経鼻胃カメラで食道に穴があいた話、仕事の備忘録でもあるのでまとめて書きました。連投します。
でも悪いことばかりではなく、『鋼鉄紅女』の翻訳でいい仕事をできたのはこの事件のおかげです。下読みの段階で参考図書を2冊設定していて、でもたいてい読むひまないんですが、このときは着手直後に強制入院になったので、もっていたタブレットのなかの本を読むしかできない。入院生活は最高の読書環境でした。ときあたかもコロナ期。4人部屋はカーテンで完全に区切られ、家族の面会はなし。換気のためにドアは常時開放で病院の業務騒音しか聞こえない。絶飲食の24時間点滴なので食事なし、風呂なし、たまにトイレ程度(小のみ)。あとはオムツをはけば噂に聞く某国のオンラインゲーマーが24時間連続ログインする態勢では。ぜんぜんおなかはすかず、ひたすら集中して本を読んでいられるんですよ。
課題図書の1冊は白川紺子『後宮の烏』。とくに第1巻は中国宮廷の服飾描写が濃密で、中華ファンタジーの基本線を習得する目的でした。もう1冊は秋山瑞人『龍盤七朝 Dragonbuster』。中国武侠小説で、陰陽五行説を基礎にした中国拳法をきちんと取材して書かれています。こちらは上下巻なので、計3冊。これをまる1週間の入院中にそれぞれ3周、マーカー引いてスマホで辞書や検索調べ物しながら精読しました。おかげで『鋼鉄紅女』に着手するための頭の準備が完全に仕上がった状態で退院できたのです。
あれ以後あんな理想的な読書環境には出会えていません。われわれは毎年1週間くらいは点滴台につながれて病室読書をすべきではないでしょうか。させてほしい。
日誌を見ると2年前の11月下旬でちょうどいまごろ、家族の命令で人間ドックに行ったときです。胃カメラの先端が途中まではいったところで、あたりどころが悪くて嘔吐反応が起きまして。いったん抜いて、2回目はきちんと胃まではいったものの、少量の鮮血を認めて、さっき傷つけた可能性があると。CT撮ったら食道の脇に白い気泡が映っていて、ああ、穴あいてますね。診断名は縦隔気腫。素人目には肩甲骨くらいの高さで、肺や心臓にまあまあ近いところに感染症の危険があるのを放置できず、即入院。絶飲食(水も飲めない)で24時間点滴、1日3回抗生剤投与を結局5日間続けました。