 正直ちょっと、いやかなり、良い。
「お店の雰囲気はね、さっきレオンが言ったのを逆手に喫茶店らしくない感じにしようと思うの! イメージカラーそのまま使って、紫と黄色で店内を……」
「待て待て母さん、さすがに奇抜過ぎる! 俺の木製のカウンターの夢返して!?」
「うん、目がチカチカすると思うぞ!? 喫茶店らしくない感じっていうのは面白いけど、イロモノな店はやめといた方が良いと思うなぁ!」
「奇抜なのはちょっと前に流行った変な食パン屋みたいに一瞬で無くなるのがオチだから!」
 子供二人に否定されて、母さんは何故か嬉しそうに微笑んだ。それじゃあねぇ……といつまでも話が弾む。

 ああ、良いな。
 こうやって俺達は何度でも家族になっていく。
 あるべき人がいなくても、血が繋がっていなくても、同じ夢を共有して、肯定しても否定しても、笑って言葉を交わせる限り、俺達は家族だ。
 ちくり、と心が痛む。
 そんなことを今更実感しないといけないくらい、俺は薄情な人間なのだな、と。
 きっとレオンなら、何の前提も屈託もなく、家族だろ? で終わらせる話なのだろう。

 俺は……やっぱり、カウンターのこちら側で、一人立っているのが良い気がしてきた。

「……よし、やるぞ」
「シオンがやる気になってくれて嬉しいわ!」
 適材適所。お洒落な喫茶店のマスターは、少し影があるくらいがちょうどいいだろう。
 柄にもなく心が弾む。
 プリン食べ放題の店というレオンと母さんの夢は、本当はとっくの昔から、俺の夢でもあったのだから。

#ノート小説部3日執筆 お題:喫茶店。おなじみ(?)彼女と青年の話。少し雲行きを変えて見たかったなどと申しており。 

氷のたっぷり入った背の高いグラスに透き通った緑色の涼し気なソーダ水、その上にアイスクリームを乗せて赤いサクランボをトッピングした飲み物。ひんやりと甘いクリームソーダはもう随分と昔から女性の心を躍らせるらしい。百貨店や劇場の食堂で、パーラーで、夏には紅茶とケーキよりも女性を喜ばせる。
 青年はそんなことを考えながら、対面の彼女を見ている。彼女の好むものは少ないけれど、多くの人間の女と同じように甘いものを好む。綿あめ、かき氷、クリームソーダ。
 平日の昼間の客が少ない古風な喫茶店の窓側の席。彼女は普段の無表情に幽かな笑みを浮かべてクリームソーダを楽しんでいる。ソーダ水をストローから飲んで、アイスクリームを柄の長いスプーンで掬って口に運ぶ。涼し気な夏服の半袖から細い腕が覗いて、外見だけはとても大人しそうな可憐な少女が青年の前で無防備にしている姿は、傍から見たら少々怪しいかもしれないけれど、青年もそんなことは気にしない。
「お嬢、美味しい?」
「うん」
「お嬢はさ、甘いもの好きだけど、そういう……なんか儚いやつが好きだね」
「儚い? そう?」
 彼女は青年の言葉に首を傾げる。
「時間が経ったら、形を保ってられないような感じの、さ」
 綿あめ、かき氷、クリームソーダ。
 ぺしゃんこになってしまったり、溶けてなくったってしまったりするような。
「あなたにはそう見えるのね。あまり変わらないから好きなのよ。すぐになくなってしまわないから。こんな喫茶店も、ちょっと前まではもっとたくさんあったけれど最近は少なくなってしまったわね……」
 彼女は青年と真逆のことを言う。状態ではなく、存在のことを言う。
「ああ……そっか」
 青年は彼女の言葉に納得してコーヒーのカップに口をつける。彼女と青年にとってはまだまだ百年と半分ほどのこの近現代でもあまり変わらないものを彼女は好きだという。
「あなたは、新しいものにすぐ興味を持つから」
「そうやって移り気な新し物好きみたいに言わないでくれる? 確かにお嬢よりはそうかもしれないけどさあ」
「……本当はその方がいいんだと思う……」
 彼女は伏し目がちに可愛らしい色どりのクリームソーダを見詰めて呟いた。
「あのさあ、好きなもの食べてる時くらい難しいこと考えるのやめたら?」
「だって、雨が話し出したのよ」
 頬杖をついて青年が苦笑すると、彼女はもっともな返事をして彼は自分の失敗に気付いた。
「あー……それはごめん。じゃあ、今の話なかったことにして? いったん忘れて? ほら、アイス溶けそうじゃん」
 ほら、と指さすと彼女は少し慌ててスプーンでアイスクリームを掬って口に運んだから、恐らくいったん、その話は保留された。
 その後は、冷房の効いている店内でもゆっくりしていると溶けてしまうアイスクリームとソーダ水を交互に彼女は堪能して、やっぱりほんのり嬉しそうな顔をしていた。美味しいものを口にすると表情が緩んでしまうのは、見た目相応の少女となんら変わりない。彼女を喜ばせるものは多くないけれど、無防備に嬉しそうな顔を見せる彼女を青年は嬉しいと思う。
「お嬢さあ……季節のパフェが桃だって」
「……桃……」
 何気なく手にした別紙のメニューに載っていた写真がまた瑞々しい桃とクリームで可愛らしい姿だったから、青年は何気なく誘った。彼女は鸚鵡返しに呟いただけだけれど、返事をしたということは気になっている証拠だ。興味のないものに彼女は返事をしない。
「頼もうか」
 青年が訊くと、彼女はこくりと頷いたから彼は笑ってひらりと手を挙げて追加の注文をした。満面の笑みを浮かべなくても、彼女が嬉しそうにしていることくらい青年にはわかる。そして、普段はほとんど無表情でなにか考えてばかりいる彼女が年相応の少女のようにたかが甘いものに喜ぶのなら、青年は安いものだと思う。
 あまり変わらないもの。綿あめ、かき氷、クリームソーダ。けれど、一瞬で変わってしまう季節の果物のパフェ。同じく、彼女を少しだけ喜ばせる。
 しばらくして彼女の前に置かれた桃のパフェは瑞々しい果実とクリームと、ムースとジュレでできていて写真よりも美味しそうだった。
「なあ、お嬢。新しいものだって悪くないじゃん?」
 くつくつと笑って青年が言うと、彼女はフォークを手にして桃の果実に刺して青年の方へと向けてきた。
「あなたも食べて」
「ん」
 差し出された桃をそのまま口で受け取ると、彼女は満足そうな顔をした。瑞々しくて甘い桃を食べてしまうと、青年は彼女の手からフォークをそっと奪って「俺にもやらせて」と言った。なんてことはない。彼女に食べ物を差し出されたことなら何度でもあるけれど、青年がしたことはないのだと気付いただけだ。
 パフェグラスの桃とクリームを乗せたフォークを彼女に差し出すと、案外すんなりとそのまま口にしてくれて青年は驚いた。──それから、恥ずかしいと思った。
 少しだけ顎を上げて、フォークから直接桃とクリームを小さな口に受け取る姿。そのまま伏し目がちな長い睫毛の影が落ちる角度で咀嚼している姿。青年が結い上げた髪が肩の上でさらりと落ちた。美しい姿をした少女だということは知っているのに、初めて気付いたような感覚に驚く。普段しないような真似をしたせいだろうか。
「どうしたの?」
 青年の内心を知らない彼女は顔を上げて首を傾げる。長い結い上げた黒髪がさらりと揺れる。
「……なんでもない……」
「へんなの」
 彼女は青年の手からフォークを奪い取り、そのまま自分で食べ始めるのかと思ったら、再び青年にパフェを掬って差し出してきた。それを青年は再び受け取って咀嚼して飲み込んでからテーブルに突っ伏した。
「俺はもういいから、お嬢食べなよ」
「どうしたの」
「なんでもないから、食べて」
 くぐもった声で青年は返事すると、彼女はそれ以上をしなかった。青年の耳には幽かにグラスとフォークやスプーンの触れる音しか聞こえない。その音がどうしてだか心地いい。青年の理解しえない羞恥を次第に宥めていく。
 青年はしばらくして突っ伏してた顔を上げて、頬杖をつくとなんとはなしに彼女を眺めた。いつもは結い上げていない髪が新鮮だが、それでもいつもの彼女だ。ただ、今は制服の少女たちと同じように喫茶店のクリームソーダと季節のパフェを前にほんのりと嬉しそうな表情を浮かべている。
 たった、そんなことが青年に嬉しいことは間違いない。なにが急にそんなに恥ずかしく思ったのは忘れることにした。

#ノート小説部3日執筆 「新天地にて」 お題:喫茶店 

趣味と実益を兼ねて運用しているシステムでコツコツと増やした貯蓄が1000万を超えた時、僕は15年勤めた会社に辞表を提出した。
上司は驚いて僕を引き止めたが、「貯金が目標額に達したので火星に移住して喫茶店を開きます」と正直に伝えると「あー……あれマジで目標達成したのか……馬券で安定して稼ぐとか絶対無理筋だと思ったんだがなぁ、その学習データ俺にも売ってほしいわ」と感嘆して諦めてくれた。
前々から夢を語っていたのが功を奏した形になる。
1000万は地球で喫茶店を開くには心許ない金額だが、火星なら火星移民公団の補助が受けられるため、渡航費用など諸々を含めても充分な金額になる。
尤も、夢を叶える場所として火星を選んだのはただ開業資金が安く済むからというだけではない。
火星産の紅茶に、僕がどうしようもなく魅せられてしまったからなのだった。
火星は元々大気が薄く、寒暖差の激しい不毛の地だった。
しかし火星移民公団による入植計画が本格化し、テラフォーミングが進む中で、火星の気候を逆手に取って火星に適したチャノキの栽培を始めた数寄者がいたのだ。
もちろん地球のように露地栽培というわけにはいかないから小規模なハウス栽培が中心なのだが、平地でありながら簡便にハイグロウンティーの栽培環境が擬似的に構築できることもあり、それは瞬く間に広まった。
こうして火星は地球からの輸入に頼らず茶を嗜める星になったのである。
火星産の紅茶は火星の茜空のように赤く明るい
水色(すいしょく)で、多くはダージリンやウヴァのように青みのある香りを持ち、しかしながら火星の空気ゆえか独特のスモーキーな味わいがある。
惜しむらくは産出量がまだそこまで多くないため地球まで輸出されないことと、火星においても地球からの移民が多いため地球産の輸入紅茶の方が地位が高いことで、僕はそこで敢えて火星産の紅茶に絞った喫茶店を開いて火星紅茶の魅力を広めつつあわよくば一山当てようという魂胆なのだった。
香り高いシィミアマタ、爽やかなゼファーリア、濃厚なアウストラレ。火星三大紅茶と言われるそれらは是非とも一級品を取り揃えたい。
農園のアタリはつけてあるから、あとは仕入交渉次第。
お茶請けとなるスコーンやケーキは、現地でいいパティシエが見つかればいいが、そうでなければ当面は僕が自分で作る予定でいる。こう見えてエンジニアとパティシエのどちらになろうか迷った程度の腕前だ。
それから内装は落ち着いたアンティーク調で、余裕があれば何か物販を置いてもいい。
まだ企画段階にしか過ぎない喫茶店は僕の脳内で大きく夢見がちに広がっていった。
ちなみに店の名前はもう決めてある。
『マリーカ』、僕に紅茶の魅力を教えてくれた初恋の人の名だ。
メイド服姿の彼女は今も僕の待ち受けに設定されている。……いずれ店員を雇えるようになったら制服をメイド服にするのもいいな……いや、さすがにそれは趣味に走りすぎかな?
そんなことを考えながら僕は仕事の引継ぎの傍ら火星移住の手配をし、開業のための諸手続きをし、火星紅茶に合いそうなお菓子のレシピを考えつつ地球での最後の1ヶ月を過ごした。
そして満を持して最終出社日を迎えると、僕はサーバールーム代わりに借りているワンルームだけを残してさっさと火星に渡航する。
待ってろ僕の新天地。赤い大地の紅茶たち。
僕の心は年甲斐もなく浮足立っていた。

おわり

#ノート小説部3日執筆 お題:喫茶店 『レンタル料は1億倍』 

今日は七夕ということで、喫茶Musaでは店内に七夕飾りを設置している。短冊に願い事を書くと、ちょっとしたプレゼントをもらえるのだ。
 今年は上階にある芸能事務所『Office Honor』主催ということもあり、そのプレゼントもタレントからのメッセージカードである。公平を期すために一人につき短冊は一枚。短冊の色は所属タレントのメンバーカラーに対応しており、それに応じたメッセージカードがもらえる、という趣向である。
 告知が前日の夜だったにもかからわらず、開店前から店の前にはファンが列をなしていたので、出勤してきたマスターである増田三紗は仰天したのだという。
 さすがにワンオペは厳しいので、事務所から何人か手伝いを寄越してもらい、なんとか閉店時間を迎えることができたのである。
「死ぬかと思った」
 三紗はぐったりとテーブルに突っ伏す。ブラインドを閉め、入り口のロールカーテンを降ろして鍵もかけたので、余計な邪魔は入らない、店の外では、警備員と事務所の人間がたむろしているファンを『穏便に』追い払う声が聞こえる。
 テーブル席では、大事にした主犯である事務所社長の苺谷衣織が同じように力尽きていた。
 今日は看板猫のムサはいない。人間好きではあるが、客が多くなるとそれだけストレスになるので、家でお留守番をしている。
「苺谷さん、マジで……マジで頼みますよ」
「ああ……はい」
 三紗の言葉に手をひらひらと振って応える苺谷。二人とも
グロッキー状態。話すらも要領を得ない。
 などとグダグタしていると、事務所直通のドアが開く。
「うわ、どうしたんすか!」
 カラリと晴れた夏空のような快活な声が、重苦しい店内に広がる。
「何があったんすか! 大丈夫っすか?」
 テーブルに突っ伏してぐったりしている三紗と苺谷を、それぞれ揺すって声をかける。快活な声の持ち主こと鐘崎惟義もそれなりに疲れているはずなのに、元気いっぱいなのは若いからなのだろうか。
 惟義はどこまでの明るい調子で「忙しかったですもんねぇ!」と言って、声同様に快活に笑った。
「鐘崎は元気だねぇ」
 やや恨みがましく苺谷が言う。
 惟義も苺谷同様にヘルプ要因として駆り出され、接客をしていた。彼の在籍しているアイドルグループ『TEAM CLOCK』はデビューして間もない。まだまだ世間に認知されているとはいいがたいので、そうしたプロモーションも兼ねて、店を訪れた客の応対をしたり、料理を作ったりしたのだ。
 他のメンバーは閉店と同時に帰宅したはずなのだが、惟義は残っていたようだ。
「はい! 俺、元気が取り柄なんで!」
「元気なのは結構だけど、もう少し声のボリュームを落としてもらえると嬉しいかなぁ」
「大人げないですよ……」
 ほぼ八つ当たりのようなことを言い出した苺谷に、三紗は呆れてしまう。しかし、惟義はあまり気にしていないのか、ニコニコとした笑顔を絶やさない。
 しかしながら、惟義の笑顔は見たものをポジティブな気持ちにさせる効果でもあるのだろうか、彼の底抜けの明るい声を聴くと、不思議と気分が上がってくる。
 彼はアイドルになる前、商社で営業をしていたそうだ。その時から常に営業成績はトップで、取引先の人間とすぐに仲良くなっていたらしい。
 この彼の明るさは、きっと一つの才能なのだろうと三紗は思う。
「マスターさん、キッチンってお借りしてもいいっすか?」
「いいけど、なにするん」
「僭越ながら俺がなんかドリンク作らせていただきます」
 任せろと胸をドンと叩く。惟義はキッチンに入ると許可を得てから、冷蔵庫の中を確認した。
 そして、牛乳と卵、砂糖やバニラエッセンス、オレンジを取り出して、調理台の上に並べる。それらをミキサーのなかにまとめて投入して、最後にオレンジを絞ってからスイッチを押した。
 ほどなくして材料が混ざったことを確認すると、それらを二つのコップに移し氷を入れて、三紗と苺谷の前に置いた。
「イギー特製のミルクセーキです。オレンジ入れたんで、疲労回復にいいっすよ」
「ありがと」
「鐘崎、ありがとうな」
 突然の優しさにボロボロだった二人が、感極まった様子でミルクセーキを飲む。やや甘さが強めだが、オレンジが入っているので、そこまでくどさがなく飲みやすい。しかし、その甘さが疲れた体に染み渡り、疲れが取れていくような気さえ感じられる。
「イギーくん、これあとで作り方教えてよ。新メニューにするわ」
「はは、いいっすよ。つっても別に難しくないんで、簡単にできますよ」
「鐘崎ぃ、本当にありがとうなぁ。チークロのみんなにも本当に助けられた」
「おおげさですよ社長。貴重な経験させていただいて、こっちが感謝してます」
 ふふ、と微笑む惟義は普段の陽気さとは真逆の落ち着いた雰囲気を出していた。
 陽気でありながら紳士然としたそのさまは、まるでこの店の店主のようだ。その証拠に、三紗が疲れてほったらかしにしていた食器類を全て洗って所定の位置に戻している。店が営業している間も、キッチンとフロアの両方を行き来して、手が足りていなさそうなところを助けたり、他の人を休憩に行かせて代わりに役割を担ったりとせわしなく動いていた。
 そうした気遣いが、彼が前職で営業成績ナンバーワンだったことに由来しているのだろう。
「イギーくんてさぁ、喫茶店のマスターとか向いてるよ」
「そっすか? じゃあ、この店の隣でやろうかな。社長、隣のビル買い取ってくださいよ。上から下まで俺が喫茶店やるんで」
「喫茶TEAM CLOCKか。そういうコンセプトでイベントやるのもいいかもね。増田、また店借りていい?」
「レンタル料、一億倍払ってくれるんじゃったらいいですよ」
「ぼったくりすぎだって!」
 喫茶MusaはOffice Honoeの一階にある。訪れる客はタレントのファンが多い。そして、事務所に所属しているタレントも利用する。
 マスターの増田三紗は一般人であって芸能の世界の人間ではない。
 喫茶Musaはたとえ一般人と芸能人であろうと、垣根無く冗談を言って笑いあえる、そんな喫茶店なのである。

#ノート小説部3日執筆 #一次創作 $[font.serif 喫茶店の外は気温38℃] 


 喫茶店の店内を流れるBGMでGreen Dayの「Wake Me Up When September Ends」が流れてきて、そうか、この曲ももはや懐メロなのだなと思い返していた。この曲のミュージックビデオは2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件を契機にしたイラク戦争を題材にしていた。YouTubeで見返すたび、世界は何も変わっていないどころか、むしろ悪化しているのではないかと胸が苦しくなる。
 目の前のカップのブラックコーヒーが冷めつつあった。私は猫舌なのでこれぐらいがちょうどよかった。夏の盛り、アイスコーヒーでも良かった気がするが、冷房の効いた店内で何となくホットコーヒーを頼んだのだった。
 通路を挟んでとなりの席で、女子校生だろうか、10代くらいの少女ふたりがボックス席で向かい合って座っていた。お互いにアイスコーヒーとニューヨークチーズケーキを頼んで、少しずつ口に運んで味わっている。ただ、あまり楽しそうな雰囲気ではないのが気がかりだった。
「ケーキ美味しい?」
 ポニーテールの少女が訊くと、三つ編みの少女は少し間をおいてからうなずいた。
「うん」
 それからやはり沈黙が二人の間を流れる。ポニーテールの少女は首を傾げて問いを重ねる。
「どうしたの?」
 すると、三つ編みの少女はキョトンとした表情で問い返す。
「なにが?」
「最近元気ない」
 皿の上のチーズケーキの欠片をフォークで転がしながら、ポニーテールの少女が言うと、三つ編みの少女は俯きがちに首を傾げる。
「元気ないかな、そうかな」
「何かあったわけではないの?」
 ポニーテールの少女が問い詰めるようにも聞こえる語調で訊くが、三つ編みの少女は、心ここにあらず、といった表情を崩さない。
「なんだろう。この世界ってこれから、平和になるのかなって、不安で」
 三つ編みの少女がそう答えて、喫茶店の天井を見上げる。木目の模様の下にぶら下がるライトのシェードはステンドグラスで、いま流行りの昭和レトロを思わせるのだった。
「戦争、またどこかで起きちゃうのかな」
 三つ編みの少女はそう呟いて視線をテーブルに落とし、チーズケーキ刻んで、一口頬張る。ポニーテールの少女は三つ編みの少女をじっと見つめたまま、黙っている。
「地震も多いし、どんどん暑くなるし」
 三つ編みの少女の言葉にも、ポニーテールの少女はやはり応えず、カラン、とグラスが鳴って、二人が氷が融けるほどの時間ずっとアイスコーヒーを飲んでいないことを報せた。
「そうだね。どうすればいいんだろうね」
 ポニーテールの少女がそう言って眉間に皺を寄せて目を閉じる。
「世界、終わっちゃうのかな」
 三つ編みの少女が自分の肩を抱いて言うのに、ポニーテールの少女は目を閉じたまま返事する。
「分かんないけど」
 二人が再び黙って、喫茶店の音楽がEric Claptonの「Change the World」に変わる。他の席の客たちはそれぞれ静かに自分の作業に集中している。私ばかりが集中できずに二人の会話に耳をそばだてているのだった。
「いやになっちゃうね」
 そう言って、ポニーテールの少女がまぶたを開いて、ようやくアイスコーヒーを口にする。すると、三つ編みの少女が抱いていた自分の肩をより強く抱きしめて、絞り出すように声を出す。
「どうする?」
 三つ編みの少女の問いに、ポニーテールの少女はゆっくり首を振る。
「逃げる場所もないし、どうすることもできないね」
 二人はそのまま黙って俯いて、喫茶店のボックス席でも、なにも出来ずにいるのだった。アイスコーヒーのグラスがますます汗をかき、チーズケーキも乾いていくのが見てとれた。その二人に対して、私も何もできなかったのだった。
 彼女たちが生まれるずっと前に、阪神淡路大震災が起き、アメリカ同時多発テロが起き、それらを目の当たりにした私は、彼女たちと同じように、幾度も「世界が終わるのではないか」と思ったりした。実際終わらなかったけれど、ひょっとするといま現在、世界は徐々に終わりつつあるのだろうか、と思うことはたびたびだ。あのときも、いまも、なにも出来ずにいる自分が情けない気もする。
 私は少女たちから振り向いて窓の外に視線を向けた。猛暑日の日差しはアスファルトを焼いていまにもタールが融けそうなほどだった。この、屋外に恐ろしい空気が充満している感じ、そういえば新型コロナの蔓延の時期と同じ感覚だなと思った。家の中に閉じ込められて、他者とつながる手段はインターネットのみ。外出して病気を被れば自己責任。自然に対する人間の無力さを思い知らされる、そんな鋭い日差しの午後。
 手元の折りたたみの日傘を見下ろしながら、私はため息をつく。数年前はマスクが手放せなかったが、今年の夏は日傘が欠かせなくなった。紳士物の日傘が出回るようになったのはこの地球沸騰化のせいなのだろう。新型コロナでリモートワークが普及したように。科学の進歩はいいことだ、置いていかれるものがいなければ。
 私は冷めきったコーヒーをぐいと飲み干して席を立った。俯いて黙り続ける二人の少女を横目に声をかけずにレジに向かうことは、中年男性としての良識だったが、大人としてはどうだったのだろうか。
 バーコード決済ができるというので、スマホをかざして支払いを済ませて、私は喫茶店を出た。いまにも体が蒸発してしまいそうな暑さの下で日傘を広げ、私は日なたばかりが明るい街に踏み出したのだった。

Green Day-Wake Me Up When September Ends
Eric Clapton-Change the World

#ノート小説部3日執筆 の第14回を7月8日(月)~7月11日(木)の間で開催します!お題を決める投票をこのノートの投票機能で行います。Misskey.ioノート小説部のDiscordサーバーの参加者に募ったお題と前回から繰り越されたお題あわせて10個のなかから一番人気のものを第14回のお題とします。今回は7月11日(木)の24時間の間に公開する運びにしましょう。順位はつけません。一次創作・二次創作問いません。R18作品は冒頭に注記をお願いします。よその子を出したい場合の先方への意思確認とトラブル解決はご自身でお願いします。皆さんの既に作っているシリーズの作品として書いても構いません。ノートに書き込むことを原則としつつ、テキスト画像付きも挿絵つきも可です。.ioサーバーに限らず他鯖からの参加者さまも歓迎いたします。それでは投票よろしくお願いします!

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