続
「坂上君。僕は第三者なんだぜ。僕に君を終身刑にしないという目的は微塵もこれっぽっちも無いよ」
「やっぱり人選ミスじゃないですか」
「僕にとってはパーフェクトさ」
「風間さんの都合なんかどうでもいいんですよ」
「まあ細かいことはいいじゃないか」
「重大です」
「それに、死体を処分するならどうせ分解するだろう? 少しくらい遊んだってバチは当たらないさ」
「十二分に当たりそうですけれど」
「坂上君」
「な、何ですか」
「君は忘れているようだけれど、僕が今通報したら君は捕まるんだよ」
「脅してますか?」
「脅しているねえ」
「……」
「……どうだい?」
「……分かりました、分かりましたよ。でも死体の処分は手伝って下さいね」
「……」
「何で不満そうなんですか。見たいものを見せてあげるから見返りを下さいって話じゃないですか」
「今見逃してあげている時点で十分見返りじゃないか」
「もう五人も六人も変わらないんですよ」
「ヒューッ、言うねえ。分かったよ、それくらいはお茶の子さいさいさ」
「本当にお茶の子さいさいならそっちの方が怖いんですけれど」
「殺人鬼に言われたかないね」
続
「僕以上に良い人選? 坂上君。僕以上に完璧な人間がいるとでも思っているのかい? 僕に泣きついて正解だよ。パーフェクトだ」
「でもあの……風間さんよりは、まあ、……荒井さんとか……」
「でも荒井君はそこで死んでいるじゃないか」
「えっ」
「それ、荒井君だろう」
「…………そう言われればそう、なの、かも、しれません」
「”かも”じゃないよ。そいつは本人だ」
「…………僕が殺したんですかね」
「君が殺したんだよ」
「……何で殺したんでしょう」
「知らないよ」
「……」
「で、だ。坂上君、君はパズルが得意だろう?」
「いえ、別に……」
「そこに五つの死体があるだろう?」
「はあ……」
「これを上手いこと組み合わせて六人分の死体にしたまえ」
「…………はい?」
「簡単だろう?」
「簡単というか、あの、それ、アレですよね?」
「アレ?」
「最近漫画読みました?」
「小説なら読んだよ」
「いやどっちでもいいんですけれど、何ですか、あれを再現したいんですか?」
「丁度死体がたくさんあったからね」
「丁度って」
「実物をこの目で拝んでみたくないかい?」
「………………」
「どうせ罪の重さは変わらないよ」
「変わりますよ」
「どうせ終身刑だよ」
「そうなりたくないから僕は風間さんに泣きついたんだと思うんですけれど」
「坂上君。君、パズルは得意かい? 得意だね?」
「いや別に得意という訳では」
「ここに死体が五つあるだろう?」
「認めたくないですけれど、そうですね」
「随分他人事みたいな言い方をするじゃないか。君が殺したんだぞ」
「いや……まあ……そうらしいですね」
「”らしい”じゃない。君が、”殺した”んだ。これは厳然たる事実だよ」
「……あの、それって本当なんですか? 僕が覚えていないのを良い事に、自分の罪を僕に擦り付けようとしているんじゃ」
「君ねえ。僕はあくまで第三者なんだぞ。それも善意の。君が僕に風間さん助けて下さい人を殺してしまいましたしかも五人も、と泣きついてきたから、後輩を思い遣る心を持ち合わせた超弩級に優しいこの僕がわざわざこんな所まで出張ってきてあげたんじゃないか。それを何だい、本当は僕がやったんじゃないかって? 嘘も休み休みイエーイ」
「ご機嫌ですね」
「イエーイと言う時はダブルピースをしなければいけないという決まりがあるんだ」
「でも、もし僕が本当にこの五人を殺していたとして、風間さんなんかに泣きつくとはとても思えないんです」
「なんか?」
「もし泣きつくとしても、もっと他に良い人選がある気がして」
剪灯新話版の「主人公(喬)が死んだ後、女の霊(符麗卿)と女中(金蓮)と連れ立って悪さをするようになったので、道人に懲らしめられ(以枷鎖押女與生幷金蓮倶到。鞭箠揮扑。流血淋漓。)、裁きを受けた後地獄に落とされる(押赴九幽之獄)」というところですね。
ここは剪灯新話版オンリーで、伽婢子にも圓朝版にも受け継がれていません。なので(死語の)主人公が完全に悪として扱われ/裁かれるのは剪灯新話版のみです。
一方伽婢子版のラストはというと、「墓に引き込まれた主人公(荻原)の死体を僧が発見、その後女の霊と女童と連れ立って歩く様子が度々目撃されたため、主人公の親族がそれを嘆き、一日頓写[※追善供養の為に大勢の者が一日で法華経等を書き写すこと]を行ったところ、霊は出なくなった」という仏教説話らしい終わりになっています。
起き抜けのきゅうり