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「風間さん、死体を埋めに行きませんか」
「いいね。……ちょっと待ちたまえ、今死体って言ったかい?」
「死体って言いました」
「誰の」
「さあ……」
「知らない人の死体かい?」
「知らない人の死体です」
「名前も?」
「名前も」
「そんなことがあるものか。ちゃんと財布の中まで確認したかい? 普通は免許証か保険証くらい入っているものだよ」
「そこまでして調べたくないんです」
「怠け者だねえ。そんなんじゃあ将来碌な大人にならないよ。もっと張り切って調べなよ」
「本当に怠け者だったら死体を埋めになんか行きませんよ。それに、名前を知ってしまったら名前が付いてしまうじゃないですか。死体に」
「そりゃあ、死体ってのは生まれた時から死体って訳じゃないだろうからね。名無しの権兵衛って事はないだろう」
「故人としてじゃなくて、死体として扱うには名前なんか知らない方がいいと思うんです」
「ふうん。君がそう思うなら好きにすればいいと思うけれど」
「付き合ってくれますか?」
「まあ、坂上君の一生分の弱みを握るための時間なら無くもないよ」

「僕がやったのか、とは訊かないんですね」
「そりゃ君がやったんだろう?」
「拾っただけかもしれないじゃないですか」
「拾った見知らぬ人の死体を埋める? 君が? まさか」

「山に行くのかい?」
「山に行きます」
「僕は海がいいなあ。こうね、潮風を浴びながらせーのでざぶんと死体を海に投げ捨てるんだ。爽快だろうねえ」
「浮かんできたら困るじゃないですか。それに、投げるところを誰かに見られるかもしれないし」
「誰かに見られるかもしれないのは山も同じだろ」
「海の方が人がいそうじゃないですか? 漁師とか」
「山にもいるよ」
「字が違います」
「見られちゃマズいのは同じさ」
「せーのって言いましたけど、風間さんも一緒に投げてくれるんですか?」
「まさか。君の右手と左手が『せーの』だよ」
「実は死体って重いんですよ」
「僕は力仕事はしない主義でね」

「何でまた埋めるんだい。家に持って帰ればいいじゃないか」
「そんなお土産みたいな言い方あります?」
「そういえば君にお土産があったんだよ。何だったかなあ……」
「どうせ木彫りのマグロとかじゃないですか?」
「木彫りは合っていた気がするな」
「いりません」
「人のお土産を断るもんじゃないよ」
「いらないものはいらないんですよ」
「今度君の家に行った時に置いて帰るよ」
「ゴミを人の家に不法投棄しないで下さい」
「今ゴミって言ったかい? 僕が折角善意で買ってきてあげたものを、いや貰ったんだったかな? ゴミ呼ばわりするとは坂上君、君は天国には行けないよ」
「死体を埋めようとしている時点で天国には行けませんよ」
「それもそうだね」

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