終章、今までどのページにも満ちていた「わたしたち」が姿を消すことで、一気に湿度と密度が低くなることに驚く。語りは異なる「わたしたち」が担っているが、ずっと聞こえていた波の音がいきなり止んだような不安を感じる。それは終章の「わたしたち」も同じであって、わたしたちと「わたしたち」の境目はさらにあやふやになり、また今までささやくようなざわめきを聞き続けていた船の上から、語る立場へと引き出されることで、傍観者から一転、自分が波頭のひとつになった感覚に陥る。作品の大部分を担う「わたしたち」と、終章の「わたしたち」ーーつまり想定されているであろう、ページをめくる”わたしたち”が、同じ海の波の一つであることが強く迫ってくる。素晴らしい作品でした。