寺尾紗穂「日本人が移民だったころ」読了。
かつて日本にも国策として海外移住を推奨していた時代があった。そして戦後日本に引き揚げたものの居場所がなく、再度南米に移住した人もいる。彼らは移民としてどう過ごし、引き揚げ後はどのように生活をしていたのか。労働者が次なる居場所を求め、パラオ、ブラジル、パラグアイなどで得た苦労や喜びを見聞きしたルポルタージュ。
表層的な事実ではなくその人の目線、言葉で語ってもらうことが何より大事だと常々思う。
さまざまな視点から語られていて、彼らの状況や家庭環境によって本当に視線が変わるのだと感じた。
著者の寺尾紗穂さんはミュージシャンとして認識していたので、このような活動をしていたことに驚いた。著者の目線はなだらかで時々鋭く、静かな熱量を感じる。
印象的だったのは、移住先の苦労で語られるのは差別より環境によるものだということ。差別と言って思い出されるのは、引き揚げ後の故郷での差別、入植後の日本人コミュニティ間での新移民への差別。共助よりも自分達と同じ苦労をするべきだと手を差し伸べない人が多かったという。
同じ苦労、同じ苦しみを知らないと同じ場所にいられないなんて、なんて窮屈だろう。
今は「受け入れる側」として話題に上がるけれど、「より良い環境を目指して」移住するということはどの国でも変わらない。歴史の細部を見つめれば、日本にもさまざまな理由で入植した人たちが多くいる。
この本を読めて良かった。