ヒューゴー賞ショートストーリー部門を全部読みました。
私の暫定1位は任青《还魂》(還魂)です。“Resurrection”, by Ren Qing, translated by Blake Stone-Banks (初出2020, 英訳2022)
徴兵されて前線に送り出されて亡くなった息子が、破損した脳内チップの断片的な情報を元に再生され、老いた母親の家に送られてきます。これは実験でありサービスで、数週間後には〈回収〉される予定でした。部分的に息子の記憶を持ちつつも怪力や未来予知といった異能を発揮する復活者は、他の村人から激しい嫉妬や恐怖を受け、静かに母親と共に家で過ごします。
戦争や全体主義や強大なテクノロジーのグロテスクさを描いた、悲しい名作です。著者の他作品をもっと読んでみたいと思いました。

江波《命悬一线》“On the Razor’s Edge”
オールドスクールな宇宙SF。2028年、中国の宇宙飛行士たちが国際宇宙ステーションの事故から米国の宇宙飛行士たちを救援する危険な時限ミッションに挑みます。特に予想を上回る展開はなく、ピンチや犠牲がありつつ成功します。唯一の女性キャラクタがほぼ助け出される姫のような役割なのも残念です。

ヒューゴー賞ショートストーリー部門候補続き。

鲁般《白色悬崖》“The White Cliff”では、白く巨大な崖のある美しい土地で生きる男が、現実には末期ガンでかろうじて生命維持されており、終末期ケアや家族との最後のコミュニケーションのためにこの仮想世界にいることを知るという筋書き。
感想:叙情的で雰囲気はいいのですが、かなりテンポがゆっくりで、意外な展開などはありません。評判のいい作家なので他の作品も読んでみます。

王侃瑜《火星上的祝融》では、人類が去った後の火星に残されたロボット祝融(火の神の名前)が、埋もれていた探査車・共工(水の神の名前)を発掘し、火星の先住生命の秘密を知り、否応なく共工と戦うことに。二者の戦いの痕跡は、1万年後の遠未来に火星の生命の文明の神話伝承に残るのでした。
感想:人間が一切でてこない、非人間知性体があまり擬人化もされない短編です。サイバーパンクっぽかったり壮大だったりするバトル描写もいい感じです。もう少し短くてもいい気がします。王侃瑜さんの最近の作品は、スケールや状況のエスカレーションが大きくて私の好みです。

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任青《还魂》は中国語原文がリンク先でまるごと読めます。機械翻訳でもそこそこ読めるタイプの語彙と文体だと思う。
mp.weixin.qq.com/s/gCwZYxe3iVK

英訳はGalaxy Awards 1: Chinese Science Fiction Anthologyに収録されています。原文も併録されています。Kindle版は670円くらい。
amazon.co.jp/gp/aw/d/B0BR5Y8Q5

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