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「東京地裁の山口良忠判事(当時三四歳)は、飢えに苦しみながらも法律違反の闇市で食糧を購入することをせず、あくまでも合法的な配給物だけで生きようとした。なぜならば彼は裁判官であり、配給制度を根拠づける「食糧管理法」をもって違法者を裁く立場にあったからであった。現行法によって裁く立場の人間はたとえ生きるためとはいえ、その法を犯してはならない、というおのれの職務に忠実な考え方であった。しかし彼はそれゆえに、その生命を若くして終えざるを得なかったのである。彼は、たとえ悪法であっても法律である以上、裁判官たる自分はそれを守らなければならない、という趣旨のメモを残していたという。
自らの職務の本旨を貫き、それに殉じて、一人間としての生存欲を犠牲にした山口判事。ひたすら頭が下がる。後世に伝えていきたい立派な裁判官である。しかし、切なすぎる。「法のために人があるんじゃない、人のために法があるんだよ!」と訴えたい! 」

—『あぶない法哲学 常識に盾突く思考のレッスン (講談社現代新書)』住吉雅美著

「山口判事だって敗戦後の配給制度や食管法の不合理性は十分にわかっていた。彼が立法者だったら即座に法や制度の改正をしていただろう。しかし、彼は司法の人間だった。然るべき立法過程を経て成立した法律に個人的に不満があっても、それを人々に適用しなければならないし、それならば裁く自分も国民の一人としてそれに服しなければならない。彼は身をもって司法と立法それぞれの責任の重さを示してくれたといえる。
彼の裁判官としての清廉さ、プライドと一貫性には深い尊敬の念を表する。しかし、立法府が機能していない場合には、裁判官が状況に応じて法解釈を変えることや事実上の新たな立法ができる余地があるという考え方もあると彼が知っていたらなぁ、とも思う。」

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