昨日の研究会ではポール・ベニシュー『作家の聖痕』の訳者の皆さんも多くおられ、そのお話しを伺えたのも自分としては大きな意義があった。文学史研究に社会思想史的な読解を拡充したその歴史的方法論は、フランス文学研究における構造論、記号論の隆盛の沈静化のあと、80~90年代から本格的に受入は進み、21世紀になって再評価は決定的に定着しとのこと。文学研究にとどまらず歴史学でも例えば革命史家フランソワ・フュレがこの再評価に資している。フュレは97年に没したが、死の直前の96年に情熱的なベニシュー論をヌーヴェル・オブセルヴァトゥール誌に寄せた。
ベニシューは17世紀と19世紀文学研究に巨大な足跡を残したが、18世紀啓蒙研究でおそらく彼に匹敵するのは宗教社会学・思想史家のAlphonse Dupont(1905-1990)だろう。巨大な「十字軍神話」研究がその本領だろうが、18世紀啓蒙研究にきわめて独特な光を充て、その影響は深く大きい。その『啓蒙とは何か』(1996)は60年代初頭にソルボンヌ大学で行った文学アグレガシオン用講義(1967に出版)を再録した小著だが、実に濃密でその射程はきわめて深い。やはり序文を(その講義に出席した)フュレが寄せており、
講義が負うところは、彼女自身の口から聞いたことがある。デュプロンの名はまた、G・ベンレカッサ『啓蒙の言語』(現在翻訳を研究会で準備中)にもきわめて印象的に引かれている。最近物故した歴史学者D. ロッシュ(1935-2023)の博士論文の指導者でもあった。