つづき
が、僕は将棋を知らなかった。
それよりも僕と友人が持ってきた弁当を開けるとどこからともなく集まってきた野良猫の集団と戯れることに楽しみを覚え、以後何日もそこに通うことになった。猫かわええ。が、その話はまた別の機会に。
だがしかし、猫は気まぐれだ。来ない日もある。猫にも事情があるのは理解するが、会えないとなると途端に暇を覚える。ちぇっと舌打ちをして、仕方がないってんで、そんな日は、知りもしない将棋を見るようになった。
なんでおとっつぁんたちは一手一手に歓声やため息を漏らしてまで、人の将棋を見学しているのか。なんで彼らは毎日毎日自転車に乗ったり歩いてはここにきて、自分たちで持ち寄った盤と駒で何時間も熱戦を楽しんでいるのだろうか。いや、勉強しろよ。
見ていてもよくわからないので、横にいる友達にあれこれ訊いたりすると、その様子を見ていた他の野次馬なおっちゃんが身を乗り出してきてはああだこうだと手ほどきを受けたりなんてこともあった。教え魔はいつの時代もいる。
つづく
つづき
そこで駒の動きやら定石などについて教わったりした。そのうち今起きている局面がどういう事態で、なんで片方のおじいちゃんがうなだれているのかなんかが分かってきたりして、将棋観戦の面白さが分かってきた。なるほど、プロの唸るような一手じゃなくても、将棋を観るのは楽しいんだ、と。
いや、ちがうな。唸るような一手が指された瞬間にその恐ろしさ素晴らしさに気づけないからこそ、アマチュアのヘボ将棋観戦が面白かったんだなってことか。
ともかく、加藤高明も草葉の陰で喜んでいたと思う。
自分たちが普通選挙法を成立させたことと、のちにおじいちゃんたちが昼間の余暇にわらわらと集まっては、自分の業績を記念した場所で将棋を指していることとは無縁ではないはずだから。
と、まあそんなことを思いながら、古田敦也と平田良介の将棋対決の動画を見たのであった。
https://www.youtube.com/watch?v=EtF1EEFzMO8