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『十二月の十日』
著 ジョージ・ソーンダーズ
訳 岸本佐知子

10の短編集。いやぁ、面白かった。
どの短編も人間が持つ色んな面が表現されていた。人間のこと嫌いだけど好きだなぁと思ってしまう。
この本は噛めば噛むほど味がする。一度目では気づかなかった味に二度目なら気づくかもしれない。訳者あとがきを読んで意味に気づき、再度読み直した作品もあった。

特に好みだったのは、両親に抑圧された少年が印象的な「ビクトリー・ラン」、薬物実験の人間モルモットとなった「スパイダーヘッドからの逃走」。
そして表題作は胸が熱くなる話だった。

特殊な設定を、想像力を働かせて読むタイプの本。
どれもダメな人間しか出てこないし、基本的にはくだけた雰囲気で、上品なことばかりが書いてあるわけではないけれど、それこそが人間だからなんだかすごく納得してしまった。

心がよく描写されていると思う。主に愛情について。
ろくでもない人間同士でも、その奥底を探ってみればきっと良心のひとつはあるのかもしれない。どうしようもない現実にも救いはあるかもしれない。そういう願いを感じた。

kawade.co.jp/sp/isbn/978430946

愛すべき人間たち。笑ってしまったシーン抜粋。 

"自分たちは負け犬だ、やることなすことうまくいかない。親どうしは大声でどなりあい、こんなひどいことになったのはどっちのせいかでノノシリあう。父親は壁にケリを入れて冷蔵庫の横に穴をあけ、全員昼食ヌキになる。みんなカリカリしすぎて、とてもいっしょに食事するどころじゃない。最悪だ。こんなことがあると人(つまり父親)は、家族なんてものは無意味なんじゃないかとカンぐりだす。父親(おれ)は思う、もういっそ人類は一人で生きてくほうが幸せなんじゃないか、森かなんかで一人ずつべつべつに暮らし、誰も愛さず、自分の蜜ロウのことだけ心配してりゃいいんじゃないか。
今日のおれたちが、まさにそんな感じだった。"
(「センプリカ・ガール日記」より)

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