<Day30-3>
Unnamable Booksのドアを開けると奥のほうに人々が集っている気配がした。そちらを目指して行くと、書店にはどうやら裏庭があるらしいことが本棚の合間から伺えた。その裏庭に通じるドアに近い本棚のところに、あの髪型はどこからどう見てもマシュー・ベイカーだろうという人影が! 「Hey Matthew!」と背後から声をかけられて振り向いたマシュー・ベイカーは一瞬だけ驚いたような表情を見せたが、すぐになんのことだか理解したようだ。黒い、生地の軽そうなふわっとした上着にブラックジーンズに黒いブーツ。ちょっとゴスっぽいとかいうんだろうか? 目が独特だ。一応怪しまれないように自己紹介するやいなや志文のことを訊かれる。「なかなかひどい少年時代を過ごしたと言ってたけど、あれほんと?」
いきなりそこかよ、と思うが、彼だけじゃなく、家族全体がとんでもないShit holeのMessだったんだよと教えてあげる。なんだか嬉しそうじゃないか。バイクの動画を見たというから、そうそう、彼はメカニックが本職なんだよと情報提供。ビリヤードじゃないのかというから、あれはスヌーカーといって英国のなにかなんだよと伝えると、サイモンと出会うまでまったく聞いたことも無かったという。
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Unnamable Booksの長髪の店主に弟がマシュー・ベイカーの日本語翻訳者であることを、自己紹介代わりに伝える。この瞬間はもう絵のこととかはどうでもいい。
もしかしたらマシューもランダムな人々の相手はあまり得意ではないのかなという印象を受けたが、話を終えた彼がまたこっちに来てくれる。「サイモンへのプレゼントが増えたの?」というから「サイモンの分と、俺の分もお願いします」と『Sentence』にサインをもらう。「Just write、Happy Birthday」と囁いたら、志文用のコピーにHappy Birthdayと一言添えてくれた。これで誕プレGETのミッション達成。ふと思い立ってカウンターに走り、もう1部購入。Allicetteというややこしいスペルのプエルトリコ人アーティストにもサインをもらう。
主役を独占するわけにはいかないのでそれから二言三言交わして退散しようとしたら「え?」という顔をしてくれたのだが、Bronxの友人が待ってくれているからと伝えて会場の書店をあとにする。実際のところ、その通りの理由で一刻も早くBronxに帰りたい(笑)
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Allicetteはくたくただ。だがこちらもそれなりにくたくたである。
とはいえ今回については今夜が話をできる最後の機会ということで、時間を惜しむようにとりとめもない会話を交わす。
11時になりOdinを散歩に連れ出し、用が済んで帰宅。ハーネスを外すのを待って、おやすみなさい。その前にいくつか重要なやりとり(約束)を交わした気がする。
Allicetteの無人のスタジオの小さな電気が点いてたままなので、またちょっと見学させてもらって、それで見納めにしようかな。
最終夜。
絵を描いていると不思議なことあるなあ。とか、そんなことも思いながら、この旅を終えるべく心の準備をしている。明朝はUberで助かったわ。空港でバイバイとか気恥ずかしくて嫌だからね。こういうときは他の何かよりも強い酒の方が沁みるな。
さてこれから朝まで最後の自由時間。
パッキングしないと。午前1時半ということで、徹夜が正解なのか少し目を閉じるべきなのか微妙。これまで、寝坊、飲み過ぎ、パスポート紛失などで、何度かフライトをミスしている。しょうこ先生からタケノコの写真付きで届いたメッセージが郷愁を誘わなくもない。