だからこそ、主君への忠義のために家族を殺してしまう「押上植木屋」「郡司兵衛内」で、岡田さんがはっきりと「歌舞伎ってよくわからん」ということを登場人物に言わせているのが、現代に沿わない価値観はここだよなとめちゃくちゃ納得できた。歌舞伎だけではなく古典の現代版上演で理解しがたいのは性差別や人種といった今の社会で話題になる問題よりも、王制とか武士道/騎士道とか儀礼とかじゃない?と個人的によく感じていたので、このメタ的な言及は面白かった。
岡田さんは当パンの中で自分は原典の翻訳をしたのだ、と書かれているのだけど、確かに「翻案」というよりもその言葉が近い印象を受けた。素人ながら、台詞の言葉も歌舞伎の様式の諸要素も、ほぼ一対一対応に愚直に置き換えたのではないかと思う。大向こうまで舞台に取り込んでいたのがすごく面白くて、この慣習も含めて歌舞伎なのだなと思いつつ、歌舞伎の観客と今劇場で観ている観客の連続性をないものとするかのような大胆さにも驚いた。でも、あの大向こうさんを見世物的に眺める感覚は、歌舞伎座に行くのは数年に一度、くらいの人間には結構リアルで、自分の観劇体験を改めて振り返ったりも。