辻井喬『彷徨の季節の中で』読了。
一言で言えば、青春の蹉跌、家父長制の家に反発し学生運動に打ち込むも挫折する話。幼少期から思い出を綴っていく、著者のデビュー作にして自伝的私小説。
挫折の仕方がバキッと音を立てて折れる感じではなく、カスっと手応えなく折れる感じで、そういう弱い我しか張れない主人公の話です。
主人公は妾の子として生まれ、妾を囲うような父親を憎み、妾に囲われるような母親を疎み、そのような父母の子として生まれた自分を不潔だと厭います。
父親に反抗しようとして仕切れず、その死を願いながらも父親が急な病に陥れば夜中に医者の門を叩きます。
父親は囲った妾の家の女中に手を出し、それに母親は気付いているという、地獄のような有様なのですが、読み心地は意外と爽やかです。それは、主人公が地獄の渦中にありながら、自分の立ち位置を当事者に置かず傍観者に置いているからでしょう。そういう屈折の仕方です。
#読書
文庫本の装幀画が、モネの朝靄の風景画なのですが、そんな感じで芒洋としていて光を眺めているような文章です。
これこれこういうことがあった。私はその時これこれこう思った。とセットになってる文章なので、わりあいにするするっと読めます。