「山に行くのかい?」
「山に行きます」
「僕は海がいいなあ。こうね、潮風を浴びながらせーのでざぶんと死体を海に投げ捨てるんだ。爽快だろうねえ」
「浮かんできたら困るじゃないですか。それに、投げるところを誰かに見られるかもしれないし」
「誰かに見られるかもしれないのは山も同じだろ」
「海の方が人がいそうじゃないですか? 漁師とか」
「山にもいるよ」
「字が違います」
「見られちゃマズいのは同じさ」
「せーのって言いましたけど、風間さんも一緒に投げてくれるんですか?」
「まさか。君の右手と左手が『せーの』だよ」
「実は死体って重いんですよ」
「僕は力仕事はしない主義でね」
「何でまた埋めるんだい。家に持って帰ればいいじゃないか」
「そんなお土産みたいな言い方あります?」
「そういえば君にお土産があったんだよ。何だったかなあ……」
「どうせ木彫りのマグロとかじゃないですか?」
「木彫りは合っていた気がするな」
「いりません」
「人のお土産を断るもんじゃないよ」
「いらないものはいらないんですよ」
「今度君の家に行った時に置いて帰るよ」
「ゴミを人の家に不法投棄しないで下さい」
「今ゴミって言ったかい? 僕が折角善意で買ってきてあげたものを、いや貰ったんだったかな? ゴミ呼ばわりするとは坂上君、君は天国には行けないよ」
「死体を埋めようとしている時点で天国には行けませんよ」
「それもそうだね」