名古屋の鶴舞公園には、普通選挙法成立を記念した普選記念壇がある。小さな壇と、それを囲うように扇状に配置されたベンチからなる、小さな集会場のようなものだ。
民衆が望む普通選挙の実施、それに護憲運動の高まりを受け、ようやく内閣総理大臣に就いた加藤高明が、その公約に掲げていた普通選挙法の成立を果たしたのは1925年のことであった。
今ではそんなこと知る由もなく、いや、知ってはいてもそのありがたみを感じることもさほどなく、週末になると時折市民集会があるくらいで、あとはベンチを利用して散歩がてら持ってきたお弁当などを頬張る姿が見られるくらいかもしれない。
時は僕の高校時代に遡る。
その頃、受験勉強という体で図書館で勉強するなんてことがよくあったのだが、鶴舞公園には名古屋の中央図書館がある。それで、友達と連れ立っては鶴舞公園によく行っていた。
だが、勉強するというのはただの言い訳で、図書館に着席するや否や、すぐに公園へと出て行ってはあちこちをうろうろしていた。
ある時、平日の昼間っから人だかりがあるのを見つけ近づいてみると、そこには何組もの将棋の対局が繰り広げられていた。多い時で十組、少ない時でも五組は対局が、またそれを観戦するだけの人たちもいて、結構な人数が集まっていた。
つづく
つづき
そこで駒の動きやら定石などについて教わったりした。そのうち今起きている局面がどういう事態で、なんで片方のおじいちゃんがうなだれているのかなんかが分かってきたりして、将棋観戦の面白さが分かってきた。なるほど、プロの唸るような一手じゃなくても、将棋を観るのは楽しいんだ、と。
いや、ちがうな。唸るような一手が指された瞬間にその恐ろしさ素晴らしさに気づけないからこそ、アマチュアのヘボ将棋観戦が面白かったんだなってことか。
ともかく、加藤高明も草葉の陰で喜んでいたと思う。
自分たちが普通選挙法を成立させたことと、のちにおじいちゃんたちが昼間の余暇にわらわらと集まっては、自分の業績を記念した場所で将棋を指していることとは無縁ではないはずだから。
と、まあそんなことを思いながら、古田敦也と平田良介の将棋対決の動画を見たのであった。