いじめられっ子だったけど、ゲームブック的なものを作って遊ばせて熱中させてる間だけは注意が逸れるので、小学校6年間それをやり、創作で生きていく決意が固まった・・・と、いろんなインタビューで答えているのだが、実は俺は最下位ではない。下にもうひとりいたのだ。この話しはほぼ誰にもしたことがない。
彼は知能も身体も弱く、話が通じず所作もおかしい。漫画の模写なんかをよくしていた。
そして彼と俺との社会的な違いは、いじめっ子を楽しませるおもしろい創作ができるかどうか、ただそれのみ。彼らを退屈させれば俺が最下位になる。そういう存在だった。
ある時、彼が突然ゲームブックを作ってきたという。
「きくおのライバルか」「どっちがおもしろいか」「楽しみが増えるのか」ということで、にわかに話題になった。
おそるおそる様子を見にいくと、そこにあったのは、ゲームシステムも名前もほぼこちらの丸パクリ、誰も知らない漫画ネタ、楽しませる気のないゲーム要素・・・誰がどう見てもクオリティが低く、独自性のない、独りよがりの、しかし熱意はそれなりに感じるゲームブックだった。
なぜ突然このようなものを作ったのかと彼に尋ねた。
彼は「僕も、きくおくんみたいに人気者になりたかったから」と答えた。
その瞬間、俺は烈火の如く彼を激詰めした。
余談だけど、俺と、俺のいた社会にとって創作作品とは、「目上の強者を楽しませるために、目下の弱者が必死で考案し、献上するもの」だった。
だからその後の人生で、素晴らしい作品を作ることが美徳とされ、えらいすごいと崇められ、努力といえば創作をすることだという美大生文化を認識し理解するのに、数年以上かかることになる。