(ケアワーカーがいなくなる?:3)高齢化するヘルパー「60代でも若い」
東京都内でホームヘルパーとして働く伊藤みどりさんは10月、70歳の誕生日を迎えた。
ヘルパーを始めたのは11年前だ。年金収入だけでは家計が苦しく、登録ヘルパーとして週2日、いまも働く。
これまで訪問中の転倒で2度骨折した。ひざの痛み止めを飲み、自転車で1日5軒程度を訪問する。
訪問時間は30分から1時間程度が多い。オムツ交換や入浴介助、食事の支度に水分補給、服薬の手伝い、さらに掃除や洗濯、ゴミ捨ても。息つく間もない忙しさだ。
定められた訪問時間では終わらないため、洗濯機をまわすだけまわし、干す作業は次に訪問するヘルパーに引き継ぐこともある。
4月には乳がんの手術で入院、約1カ月仕事を休んだ。
仕事に復帰後、体にこたえたのは今夏の猛暑だった。経口補水液を持参して自転車をこぐが、めまいがして呼吸困難になった日も。初めて「仕事を辞めたい」と思った。
「ヘルパー『1人でもデモ』をやります」
伊藤さんが自身のSNSでそんな決意表明をしたのは9月下旬だった。それから10月下旬まで週1回、東京・霞が関の厚生労働省前に立ち、マイクを握った。
「ヘルパーで60代はまだ若いぐらい。70代80代が『老老介護』でやっている。なぜか。若い人が生計を維持できない低賃金だからです」
2019年、現役ヘルパーである3人の女性が「ヘルパー不足は国の責任」と訴え、国に損害賠償を求める裁判を起こした。伊藤さんは原告の1人だ。
原告団は20年夏、683人のヘルパーに労働条件を尋ねるアンケートを実施した。年収については150万円台以下が7割近くを占めた。
低賃金の背景として原告側が問題にするのは、キャンセル時の休業手当や移動・待機時間の賃金が十分に保障されていない登録ヘルパーの不安定な働き方、そして事業者が十分な賃金を払えない介護報酬の安さだ。
岸田文雄政権は「分配」政策の柱として、介護報酬などサービスの対価が公的に決まっているエッセンシャルワーカーの賃上げを掲げた。介護職については「月9千円」程度の賃上げを打ち出した。
伊藤さんにも、月2千円の手当が出るようになった。ただ9千円には届かない。
11月1日。伊藤さんら3人のヘルパーが国を訴えた裁判で、東京地裁は国の行政に違法性はないとして、請求を退ける判決を言い渡した。伊藤さんたちは控訴した。
訪問介護事業では常勤ヘルパー2人、登録ヘルパー15人が働いていた。利用者は、周辺の介護事業所に依頼し、引き継いでもらった。
人材難による事業廃止は今回が初めてではなかった。同社協は20年春には、訪問入浴事業から撤退している。退職した介護職員3人の補充ができないことが原因だった。
在宅介護の要である訪問介護。事業を続けられなかったことに、田野井さんは危機感を隠さない。
「介護が必要になってもヘルパーがおらず、誰が自分や家族のケアをしてくれるのか、という時代がすぐそこに来ている」(編集委員・清川卓史)
■ホームヘルパーの高齢化と人手不足
介護労働実態調査(21年度、介護労働安定センター)によると、ホームヘルパーの85.3%は女性。平均年齢は54.4歳で、60代以上が37.6%、70代以上が12.2%を占める。その10年前の同調査(11年度)では60代以上は28.0%だったから、高齢化の進行がうかがえる。
利用状況に応じて労働時間が変動する「登録ヘルパー」が多い、と言われている。ホームヘルパーの有効求人倍率(20年度)は14.92倍に達し、施設の介護職員(3.90倍)と比べても、人手不足が際立っている。